リアルタイムで見ていなくても
DDT** **らしさをとらえる嗅覚
3月17日の旗揚げ27周年記念興行を前にした2月、DDTは7日と14日に新宿FACE、25日に後楽園ホールで都内大会を開催。それぞれまったく違うものを目玉としつつ、大局的には一本の線でつながった連続ドラマを提供した。
11年半にわたりDDTを支えてきた坂口征夫がプロレスラー生活へピリオドを打ったその1週間後、同じく歴史を描いてきた男色ディーノがKO-D無差別級王座に挑戦し、受けて立った王者・上野勇希が“現在”を見せつけた。そして月末の後楽園では武知海青が、身体能力と人前におけるパフォーマンススキルに裏打ちされた驚異のデビュー戦で新風景を現出させた。
わずか1ヵ月間で、時代の動きを実感させる流れが生み出された。坂口の介錯人となったHARASHIMAがそれに触発させられ、3・17後楽園で無差別級王座に挑戦。武知のデビュー戦も、上野と勝俣瞬馬がパートナーを務めることで成立した部分は多く、MAOを含めたThe37KAMINAでシングルタイトルを独占するDDTの今を広くアピールしたように、ここに来て誰が中心点にいるかが明確に表れてきた。
言うまでもなく、それは上野勇希となる。単に最高峰のベルトを保持し続けるだけでなく、自発的にディーノとの防衛戦を求め、HARASHIMAの野心を点火させるなど、一つひとつの試合で物語性を展開させ、点を線に昇華させている。
一方では、武知という触媒に反応することで、プロレスシーンの向こう側にまでDDTを届かせた。本当に、2月の上野は濃密かつ“いい仕事”をしたと評価していい。
DDTに入門以後「竹下幸之介と同級生」なる枠の中で長く見られてきたが、生涯のライバルがAEWに拠点を置いたことで距離感に変化が生じ、上野の立ち位置とともに周囲の受け取り方も更新されたように思う。そんな今だからこそ、どのような姿勢でプロレスと向き合っているのか。その現在地を確認した上で3・17HARASHIMA戦を見たいと思った――。
「もともとDDTって心だよねっていうのは思っていました。やっぱり勝ち負けがあって、強さを競い合うものでもあって、でもそれ以上のものがあるというように思っていたんです。でも、そういうテーマみたいなものは一選手として言い続けるだけではなかなか伝わらないから、ベルトを巻いたことでよりハッキリと表に出せるだろうと。
何よりクリス(ブルックス)とのタイトルマッチでやっぱりそうだよなってなりましたね。どっちが強いかを競い合うのは前提の話であって、お客さんがもっと楽しみにしているのはその先のはず。それらはひとつの要素でしかなくて、あの試合で感じられたのは大きなきっかけでした。その心をぶつけることを、クリスだけじゃなく挑戦してくれる人全員とやりたいと自分の中で固まりました」
クリスとのタイトルマッチ(11・12両国国技館)で、育んできたプロレス観に確信を持った上野。団体最高峰のベルトを初めて巻いたのはもちろん嬉しかったが、それ以上にチャンピオンとなったことで頭の中へ描いていたものを、形にできるステージを得られた方が大きかった。
よく「王者には発言権がある」と言われるが、上野自身はそれを権利とは受け取らず、より注目を浴びる立場となりしっかりとテーマや軸を立てて闘えることが、チャンピオンであり続けたい“理由”としている。だからディーノとの防衛戦も、頂点にいる者の我を押しつけるつもりで言ったわけではなかった。
「あれはいろいろなものがうまくつながったのも大きかったと思います。会社の方にちゃんと考えてくれるスタンスがあって、男色さんにも考えるところがあって、そこに僕の考えているものもあって、それらがすごくDDTっぽくて、みんなが『これ、面白いでしょ』という考えでひとつになって、進んでいったからいいものになった。誰がではなく、みんながいいよねって思えるものを伸ばしてきたDDTらしさが見せられた。
フィジカルでいったら明らかに僕が強い、今の男色ディーノが無差別級に挑戦して大丈夫なのかってなるところを、そこを超越するべく見る側の思いを引っ張ってきたのが男色さんだった。そういうのってキャリアとか歴史とか、見てきたものの数、背負ってきたものによる力なんだと思いますけど、僕はそれに対し全力で向かっていくことで、同じように費やしていかなければっていう気持ちが固まった一戦になりました」
後楽園ホールよりさらに密閉された空間いっぱいに充満するエモーショナルな思い(今風な“エモい”とは明らかに違ったもの)。それを四方から浴びた上野は「これがまさにDDTだよな」と実感できた。
闘う当事者だけでなく、観客も思い入れした上でのフルハウス――コロナ禍に苦しんでいた頃から上野が求めていたDDTの会場が、まさにその形だった。
「超満員になったら経済が回るとか豊かになるとかじゃなくて、会場の端から端にまでリング上の熱が伝わるには、やっぱりたくさんの人がプロレスを楽しみに思って会場に来てこそだと思っているんです。お客さんの熱を僕たちがより熱くしてお客さんに返して…言葉のチョイスはちょっと違うかもしれないけど、共犯性のある関係ですよね。
プロレスは一人じゃできないって言うけど、二人目以上は対戦相手だけではなくレフェリーもセコンドもお客さんも含めてであって。そういう僕の追い求めたものがあのFACEでは全部集まっていました。同じようにみんなが思いをこめて会場に来てくれて、それが超満員になってその場にいる全員が試合を楽しんでくれて、WRESTLE UNIVERSEやSNSを通じてその向こう側の人たちまで楽しんでくれたのが、僕は本当に嬉しくて」
そう話す上野のきらめく目を見ながら感心したのは、過去のDDTをリアルタイムで見ていなかったにもかかわらず根っこの部分にあるこの団体らしさを、しっかりと把握していることだった。竹下の応援で会場へいくまで、人生の中にプロレスという文化がなかった男がだ。
これが竹下のように子どもの頃から見ていて、そうした価値観が刻み込まれた人間であればわかる。上野はそこを通過してこなかったにもかかわらず、あの頃からDDTのファンがこのリングに求めていたものをとらえる嗅覚が備わっているのだ。
現在のアスリート色が強いDDTの代表的位置づけをされる上野ではあるが、その意味では本人が意識しようとしまいと文化系プロレスラーの感性を持ち、原動力となっているのが面白い。もしかすると、ここ数年の無差別級王者の中で「昔は見ていたけど最近は団体のカラーが変わったから」という層に、もっとも突き刺さる存在になるのでは…そんな気がする。
「僕は青木真也さんの影響がデカくて。青木さんって、人間を出し続けていますよね。格闘家の秋山(成勲)選手とONEで対戦した時、青木さんがDDTのファミリーになって初めて僕は格闘技について一人の選手として見たんです。その時、試合前に『こんなことまで言うんだ!』『そんなにさらけ出して、負けたらどうするの!?』っていうぐらい、青木さんはすべてをつぎ込んだ。
その結果、負けたけど『あそこまで言っていたのに…』というような思いがまったくなくて、その姿に…うん、震えたんですよね。負けたのだって、結果は結果でしかないんですよ。いかに費やすかであって。今でも僕は青木真也を追い求めていますけど、あれは青木さんしか不可能。でも、上野勇希を出すなら自分にしか出せないものが絶対ある。そこからは逃げずにいこうってなれました」
青木に限らずディーノも坂口も、さらには竹下もみな生き方をリング上で見せている。そういう先輩やライバルに恵まれたことによって、自分の脳は止まらず働き続ける。それが、上野の向き合い方なのだ――。
「タケに勝てなくていいよ」と言った時、
竹下は哀しそうな顔をして、怒った
社会に出るのが数年後に迫った高校生の時点で、上野にはこれといった将来的な展望はなかった。「声優って、カッコいいな」と漠然とした思いこそあったものの、アニメやゲームが好きだから以外の理由はなく、どうしても就きたい職業とは違った。
そんな上野青年の人生において、初めての「心が震える瞬間」が、プロレスだった。とはいえ、そこでなりたいと思える対象として固まったわけではなかった。
「ゲームの物語みたいにみんなの人生って枠やルートが決まっていて、言うなればプロレスラーはプロレスラーだからプロレスラーである、自分はプロレスラーじゃないからプロレスラーじゃないといった考えで。何になりたかったかと言われたら、そこそこ幸せに生きていけたらいいなとか、その時点での生きている範囲の中で生きていくんだろうなぐらいの、色のない生活でした。
人前で何かやるのはすごい!とリスペクトはあれど、選ばれし者だけがやっているものだから自分とは違う世界。それはプロレスラーになってからも残っていて、自分を認めてあげる作業を繰り返していましたね。自分も頑張ればプロレスラーになれるんだ、プロレスを始めてからは頑張ったら自分でも勝てるようになるんだ、チャンピオンになれるんだ…要は一番自分を信じていなかったのが、自分だったんです」
現在の姿を見るにつけ、プロレスラーになってからもそのような葛藤を持ち続けていたことは意外な事実だろう。デビュー1年5ヵ月でKO-D6人タッグを、3年2ヵ月でKO-Dタッグを奪取した実績を思えば、誰の目にも順調に映ったはずだ。
だが、本人に言わせると「タッグは吉村(直巳)がいてくれたから獲れたとしか思えなかったし、UNIVERSALもクリスに追いつきたくて頑張ったから獲れた。どれも自分の力じゃなく、他人あっての自分だった」となった。ネガティブな受け取り方ではあるが、逆に考えたら自分の現実がよく見えていたとなる。
本人にそう返したところ「自信を持つのが怖かったんだと思います。だから青木さんの姿がよけいに衝撃的だったんです」と、自身へ言い聞かせるように答えた。そんな上野にとって、深く突き刺さり今でも忘れられぬ一件があった。
「自分なんか無理だよってずっと思っていてある時、竹下に『俺はタケに勝てなくていいよ』って言ったら、すごく哀しそうな顔をしたんです。それで直接ではないけど、怒っていたってあとで伝え聞いて…なんか、自分が思っていた以上に楽しみにしてくれているんだと知った時が、自信を持つ作業の中でもっともっといかなければって思ったきっかけでしたね。
子どもの頃から自分は自分でしかないっていう性格で、自分に対してのワクワクは小さかったし、期待もしていなかった。だからこうして人前で何かをやるのは人生設計においてまったくの想定外。見ての通りお喋りだし、目立ちたがり屋なのに、DDTのチャンピオンになれるなんて思っていなくて、一生懸命やるしかないだろうぐらいの認識でいたのが、タケとの件があって…あれは大きかった」
高校2年の時、知らずにいた世界を自分に見せた友。大阪から夜行バスに乗って東京の試合を見にいき、大会が終わると福田洋(トランザム☆ヒロシ)と3人で北大塚のゴールドジムノース東京へいって一緒にトレーニングした時に「そんなに好きならやってみたら?」と背中を押したのも竹下だった。
プロレス観戦のために東京へ出てきて、バーベルをあげてからまた夜行バスに乗って帰るというのもなかなかの行程。当時の上野にとっては「プロレスラーの竹下幸之介、福田洋と一緒にトレーニングできるなんて、しかも終わったら福田洋から中華をご馳走してもらうなんて、ファンだったらヨダレを垂らして羨ましがること」だった。
DDTが好きになって始めたトレーニングも、プロレスラーになりたいではなく「プロレスラー“みたい”な体になりたい」であり、なれるなど1mmたりとも思っていなかった。あの時、ゴールドジムで竹下からかけられたひとことがなければ、ここにいないと断言する。
「とはいえ、そんなの言われてもこっちは無理だってなるじゃないですか。だけど、大阪に戻ってからも電話してきて『絶対やった方がいいから!』と言われて。そこでなんていうか、許された気になれたんですね。プロレスを知らなかった体の小さな自分だけど、僕自身がすごいと思えるプロレスラーの2人が言ってくれたんだったら、トライしていいんだって。そこが始まりでした。
『あんなにすごい人たちみたいにすごくなりたい』から一歩ずつ、いろんなものを吸収して、いろんな人の思いを受け取って今、チャンピオンなんだって、サウナに入っている時によく浮かんでくるんです。日々の24時間飛び交う雑念がふっとなくなった時に、ポッと出てくるのってそういう思いで。あんなに好きですごいと思っていたDDTのチャンピオンが自分? それ、あの時のHARASHIMAさんだよ!って」
“あの時のHARASHIMAさん”に自分がなって、その挑戦を受けるという現実――仮にこの試合で防衛を果たしたら、次も濃い関係性を築いた相手を望むのだろう。
ディーノやHARASHIMAのようなDDTの歴史を刻んできた世代以外でベルトを懸けてやってみたい相手は?と聞くと、勝俣の名があがった。2人には、The37KAMINA以前から共有する過去がある。
若手育成ブランド・DNAでデビューして1年も経っていない2017年7月4日、上野は初めて後楽園ホールのメインでシングルマッチをおこなった。その時の相手が、先輩の勝俣だった。
まだプロレスラーとしての個を確立していなかった2人。空席が目立った会場の風景は、今でもお互いの心に焼きついたままのはずだ。
「僕は勝俣さんを“心のエナジードリンク”だと思っているんですけど、そんな人がEXTREMEでもUNIVERSALでもなくDDTで一番歴史の長いタイトルを懸けて僕とやったら元気をくれるのか。もしかしたら哀しく思うことになるのか想像できないし、勝俣さんがどう思うのかも想像できないからこそやってみたいって思います。
モチベーションや感動って、一度さらけ出したら回復するまで時間がかかるんです。樋口(和貞)さんも、一昨年に自分が挑戦した時より遥かに心が満ちた状態に映るんで、今現在の樋口さんとやってみたいって思えるし、高木(三四郎)さんもそうですよ。休業するって言った高木さんは今、どんな思いなんだろうって、タイトルを懸けなくてもいいからやってみたいと思うし」
それらの中で、冒頭に述したDDTらしい“強さの競い合いの先”を体現していくのが今、中心点に立つ男の求める道筋。一方で、そうした理想を取っ払った上で「勝たなければ意味がない」相手が、一人いる。
その男との物語は、黙っていても続いていく。
「うん…タケには『勝てなくていいよ』って言った時に、哀しい思いをさせたお返しをしなきゃいけないですから。自分にあこがれて、プロレスラーになった人間がKO-D無差別級のベルトを懸けて打ち負かすって、竹下が打ち負かされたいとは思っていないでしょうけどドラマティックだし、確実に成し得なければいけないのはそこですよね。
それは僕のやりたい大きな夢のひとつですけど今、竹下がアメリカで竹下幸之介のプロレスを尽くす姿を、友達でありライバルでもあり、ファンでもある自分が応援できていて嬉しいです。そうは言いながら、いざ向き合ったら僕の思考のギアが変わるだろうし、お互いどうなっているかわからない。その日までそれぞれ全力で生きていくことがDDTだし、僕たちなんだと思います――」
※3・17後楽園で販売されるガイドブックに、自身が考える「心によるDDTのプロレス」について上野自身が掘り下げたインタビューを掲載。お楽しみに!



