11・4ひがしんアリーナにて青木真也を破り、2度目のKO-D無差別級王座を獲得したクリス・ブルックスの前に現れたのは、DAMNATION T.A.のカリスマ・佐々木大輔だった。12・28両国国技館での挑戦が決まったあと、11・23後楽園ホールでは自ら「なぜ俺が4年間挑戦しなかったか知りたいか?」と振っていたが、愛を口にしたクリスを徹底的に否定するのも含め、確認したいことが多々ある。それらの見えざる部分について聞いたところ、いくつもの実体験に基づくカリスマの真意が明かされた。(聞き手・鈴木健.txt)
愛は無力であることを体験したから
軽々しく口にする人間は信用しない
――今回は改めて確認することが多いと思われますが、よろしくお願いします。まず、カリスマは今回の両国国技館のようなビッグマッチのメインイベントを務めたいという欲はあるんですか。
佐々木 まったくない! まあ、大きな舞台でやるのは悪いことではないが別にメインじゃなくていいし、そんなものはほしがらなくたってやりたいと思ったら自分で作れるから。
――実際、今回は自分で場を作ったようなものです。ということは、やはり求めているのでは?
佐々木 いや、欲なんて俺はないぞ。ただ、今回に関しては求めた。
――どっちなんですか。
佐々木 いろんなことを我慢するのをやめたというか…これは、我慢という表現に当てはまるのかわからないけど、つまらない時代を眺めるのはもうやめようと思ったのがあの行動(クリス・ブルックスへの挑戦表明)になった。
――つまらないとは、なんのことでしょう。
佐々木 この数年、KO-D(無差別級)戦線のつまらなさに、おまえは気づいていなかったのか。そんな鈍感さでよくマスコミを名乗れているな。DDTが強さを求め出したあたりから「なんだこりゃ?」と思っていたら、今度はデカい人間たちがプッシュされるようになった。
――樋口和貞選手や火野裕士選手のようなヘビー級によるタイトルマッチがフィーチャリングされるようになりましたね。
佐々木 ヘビー級のプロレスなんぞ、面白いわけがないだろ。DDTは無差別でやってきた中で俺らのような体が大きくない連中は我慢してきて、頭を使うプロレスで体ばかりデカくて頭の悪いやつらのことをカバーしてきてやったのに、その恩を仇で返すようなことを始めやがった。そんなものには関わりたくなかったから近づくことなく眺めていたら、今度は上野だ、クリスだと若さと顔で売り出そうとしている。
――……見事なまでにカリスマが持ち得ていないものばかりの方向性になっています。
佐々木 おお、ハッキリ言ってくれるがそういうことだ。だから俺はそういうものに興味を持たず、この数年は好きなことだけをやってきた。
――言葉として羅列すると、佐々木大輔というプロレスラーはかなり虐げられてきたとも受け取れますね。
佐々木 いや、俺だけじゃないぞ。そういうものから遠く離れたところにいる人間はほかにもけっこういる。うーん、7割ぐらいかな。HARASHIMAだって、本人が気づいていないだけで虐げられていただろ。
――今年、2度無差別級に挑戦しましたが。
佐々木 あれも上野が指名したり、強引に自分で名乗りをあげたりしなかったら若くて顔のいい連中の中には入っていけなかったはずだ。
――それが4年間、無差別級挑戦に名乗りをあげなかった理由ですか。
佐々木 いや、そうではない。そもそも俺はベルトなんぞ求めていない。なぜなら、それを超越した存在だから、必要ない。あんなのは発展途上の人間が巻くものだ。まあ、眺めているうちに4年経っちゃったけど。UNIVERSALの方でちょっくら遊ぶぐらいだったな。
――よくつまらない日々が続く中でプロレス活動を続けられましたね。
佐々木 俺がこんなことを言うのもアレだが(モチベーションとなったのは)KANONの育成だけだったな。
――そうこうしているうちに、クリス選手が愛を唱えたことで黙っていられなくなったと。
佐々木 上野もそうだけど、前々から言っているのを聞いて「フザケてんのか?」と。
――フザケている?
佐々木 それは「愛してまーす!」って言ったらファンはキャーッてなるだろ。愛を語ることで支持されるなんていうのは、一番安っぽいやり方なんだよ。俺から言わせれば、こんな卑怯なやり方はない。偽善、偽善、簡易的偽善行為だ。
――偽善かどうかは本人にしかわからないものですよ。本心から言っているかもしれないじゃないですか。
佐々木 本心で言っている顔をしているか? 「日本にいくのが夢でした!」とか言っていただろ。
――クリス選手ですね。
佐々木 そんなもん、飛行機のチケットを買えばいつだっていけるだろ!
――……飲んでるんですか?
佐々木 今日は飲んでねえよ! そういう言葉の一つひとつが偽善に満ちている。俺は愛など信じていない。過去に一度、愛のために闘ったことがあるから。
――そんなことありましたっけ?
佐々木 キャンディス(レラエ)と出逢った時だ。
――あー、HARASHIMA選手に勝って無差別級のベルトを獲ったらキャンディスと結婚すると宣言した時のことですか。結果的には獲れなかったですが。
佐々木 あの時だけは愛のために闘った。だがな…そこで俺は愛など無力だと知ったんだ。
――確かにベルトはおろか、キャンディスの心には届きませんでしたね。
佐々木 どれほどの愛を持っても勝てない時は勝てないし、キャンディスは離婚してくれないしで、そういう現実によって俺は気づいた。だから俺は、愛を語るやつが大嫌いなんだ。おまえらに何がわかるというんだ。
――実体験をしているだけに痛いほど説得力があります。
佐々木 今年、キャンディスと再会した時は燃え上がったけど、気づいたら帰られていたからやっぱり愛は幻なんだなって…。
――聞いている方が切なくなります。
佐々木 だから愛という言葉を軽々しく口にする人間は一切信用しない。特にクリス・ブルックス、あいつはいつもニコニコしている。あれはグッズを売るためにそうしているだけだ。金儲けだ!
俺がDDT** **をWCW** **末期のように
軌道修正する。その方が面白くなる
――いや、クリス選手は本当にナイスガイですよ。いくらカリスマでも、それは偏見がすぎます。
佐々木 ならば、あいつが売店に立っている時の姿を見たことがあるか?
――言うほど頻繁には見ていません。
佐々木 そんなやつに何がわかるんだ。だから俺は、そんなつまらなさにまみれたDDTを軌道修正するために立ち上がった。DDTを正しい道に…そうだな、WCWの末期のような団体にする。
――それは正しいことですか? WCWは崩壊してしまったじゃないですか。
佐々木 メチャクチャにしてやる。気づいたらDAMNATION T.A.のメンバーが30人ぐらいに増えているかもしれないな。
――nWoのように。
佐々木 DAMNATIONに入らなければ仕事がもらえないといって入りたがる。みんな、俺に媚を売れ。
――そういうDDTを理想としているんですか。それは団体としていい方向にいくものなのでしょうか。
佐々木 今よりはな。面白いだろ、その方が。
――見る側はそのメチャクチャっぷりを見るのも面白いかもしれません。特に今林GMはWCW末期と聞いたらいてもたってもいられないでしょう。ただ、選手たちは受け入れられないと思います。
佐々木 だからそういうやつは反発してくればいい。アントニオ猪木さんもそういうことを言っていただろ。
――反発を誘発させるためにやると。
佐々木 そういうやつが出てきた方が、今の顔で売ってニコニコして、ファンに媚を売っているDDTよりは確実に面白くなる。プロレスっていうのはな、もっと殺伐としてしかるべきなんだよ。ヘラヘラしているやつらは、プロレスラーとはなんぞやということをもう一度考えた方がいい。でも誰もやろうとせず、愛だの恋だのと耳障りのいい言葉に酔っている。だったら俺が奮い立てる状況を作ってやるってことだ。
――カリスマは、レスラーとはなんぞやの答えは出ているんですか。
佐々木 キ〇〇〇の集まりだろ。
――シンプルに言いますね。
佐々木 真面目なやつなんざ必要ない。
――The37KAMIINAの皆さんなんて、とても真面目ですよ。
佐々木 あいつらはニコニコしてグッズを売ることしか考えていない。
――よほどグッズを売る行為が気に入らないんですね。DAMNATIONも売っているじゃないですか。
佐々木 売り方の問題だ。あんな好きでもない女の前でニコニコしやがって。
――DAMNATIONはそういうことをやらない?
佐々木 キャバクラでする。それに売ってはいるが、売り場にはあまりいないからな。買いたきゃ買えばいいというスタンスだ。
――もっとフレンドリーに接すればグッズの売り上げも伸びるのに。
佐々木 てめえは俺に偽善をやれって言うのか? 俺はな、偽善のプロレスなんざしたくない。ハートのプロレスだよ。
――カリスマの口からハートのプロレスという言葉が聞かれるとは…。
佐々木 それも軽々しいものではなく、真のハートのプロレスだ。
――さんざん偽善はよくないと言っておりますが、UNIVERSAL王座をクリス選手に奪われた時に「今までの数々の悪事を反省し、心を入れ替えて真っ当な人間として生きたい。2020、佐々木大輔の変」と言っていました。それはちゃんと守ったのですか。守っていなかったらそれこそ偽善による発言となってしまいます。
佐々木 そんな昔のことを引っ張り出してきやがって…ああ、確かに心を入れ替えたよ。2分ぐらいな。
――2分…。
佐々木 偽善が嫌いっていうのは、これも実体験に基づいたものだからな。DAMNATIONを解散した直後…あれも無理だった。やってみたら性に合わなかったんだから、嘘はつけない。みんなに嘘をついて生きるなんて、俺にはできない。俺は、ハートのプロレスしかできないレスラーなんだよ。
――……。とにかく、両国でチャンピオンになったらそれはそれで一つ重責を背負うことになるわけですが、自由にやってきたカリスマにとってそれが縛りになったりはしないものですか。
佐々木 問題ない! 俺はベルトを持とうがなんだろうが今までと変わらないし、変わるつもりもない。チャピオンの務め? 客に媚を売って愛だのなんだのとか言うのはベルトを失っても上野やクリスがやればいい。その代わり俺がチャンピオンになってDDTを変えたら、そういう人間がベルトに挑戦することは一切なくなる。ベルトはそんなに甘いもんじゃない。
――そういうものですか。
佐々木 つまらないのはあくまでも今までのKO-D無差別級であって、俺自身は絡まなかった分、楽しく生きて来られたからな。デスペラードとやったのもそうだったし。視界に入れないようにして、別の団体でやっていることと思うようにしていた。だからチャンピオンになっても俺自身は何も変わらない。変わるのは、DDTの方だ。
――久しぶりにシングルプレイヤー・佐々木大輔の神髄を見せてもらえる気がします。
佐々木 シングルの闘い方はユニットとは違うからな。俺の中で培ってきた確立された戦略があって、それはDAMNATIONの時とは少し違う。そこに関しては揺るぎない自信がある。両国では、あのデカいあいつがマリオネットのように操られる姿が見られる。今の顔しか見ていない新しいファンはよく見ておくように。
――DDTのファンは選手の顔しか見ていないと言うのですか。先日の青木真也vsHARASHIMA戦のような攻防もジックリと見ていたじゃないですか。
佐々木 いや、あれはたぶん理解していない。顔を見ればわかる。みんな『オッペンハイマー』を見ているような顔をしていただろ。これも実体験に基づく話だ。
――見にいったんですね、あの作品。だとしたら、それを理解させるのがカリスマの腕の見せどころじゃないですか。
佐々木 だからクリスがどんな目に遭うかを見れば、手のひら返しをするだろう。「キャーッ、佐々木さん!」ってなるかもね。
――キャーッ!を求めているのですか。
佐々木 求めてはいない。だがそうなるのだから仕方がない。言いたいやつは好きにしていい。
――私もそのシーン、見たいです。
佐々木 20年間やってきて、一度もなかったからな。四十手前にしての遅咲きだ。
桜庭大翔を誘ったのは邪悪な顔だから。
不満を抱えている人間はけっこういる
――遅咲きという言葉に痺れます。
佐々木 そういうのは、両国国技館の広さが一番起こりやすい。俺が体験したアリーナの中では、自分のプロレスを表現するには一番ちょうど空間。あれより大きくて、遠いと客の空気が感じられなくなる。
――感じた方がやりやすいですか。
佐々木 やりやすい。でも近すぎるとうざくて「見るな!」ってなる。だから、ベストな会場というタイミングもあって今回、動いたんだ。
――それは気づきませんでした。
佐々木 しかもチャンピオンとして新年を迎えることになる。2025年はな、俺の20周年だからな。
――それはおめでとうございます。師匠のディック東郷選手に連絡をいただいて、バトルスフィア(当時、竹ノ塚にあったプロレス会場)を訪ねた時にスーパークルーの1期生として紹介された時に初めてカリスマとお会いしてから20年も経つなんて、不思議な感覚です。
佐々木 あの頃はもちろん、両国国技館のメインに立つなんて想像もしていなかったからな。そもそも俺は両国国技館に見にいったことが一度もなかったから想像のしようがない。
――意外ですね。練馬区に住んでいながら。
佐々木 横浜アリーナと日本武道館はいったけどな。あれだ、ゴールドバーグを見てすごいショックを受けて武道館から帰ったんだった。
――全日本プロレスで小島聡選手と一騎打ちをやった時ですね。ショックというのは?
佐々木 ジャックハマーを出さないうちに終わって。あれで俺は「プロレスって、何なんだろう…」ってなった。中学3年の時だった。
――中学3年でプロレスに疑問を抱きながら、それでも月謝を払ってプロレススクールを卒業した青年が両国国技館のメインに立つんですから。そういう自身のサクセスストーリーを振り返ることはしないんですか。
佐々木 キャバクラで調子よくなった時に語るかな。「へぇー」っていう薄いリアクションしか返ってこない。
――キャバクラのお嬢さんではなくプロレスファンに語ってくださいよ。
佐々木 語る必要なんてないだろ。語る場もないし。
――試合後のバックステージコメントで言ってもいいじゃないですか。彰人選手のように長文で語れば伝わりますよ。
佐々木 あんな名古屋を捨てた男と一緒にするな! 俺は東京を捨てない。コンクリートジャングルが好きだからな。そんなに俺の成功物語を聞きたいっていうんだったら来年、20周年を語ってやるからプロモビデオを撮りに来い。そのためにもベルトはあった方がいい。
――ああ、絵的にハクがつきますね。
佐々木 キャバクラで喋るから、それを映像にしろ。
――20周年記念イベント的なものは考えていますか。
佐々木 今は言えない。書くな。
――わかりました。これも前々から確認したかったんですけど、カリスマは遠藤哲哉から始まりKANON、イルシオンとDAMNATIONのメンバーに勧誘してちゃんと育てあげています。秘密兵器の鈴木マタローはともかく、両国でデビューする桜庭大翔もまんまと加入に成功しました。その嗅覚がすごいと思っていたんです。
佐々木 洗脳が得意だからな。人間っていうのは、あれをやれこれをやれと言っても、やりたいことしかやならいだろ。俺は、こいつはと思った人間に対しまずダメなところを指摘する。ダメなところだけを言い続けると「俺はダメな人間だ…」って落ちるところまで落ちる。で、そこからこういうふうにすればいいんだというと、言われたことだけをやるようになる。
――いったん落とすのが秘訣。ただ、その人のことをちゃんと見ていないと的確なことを言えないですよね。
佐々木 そこは対戦した時とか、チラッと見ただけでだいたいわかる。こいつにとって何が必要で何が必要じゃないかが。
――桜庭大翔はリング上で勧誘するまで接点がなかったですよね。何を根拠に誘ったのでしょう。
佐々木 顔だ。あれは邪悪な顔をしている。
――邪悪な顔と偽善の顔は違うんですか。
佐々木 全っ然違うぞ。偽善の顔はニコニコしている。
――桜庭大翔もDAMNATIONに入るまではニコニコ顔で挨拶していましたよ。
佐々木 いや、あれは偽善のニコニコではない。俺にはわかる。だからその場で動いたんだ。イルシオンは前々から目をつけていたけどな。
――正田選手もクリス選手もまったく気づかぬまま水面下で動いていたのはさすがと言わざるを得ません。
佐々木 俺とMJとKANONの3人でやる時期が長くて、それが単に飽きた。それで増やすかと考えた時に、あいつが不満を抱えているように見えた。
――その時点でイルシオン選手は不満のようなものは一切口にしていなかったです。
佐々木 試合中の動きでわかった。
――なんという慧眼…現在のDDT本隊に、まだそういう選手はいるんでしょうか。
佐々木 いる。それもけっこういる。だから動く時が来るかもしれない。ただ、その中でこっち側に来る勇気がない人間もいる。前に上野を誘ったけど、あいつは動かなかった。あいつは勇気がない。
――上野勇希なのに。
佐々木 誰がうまいことを言えと言った。行動する勇気がないやつは、しょせんキャーキャー言われる方がいいと思っているやつらだ。
――DAMNATIONに入ったら、そのようなものとは無縁になります。
佐々木 俺がいつ動くか。それが誰なのかは偽善の笑顔をしていない人間だから、わかるやつにはわかるはずだ。