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【1・26後楽園KO-D無差別級戦インタビュー】8年前とはここが違う石川修司「指導者として身についたものがプレイヤーとしての自分にフィードバックされる」

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  • 1・3後楽園ホールにおける次期挑戦者決定4WAY戦を制し、1・26同所においてクリス・ブルックスとKO-D無差別級戦で闘う石川修司。DDT-ユニオンプロレスと所属した頃、4度に渡り獲得したタイトルだが、勝てば8年1ヵ月ぶりの返り咲きとなる(同王座挑戦は6年10ヵ月ぶり)。決戦を前に、クリス戦を熱望した理由、フリーとして古巣のリングに対するスタンス、そして並々ならぬ歌へのこだわりについてなどを聞いてみた。(聞き手・鈴木健.txt)


    絡んでいない選手とやることで自分を
    高められる。そのための通行手形

    ――昨年1月に全日本プロレスを退団し、フリー転身した中で古巣であるDDTのリングにも上がるようになりました。5月のKING OF DDTから始まり、2024年は8大会に出場したわけですが、感触としてはいかがでしたか。
    石川 僕がリングで触れていない選手が増えて、その人たちが中心になっていますよね。樋口とかはけっこうやっているんですけど、その次の世代になるサウナ(The37KAMIINA)の選手たちはほとんど絡んだことがない。そういう人たちの団体になっているなという印象です。その選手たちが自分の考えで新しいことをやろうとしたり、あとはタレントの人がプロレスデビューしたりと新機軸もやっている。でも、懐かしい顔もまだいっぱいいるんで、別の団体に上がっている感覚までにはいかなくて、そこは半々ですよね。雰囲気としては昔のものが残っていて、あの頃とユニットは違えどDDTってやっぱりチームなんだなと思います。両国国技館のようなビッグマッチだと、エンディングに全選手がリング上へ登場するじゃないですか。DDTのファンにとっては当たり前の光景かもしれないけど、全日本でもあまりほかの団体でもやっていないですから。素材が変わっても、DDTらしさは変わっていないんだなって。
    ――長く全日本に在籍し、フリーとなっていくつかのリングへ上がる中で比較の対象を見ることで改めて気づいたような。
    石川 ああ、そうですね。プロレスというパイを相変わらず広げているし。いろいろなものを一つの興行で見せるのは、僕がいた頃と変わっていない。そういう中で、今はフリーとしてDDTに上がっているから、スタンスは当然違ってきます。20年以上プロレスをやってきて、自分の形っていうのはけっこう固まってくる。それを更新したい、ブラッシュアップしたいというのがあって、今の若い世代の選手とやることで実践していくというマインドでいるんです。それをやらなくなった時点で退化すると思うから。
    ――それはDDTに上がる時のスタンスですか、それともフリーとしてどのリングでも同じなのか。
    石川 トータルでは同じではあるんですけど、若干違う部分もあるかもしれないです。DDTとしては僕に外からきた強敵という立ち位置を望んでいるのかもしれないですけど、もともとデビューしたのがここだから、それもちょっと違うよなというのがあって。だから、あくまでも個人としてのやるべきことをやりに来たっていうんですかね。プロレスリング・ノアの「LIMIT BREAK」にも上がっていますけど、そこは自分よりキャリアのある人たちが多く出ていて、俺たちはまだまだやれるぞ!という選手たちの集まりなんです。それに対し、DDTは自分より若くて強い選手たちがいる。そこで自分を高められるかどうかだと思っています。なので、タイトルマッチを前にこういうことを言うのはアレかもしれないけど、ベルトを獲ってDDTをこうしてやろうみたいなものは正直、ないんです。
    ――KING OF DDTでは1回戦でHARASHIMA選手に勝ち、2回戦で樋口和貞選手に敗れ優勝はなりませんでした。
    石川 HARASHIMAさんと1回戦をやった日のメインが、クリスと正田くんだったんです。実はそれまでクリスに関してはあまりピンと来ていなかった。でも見てみたら、けっこう一方的というかボコボコにするぐらいのやり方で勝ったんです。それまでは、楽しいことをやるタイプだと思っていたのが、あの試合で印象がガラッと変わった。こういう激しいこともするんだって興味を持って、そのあと大阪(5・19住吉区民センター、クリス&HARASHIMA&火野裕士vs石川&納谷幸男&入江茂弘)で対戦した時にやってみたら楽しくて、これはシングルをぜひやってみたいなと。このキャリアになると、これから何十年とできるものではないじゃないですか。だから、やれるうちにやっておきたいというのがありましたね。
    ――1・3後楽園のKO-D無差別級次期挑戦者決定4WAYマッチ(vsHARASHIMAvs男色ディーノvsKANON)で勝ったあとにも楽しかったと言っていましたが、具体的にどういう楽しさだったんでしょう。
    石川 M気質なのかもしれないですけどシンドくて痛い思いをした上で勝つというのが、僕がプロレスをやる上での醍醐味なんです。クリスはサイズがデカいので、強い当たりでいけるし向こうも攻撃力があるから、それができるだろうと。その上で、クリスはそれだけのプロレスラーではない。テクニシャンであり、自分にない動きのプロレスもできるし、頭もある。そういう相手だと自分も発想が湧いてくるし、それ相応の攻撃もできる。それを1対1で存分にやってみたいと思いました。
    ――目線の高さは…。
    石川 クリスの方がずっと上です。僕より上にあるのって、全日本では綾部(蓮)くんぐらい。
    ――自分よりも大きな人間を求めたくなるものなんですかね、なかなかいないだけに。
    石川 そうですね。やれないという意味では、二十何年やってきた中で実現できなくて一番痛かったなって思うのがケニー(オメガ)なんですよ。もちろんケニーとクリスは違いますけど、やっておかないと後悔すると思えるという意味では僕の中で同じ存在で。しかも、クリスがチャンピオンでいる時に挑戦できるなんていうのは、今後ないかもしれない。クリスのいい時期というタイミングでやれた方がいいですから。
    ――勝てば8年ぶりの返り咲きになるんですが、かつて自分が持っていたベルト…ベルト自体は新しくなっていますが、そのタイトルにこのキャリアでまた挑戦できることに関してはどう受け取っていますか。
    石川 さっきも言ったように、このベルトを獲ることによってDDTをどうするっていうのはないんです。ただ、日々の練習の中でタイトルマッチがあるから、もう一回バーベルを上げてみようとか、あと1セットやろうってなることが実際にある。自分が持っているものに対しもう1段、2段ギアを上げられる力になるのがベルト。
    ――わかりやすい効果ですね。
    石川 そういう意味で、タイトルマッチだとより調整しやすい、より自分を高められるというのがあります。
    ――もう一度団体の頂点に立ちたいという願望はない?
    石川 うーん、もうそういうキャリアじゃないですからね。でも、ベルトが懸かることで自分を高められる。あとは、ベルトを獲れば今まで絡んだことがない選手との試合が実現しやすくなるというのもありますよね。彼らだって、獲られたとあれば黙ってはいないだろうから、防衛戦の形でシングルマッチがやれる。そのための通行手形としては一番いい。
    ――石川修司vs○○…いくらでも見たいカードがあります。
    石川 今までになかった風景が見られたら面白くなるだろうし。僕からベルトが移ってこの8年の間でチャンピオンになった人たちが、髙木さんのもとでちゃんとやってきたから今のDDTがあるわけじゃないですか。そうやって古巣を成長させてもらったことに対してのありがとういう気持ちもあります。
    ――その一方で、あの時代を知っている者同士でタイトルマッチをやって今のファンに見せたいという思いはありますか。
    石川 それに関しては、遠藤とやりたいと思っていたんですけど…。
    ――NOAHでTEAM 2000 X入りしてしまいました。
    石川 遠藤もカリスマにしても、DAMNATIONで一緒だったことでちゃんとやらないままだったので、今ならDAMNATIONのメンバーともできるんじゃないかって。この前、KANONとは4WAYで当たりましたけど、彼ともシングルでやってみたいし。
    ――現在のDAMNATION T.Aとの関係がどうなっているのかというのは気になっていたんですが、組むよりも対戦を選ぶと。
    石川 ポーちゃんはかわいいからやらないですけど、カリスマとはベルトを懸けてというシチュエーションでやってみたいです。今のDAMNATIONとどうなるかっていうのは、26日のタイトルマッチをクリアしてから見えてくる風景だと思っています。

    全日本時代は歌を封印していた。
    ベルトを獲ったら歌う曲は…

    ――今のところカリスマから「帰ってこい」とか言われていないんですか。
    石川 ないですね。KANONの育成で忙しいみたいで。
    ――12・28両国のメインは見ましたか。
    石川 見ました。シングルのタイトルマッチながら、ユニット同士の闘いになりましたよね。その中で二人がどうやって“個”を引き上げられるかだと思っていました。だからこそ愛をテーマにするという、個人の価値観を前面に出す方向でいったと思うんですけど、そういう闘いは難しいなと思いました。それは否定する意味としてではなく、何をもって愛かってなるじゃないですか。抽象的であるがゆえに、クリスは難しい選択をしたなと思いました。でも、そこで愛をちゃんと語れるのがクリスのすごいところでもあるんですよ。人間、トシをとると愛を言葉にするのが恥ずかしくなるから。
    ――ああ、わかります。
    石川 特に日本人は愛を口にすると恥ずかしいと思ってしまう。でもクリスは、一昨年の病気のこともあって価値観が変わったんだと思います。それによって、プロレスをやる上でも愛を明確に語れるようになった。それはたぶん、僕にはできないことです。
    ――武藤敬司さんも同じことを言っていました。「日本人って、愛ってなかなか言えないじゃん。でもLOVEだったらカジュアルに言える。だからプロレスLOVEにしたんだよ」と。プロレスにおける愛は肯定派ですか。
    石川 どうだろう…うーん。自分にとっての愛が何になるかが…。
    ――ユニオン愛はあったじゃないですか。
    石川 ああ、そういうのであれば、確かにありました。全日本の時も。リング外の業務がやれたのも団体愛によるものでしたから。結論としては、そういうことなんですよ。言葉だけならいくらでも言える。そこに付随してくる行動があるかどうかじゃないですか。クリスはそれが感じられたから、すごいと思いました。
    ――佐々木大輔はそこを否定しました。
    石川 カリスマはそれでいいんです。そうじゃなければ、カリスマじゃない。肯定した時点で、存在意義がなくなるんで。
    ――愛を肯定したら存在意義がなくなるって、どういう存在なんですか…。
    石川 愛に限らず、なんでも否定して生きていかなければならないのが佐々木大輔という男です。
    ――これも1・3後楽園で言っていましたが、歌手活動に対する執念がすごいですね。何がそうさせるんですか。
    石川 これは単純に歌うことが許されるのがDDTだけだからです。僕はジャンボ鶴田さんにあこがれた人間なんで、全日本に関してはその頃の価値観を大事にしたかった。だから、全日本では一度も歌わなかったんです。
    ――王道であるがゆえ、封印していたと。
    石川 ええ。なので、その溜まったものを早く吐き出したいんです。DAMNATION興行でちょっと歌いましたけど、むしろ歌以外の締めが難しい状況じゃないですか。
    ――まあ、ここまでジャイアントリサイタルとして定着してしまったら求められるでしょうね。レパートリーはもう決めてあるんですか。
    石川 あります。大晦日の紅白歌合戦を見て、この唄ならいけるかもしれないって思った曲があったんです。それを、ベルトが獲れたら歌おうかと。まあ、歌えなくても歌いますけど。流行りに乗っかるタイプなんで。
    ――ということは最近の曲?
    石川 そうです。期待していてください。チャンピオンになったら、毎回歌で締めることになりますけど、一人で歌うのはさみしいんでギター担当とかほしいです。最終的には3人体制で…THE ALFEEのような。ほかに歌いたい人がいると思うんです。歌いたいと言った僕にあこがれを抱く若手も出てくるでしょう。
    ――どうですかね。
    石川 DDT以外でも、東京女子の選手でいればglobeみたいな感じで。僕がマーク・パンサーになりますから、小室哲哉を募集します。
    ――ジャイアント・マーク・パンサー。悪くないアイデアだとは思いますが、歌に関しては先にNωA Jr.が始まってしまったので被りますよ。
    石川 あれは若い人向けじゃないですか。こちらはアダルトな感じでTHE ALFEE、globe、もっと言えば純烈路線で。僕はやっぱり大学時代が小室サウンドで育った世代なんで、もう一度globeを復活させたいんですよね。
    ――小室先生に許可を取ってからやってください。でも、そういうのも含めてモチベーションになっているのはいいことだと思います。
    石川 去年はフリー1年目ということで様子見的なところもあったと思うんですけど、2025年はベルトを獲ることでチャンスを広げていきたい。今、NOAHのベルト(GHCハードコア)を持っていますが、あれは今のところ「MONDAY MAGIC」でしかタイトルマッチが組まれないので、もっと広げていきたいと思うし。
    ――奇しくも遠藤選手と同時期にGHCのベルトを持つことになりました。(遠藤はGHCナショナル王座を奪取)。
    石川 あの決断(TEAM 2000 X入り)はいいことだと思います。NOAHに上がるにあたって一人だったらいつかはいき詰まる。誰かと組んだ方がいいと思うんで。ただ、あのユニットにオモスが入ったんで(221cm)、僕はもう大巨人を名乗れなくなりました。商売あがったりなんで、なんとかしてください。
    ――自分でなんとかしましょうよ。石川修司vsオモス、見たいですよ。あと、プロレスリングEvolution(エボ女)のゼネラルマネジャーとして選手を育成する務めもあります。
    石川 東京女子プロレスを見ていると羨ましいなと思うのは、他団体と絡まず自分たちの世界観の中でやっていけているじゃないですか。エボ女も将来的にはそういう形にしていきたいと思っています。今は自前の興行数が少ないこともあって、所属選手は他団体に出て吸収したいっていうのがあるんです。ありがたいことにいろいろ教えてもらって、それを持ち帰ってみんなで共有している。そういうメリットは日々感じているんですけど、理想は東京女子プロレスですね。
    ――ライバルは甲田哲也代表ということになりますね。
    石川 東京女子って旗揚げ2年ぐらいで初後楽園ホールだったんですよね。ウチも3月31日で丸2年ですけど、後楽園なんて夢のまた夢ですから。それを思うとすごいですよね。
    ――石川選手のキャリアの中で、ユニオン時代に女子の所属選手はいましたが、女子コンテンツに向き合うことはなかったじゃないですか。にもかかわらず、これをやろうと思ったのはなぜだったんですか。
    石川 そもそものはじまりは、諏訪魔さんとの会話の中で女子を育成してみたいねというのが出たことだったんです。WWEでも今は当たり前のように男子の中に入って女子がやっている時代だからって、僕の方から言ったんだと思います。もともとはこれ以上、全日本のパイが広がっていかないという危機感から出たものでした。今は若返って盛り上がっていますけど、当時はまだその前段階だったから、何かをやらなければって考えていたんです。ただ、全日本の中でやるのは反対意見もあるだろうから、女子部として独立させてやった方がいいと。それを協力してくれる会社の方とお会いしたことで、それなら育成してみようと募集をかけたら集まってきたのが彼女たちだったんです。僕は全日本時代に若い選手へ教えるのはやっていなくて。それはちゃんと決まったコーチがいるから、自分が出る幕じゃないと思ったんです。それで初めて教える立場になったのが彼女たちで、練習を教えるだけでなく話もするうちにデビューして、一生懸命ファイトしている姿を見たら、もっとみんなで頑張ろうという思いになれたんですよね。あの時、諏訪魔さんと話していたことが実現しているよ!って。
    ――育てる喜びを知ったと。
    石川 性別が違うと、体の作りも違うから教え方も変わってくる。そういうのも、やってみてわかったことだし、指導者として身についたものがプレイヤーとしての自分にフィードバックされる。一番大きいのは、教える側になったらカッコ悪い姿やだらしない試合を見せられないなって。指導する人間として立場がないですから。師匠って言ってもらっている中で恥ずかしくない闘いをしなきゃいけないっていうのがあります。
    ――そういう部分は8年前と違う要素ですね。
    石川 そもそも、フリーになって恥ずかしい試合をしたら仕事がなくなりますから。安定しているところでやっているのではなく、個としての勝負なんで、一つひとつのプロレスラーとしての仕事を全うしていかなきゃいけない。
    ――なるほど。歌っているところは彼女たちに見られてもいいんですか。
    石川 ……そうですね。プロの姿を見せるという意味で。
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