DDTの今を体現していた上野勇希からKO-D無差別級のベルトを奪取した青木真也。その強さに触発される形で次期挑戦者として名乗りをあげたのは、不動のエースと呼ばれるHARASHIMAだった。総合格闘技の技術に裏打ちされた青木の実力に対し誰もが恐れを抱く中、HARASHIMAは逆にそれを“楽しみ”と言えるプロレスラー。だからこそ、これまでとは違った二人ならではの無差別級が期待できる。挑戦者のポジティブな言葉をお届けする。(聞き手・鈴木健.txt)
自分の根っこのものをやれば踏み込んでくる
青木さんはDDT** **マインドだと思います
――“いつでもどこでも挑戦権”を巡る闘いが繰り広げられている最中に、それをすっ飛ばしてKO-D無差別級王座挑戦に名乗りをあげました。
HARASHIMA 彰人くんのように今までもそうやって挑戦する人を見てきたので、それもありというのはもともと頭の中にあったし、何よりも我慢できなかったというのが一番です。あの日の会場(武知海青が出場した9・29後楽園)は、何をやってもお客さんがウェルカムな状態だったじゃないですか。だから、ここで言ったらいけるんじゃないかっていうのもあったし、青木さんとは3度シングルマッチをやって僕の1勝2敗なんですけど、最後(2020年3月11日、さいたまスーパーアリーナコミュニティアリーナ)にやったあとはタッグも含めて対戦がなくて。
――2003年9月2日の路上プロレス4WAY6人タッグマッチを除くと、先日の10・3新宿まで確かにやっていないですね。
HARASHIMA その間、強い青木真也を隣から見続けてきた中でチャンピオンなって、より強さを求めてそれをDDTの後輩たちに出して、上野も遠藤も、タイトルマッチではないけど彰人くんもやられているところを見たら、自分がいくしかないってなりました。
――タッグを組むことで闘っている時とは違う面も見えたんですか。
HARASHIMA 間近から見ることで、あの緊張感とお客さんが集中して見ているところははより感じましたね。序盤のレスリングで相手の肩をつけただけでお客さんにはこう見えているんだっていう。あの緊張感は青木さんにしか出せないし、みんながいいように青木さんのペースでやられている。自分だったら、そうはさせないぞっていう意識も芽生えたし。
――10・3新宿のタッグマッチ序盤戦で数分間、関節技と肩をつけにいくグラウンドレスリングの攻防を展開させましたが、あれはそういった意識からのものだったんですね。
HARASHIMA はい、楽しめました。闘いの部分に特化した部分って僕も好きな分野だし、お互いがどこまで踏み込むかの勝負においての駆け引きが…もしかすると玄人好みというか、今のお客さんには一般受けしないのかもしれないけど、やっている自分としてはすごく楽しめた。
――青木真也vs橋本千紘戦や、それこそ坂口征夫選手が残していった土壌があるからこそ、DDTのファンも食い入るようにみていたと思います。
HARASHIMA そうですか(爽やかな笑顔)。会場のお客さんも楽しんでいる感じは、僕もありました。駆け引きって言いましたけど、まず気を抜いたらいかれるし、力ずくでいったらいけるんじゃないか、でも切り返されるんじゃないか、力ずくでいったら自分がバテちゃうんじゃないかというようにやりながら頭を巡らせるわけです。その緊張感が、いいんですよね。
――普段は試合の流れの中でああいった技術が見られることはあっても、あそこまでの“長尺”で展開させることはあまりないですよね。にもかかわらず、頭と体がしっかりと反応しているのがすごいと思ったんです。
HARASHIMA それは当然です。プロレスラーなんだから。最近は、前ほどスパーリングはしないですけど、常に強さを求めることを意識しているんでちゃんと動きます。たぶん、僕が持っている関節を極める知識、スキルって古いとは思うんです。今の技術より前のものがベースとして体に刻み込まれているから。それでもベースとしてしっかりしたものだから崩す必要がないし、いろんな新しい技術が増えていても基本的な部分が備わっているから対応している。こっちの得意な局面へいかに持ち込んで自分のペースに持っていけるかの駆け引きをやり合った攻防でした。
――あれは青木選手の土俵に上がるという意識ではなく、あくまでの自分のペースに持ち込むための動きだったんですね。
HARASHIMA はい。ちゃんと自分の根っこにあるものをやっていることで、青木さんも踏み込んでくるという。
――知識に基づいて体が反応しないとできないだろうなとか、あの数分の中でいろいろ考えさせられたんです。
HARASHIMA そういうシビアでマニアックな攻防って、知らない人が見ても緊張感が伝わると思うんです。だから、そうやって伝わっていることがわかると嬉しいですし、シングルでやったらもっとああいった攻防が広がるかもしれない。それをやってみたいという思いもあります。今はきれいな技を決めて華やかに勝つとか、大きな体ですごいパワーを駆使して勝つ選手ってたくさんいるとう思うんですけど、シンプルに強さっていうのは、やっぱり青木さんが突出している。同じ部分にこだわる人間として、今回は動いたという感じです。
――過去の3度の一騎打ちはいずれもDDT EXTREME王座を懸けてのものでした。
HARASHIMA 僕は最初の負けた試合(2018年10月28日、後楽園ホール。三角絞めで落とされEXTREME王座を明け渡す)の方が、2回目の勝った試合(2019年2月17日、両国国技館。蒼魔刀でピンフォール勝ち)より印象に残っているんですよ。
――青木真也に勝った!という嬉しさよりも。
HARASHIMA そうなんです。そっちは正直、記憶が薄くて。3度目は僕のフィールド(目隠し乳隠しデスマッチ)だったのに、負けたのが悔しかったのを憶えています。あのルールを生かして途中勝機が見えていたのに、油断しました。
――あれは油断だったんですか(ブラジャーを剥ぎ取られ負け)。
HARASHIMA 油断です。あれからもう4年も経っているのに(強さを)見せつけられちゃったら試合したくなりますよ。
――初めて一騎打ちで対戦した時のような総合格闘技スタイルを前面に出してくるのと、現在のようにプロレスの幅が広がっている青木真也だと、対戦する上での意識は変わってきますか。
HARASHIMA そうですね。青木さんもどこまでプロレスならではの技を出してくるか。最近見ていて本当にスタイルの幅を広げているなって思います。広がりのあった方がやる上で楽しいし、単純に極めっこになると正直難しいと思うんで、そこを凌いだ上でプロレスに踏み込んだ青木真也を捕えられるか。
――今、難しいと言われましたが、それはグラップリングの技術差のことですか。
HARASHIMA はい。格闘技界でトップを獲っている青木さんの寝技を凌ぐことはできても、獲るとなるとやっぱり難しいと思います。みんな、気づいているかわからないですけど、青木さんて手がすごくデカいんですよ。あれは2mの身長がある人間の手の大きさです。青木さんに「手が大きいですね」って言ったら「もっとちゃんとご飯食べていれば、体もデカくなっていたね」(青木の声色で)って言っていました。人間の関節を獲って極めるのに特化した手をしているんですよ。あれは絶対に有利です。握る感覚から何から違うし、その上で力も強いんで。
――だとすると、たとえ自分の好きな分野でもそこで勝負するのは確かに得策ではありません。
HARASHIMA 青木さんがいるのに、自分の方が寝技は強いですというのは、言えないです。青木真也から関節で一本獲るっていうのは難しいことだと思うんで、それを凌ぐことで自分のリズムを作って。
――攻めではなく、凌ぐことで自分のリズムを作ると。先ほど、後輩たちがやられているのを見て自分がいくとなったと言われていましたが、青木選手は外敵チャンピオン、あるいはベルトは外に流出したという受け取り方ですか。
HARASHIMA 僕は青木さんもDDTだと思っています。DDTを好きな気持ちをいろんな場面で喋っているのも見ているし、だから外の人というのはないです。ただ、そういう見方もされるでしょうね。僕は単純に、後輩がやられるのは悔しいんで。
――たとえばこれが遠藤哲哉と上野勇希が対戦してどちらが勝っても動機にはならないじゃないですか。そこは青木真也という所属ではない選手だからというのがあるのかと思ったんです。
HARASHIMA そう言われると…どこかにちょっとはあったのかもしれないですね。仲間ですけどね。うん、仲間。ファミリーだと思っていますけど…DDTならではのスタイルに対してもちゃんとやろうとする自己解釈能力がすごいあるんで。そこで「いや、俺はそういうのはできないから」じゃなく、一緒に楽しんでやろう、自分なりに解釈してやろうっていう気持ちをすごく感じるんです。それって強いては、見てくれる人が喜ぶことを考えているわけじゃないですか。それが本人にとって好きなだけって言うかもしれないけど、さいたまスーパーアリーナで剥いだ乳隠しを頭に被って絵的にアピールしたり、新宿FACEでフェロモンズの飯野と試合した時も、あの分野でも一歩先まで踏み込むことをやっていた。あれはもう、DDTマインドだと思います。
飯伏の筋肉を見てトレーニング法を
聞いて、それを今やっています
――その一方で、触れたら火傷するような姿勢は常に持ち続けています。上野選手は正直に、青木選手に対する怖いという感情を言葉として出していました。HARASHIMA選手は青木真也に対しての恐怖心はあるんでしょうか。
HARASHIMA 恐怖、恐怖、怖さ、怖さ…うーん、ないですね。これはうまく伝わるかわからないですけどここ(手のひらを自分の顔の前に持ってくる)を目指している人にはないですね。DDTのトップを目指すという、自分と同じ意識でやっている人に関しては。でもここ(手を自分の顔の横に持っていく)を目指す人が自分よりも技術を持っていたら怖さを感じるかもしれないです。青木さんはDDTのチャンピオンとしてDDTを盛り上げたいという気持ちが強いと思うから、青木さんがそれを壊して違うものを求めることはしないって僕は感じています。自分が目指していたものを崩して、試合そのものを潰してでも自分が勝てばいいっていう自分勝手な人だったら、怖さを持った上で対応しなければならなくなる。
――そこでちゃんと恐怖という警戒心、危機対応力を稼働させなければきちんと対処できないですからね。
HARASHIMA でも、今までそういう人はいなかった。だから相手に対し怖さを感じたことはないです。ただ、一度だけ後楽園ホールの控室から上がる階段で脚がすごく重かった時があって、それは体が恐怖を感じていたんじゃないかって思ったことはありました。達人と言われる人と対面する日に、なんか嫌な予感がして脚が動かなくなるのって、こういう感覚なのかって。
――それはいつのことですか。
HARASHIMA ケニー(オメガ)と初めてシングルでやった時です(2008年8月31日、後楽園)。あの細い階段の途中で体が拒否している感覚があって、本当に拒否していたかどうかはわからないです。もしかすると思い込みだったのかもしれないけど、相手に対する怖さは頭の中にまったくないのに、体がそう反応してしまっている。これって漫画で見たのと一緒だなって思いましたね。あとにも先にも、その一回だけなんです、体がそうなったのは。そしてそこで一度経験したから、青木真也に対しそうはならないと思うんですけど。
――青木真也という相手に対し恐怖心がないという時点で、ひとつのアドバンテージになっています。みんな、そこを乗り越える作業からスタートしなければならないわけですから。
HARASHIMA なるほど。たぶん、僕が気づいていないだけなのかもしれないです。僕は勝手に、青木さんも同じ目標を持っていると思っているんで。プライベートにおいてもそんなのばっかですよ、都合のいいことしか聞こえないし、自分なりの解釈しかしていないんで。
――その上で、試合はナマモノですから展開の中で歯が立たないと思うことを見せられたら気持ちが後退してしまう可能性も、ゼロではないですよね。
HARASHIMA まあ、そうですね。そういう想定をするのは大事だとは思うんですけど、それが杞憂になってしまうのが嫌なんですよね。そこは能天気に、同じ時間を過ごすなら楽しく過ごしたい。
――青木選手はこれまでも上野選手、遠藤選手の眠っていた奥底にある感情を引き出しました。もしかするとHARASHIMA選手自身が気づいていない部分をえぐり出すかもしれません。
HARASHIMA 青木さんって、どんなことをやってくるかわからない面があるじゃないですか。プロレス畑で育っていない分、別の切り口による攻撃があるんで、僕はその場面場面を楽しもうと思っています。
――それが怖さにはならず、楽しめると。わからない部分って、怖いものじゃないですか。
HARASHIMA はい。僕は常々、闘いを楽しんでいるんで。ずっとその積み重ねでやってきたものだから、相手が青木真也だからそこを変えるっていうのはないです。
――あと、青木真也といえば調印式でもチクリと来たように、言葉で刺してきますよね。
HARASHIMA あの時は「鍛えてるからだ!」っていうのは本当に気づいていなくて。むしろそんな感じでよかったのかと思ったぐらいだったんです。あそこにいるお客さんには、ちゃんと説明した方がわかると思って「年齢はただの記号です」って言ったんですけど。
――一本獲られたとは思わなかった?
HARASHIMA まったく。ただ、ああいう切り返しがサッと出るのはやっぱり頭の回転が速い人だと思うし、あとは言葉に力があると思いました。
――その力によって、気持ち的に押されないですか。
HARASHIMA そこは、その場面になってみないとわからないです。だけど、それも僕が気づかないままかもしれない。
――最強ですね。
HARASHIMA 嫌な言葉は聞こえないし、自分にとってプラスになるいい言葉や応援しか聞こえないですから。ネガティブな声が入ってこないから、僕の耳に届くの=応援の声だと思っています。
――それは精神衛生的に素晴らしいと思います。長くキャリアを重ねると、何もかもを経験して新鮮味や刺激を感じなくなってくるものですが、今年に関しては2度無差別級に挑戦するだけでなく、坂口征夫選手の引退試合の相手を務めたり、飯伏幸太がDDTのリングへ戻ってきたりとけっこう刺激を得られたのではないですか。
HARASHIMA 本当にそう思います。坂口さんとの試合は僕、初めて試合前に涙が出ちゃったんです。先にリングへ上がって、気持ち的には平気だったのに坂口さんの入場を見た瞬間に「うわー、ダメだ!」ってなって。それでどうしようと思ってボディーチェックに来た松井さんの顔を見たら、松井さんも泣いている。坂口さんが涼しい顔してこっちを見ていたので、そこでちゃんとしなきゃ!って思って、向き合った時に「張ってください」って告げたんです。あんなに感情があふれたのは、ちょっと珍しいです。坂口さんとは同じ世代でいろんなことがあって、その中でちゃんとした人間…というか、ちゃんとしたお兄ちゃんのような存在だったんで、これで最後なんだっていうのがドーッと来たんだと思います。
――引退試合の相手を務めるのって、気持ちの置き方が難しいですよね。
HARASHIMA 初めてでしたからね。最初は、引退試合の相手として僕を選んでくれたことで、また試合できるのが嬉しいと思ったんですけど、日が経つにつれて最後というのがどんどん大きくなっていった。それが入場シーンでMAXになってあふれたんでしょうね。
――坂口選手が去った分、自分がという意識が芽生えて上野選手への挑戦につながっていったと見受けられました。
HARASHIMA ああ、そうでした。あの試合、僕は勝てなかったですけど自信を持っちゃいましたね、全然いけるわっていう。今やっているトレーニングだったり、コンディション作りへの取り組み方だったりは間違っていないっていう確認作業ができた。試合中の動きも、自分のベストに近いものが出せた。
――その手応えがなければ、今回も動かなったでしょう。
HARASHIMA そうか、そこまでは考えていなかったですけど、でもそうですよね。一般的には年齢を重ねると衰えていくものと思われていますが、そうじゃないケースもあるんだというのは自分でも確認できたから、ここにつながっているんだと思います。
――7・21両国国技館の髙木三四郎、男色ディーノ、中澤マイケル、スーパー・ササダンゴ・マシンと飯伏幸太が同じ空間にいる光景は、長くこの団体にいるものとしては格別なものがあったのでは?
HARASHIMA 普通な言い方になりますけど、嬉しいなと思いました。あのあと、名古屋で対戦したんですけど、肌を合わせたら筋肉のデカさに驚きました。僕も肩の筋肉は比較的大きい方なんですけど、飯伏くんの方がデカくて、試合が終わってからどんなトレーニングをしているのか聞いて、それを今やっています。負けたくないんで。
――飯伏選手から教えてもらったトレーニング法を今やっていると。いい話だ。
HARASHIMA DDTでずっとやってきてよかったと思うことが、いっぱいありますよ。
――今度、KO-D無差別級王座を獲れば11度目の戴冠となります。リック・フレアーのように「○タイムズチャンピオン」の域に入ってきました。
HARASHIMA リック・フレアーを目指しますよ(ニッコリ)。気がつけばDDTの中では年齢的にもキャリア的にも上になってしまったんですけどその分、後輩たちが育っていて、その中でまだシングルでやっていなかったり、やったけど、そのあとすごく成長している選手たちもいっぱいいるんで、そういう若い選手たちとやるためにもシングルのベルトを持ったら実現させやすくなるじゃないですか。チャンピオンになるのって、そういうメリットもあるから、何度でも獲りたいって思うんですよ。
――今の世代の中で面白いと思う選手をあげるなら誰になります。
HARASHIMA みんな、それぞれ面白い個性を持っていますよ。その中で一人あげるとするなら…MAOかな。シチュエーションに応じての機転の利かせ方、あの感覚はすごいなと思います。今までも何度かシングルはやっていますけど、今やったら違うものを生み出せると思います。10回獲っても、まだまだやれることがあるのがプロレスのチャンピオンベルトなんで…たぶん、いや絶対だと思うんですけど、新しくなったKO-D無差別級のベルトは僕、メチャメチャ似合うと思いますよ。それをみんなに見てほしいですね。



