5月24日の記者会見で「枯れて朽ちていく花ではなく、美しいまま散る花でいたい」との明言を残し、プロレス引退を電撃発表した赤井沙希。あれから、あっという間に月日が流れ、秋のビッグマッチ「Ultimate Party 2023」(11月12日、東京・両国国技館)での引退が目前に迫った。引退試合のタイトルは「強く、気高く、美しく」。現在もKO-D6人タッグ王座を保持するEruptionの坂口征夫、岡谷英樹とのトリオで、丸藤正道(プロレスリング・ノア)&樋口和貞&山下実優(東京女子プロレス)とラストマッチを行う。区切りの試合を控えた赤井に胸中を聞いた。
――引退会見をしてからの約半年、濃密な期間でしたか?
赤井 元々プロレスやってると、時が経つのが早いんですけど、より時間が経つのが早く感じて。思い入れがあったり、ちょっと構えなきゃいけない試合が多くて、怒涛のように過ぎ去っていった感じです。ギュッとしてて、より大きい感情の振り幅が増えたなって思います。
――KO-D6人タッグ王座を保持したままの引退は描かれていましたか?
赤井 ベルトを保持したまま引退したいって思いがあったわけではなくて、単純にプロレスラーとして引退する日まで、強くあり続けたいと思っていて。ケガしてやめるわけじゃないんで。上に上がっていく最中での(引退の)決断だったので、自然と強さを求めていったら、防衛が続いて自然の流れでこうなりました。
――全日本プロレスTV認定6人タッグ王座とのダブルタイトル戦もありました。印象に残ってる防衛戦は?
赤井 (8・27名古屋で)全日本さんで6人タッグのベルトを獲らせていただいて。歴史ある団体で上がるのも初めてでしたし、後から聞いたら、女性が初めて挑戦してベルトを巻いたって。そんな意識はしてなかったんですけど。初めての他団体のリングは緊張したり、どういう雰囲気でいこうかと考えたりします。盛り上げられるようにああしようこうしようとか。煽っちゃおうかなと思ったんですけど、メチャメチャ、ウエルカムで。プロレスを楽しもうってお客様ばかりで。自分たちがベルトを獲って、全日本側からしたら流出になるんですけど、みんな喜んでくださって。想像してたものと違うって意味ではビックリしました。外敵として煽って盛り上げようって感じより、この空間を心の底から楽しんでる全日本のお客様を楽しませたいと考えが変わりました。凝り固まった固定概念で参戦したんですが、こういうパターンもあるんだって。お客様とのキャッチボールという意味では、また一つ勉強になりました。
――やはり坂口選手、岡谷選手と一緒に乗り込むのは安心感がありましたか?
赤井 他団体にDDTでのユニットのパートナーと一緒に上がるのは、私の記憶では初めてでした。女子の団体には一人で上がったりで。全日本さんへは一人じゃなかったのはうれしかったです。8月27日は昼のDDT(後楽園ホール)で男色ディーノ選手とシングル。名古屋に移動して、全日本さんのダブルヘッダーで。最初に発表された時は私一人の参戦だったんで、後から坂口選手、岡谷選手と組んで出ると決まってからは心強かったです。隣に信頼してるパートナーがいるのといないのとでは全然違うので。
――全日本の6人タッグ王座は10・21後楽園で獲られてしまいましたが、諏訪魔選手とも対戦しました。貴重な経験になりましたか?
赤井 全日本さんに上がって、まさか諏訪魔選手と当たるとは思わなくて、しかも直接取られてしまうなんて、デビューした時なんて想像もしてなかったです。今は目の前のことに一生懸命で、よく理解できてないんですけど。諏訪魔選手とタイトルマッチをしたって、後から心に来ると思います。
――KO-D6人タッグ王座を持ったままでの引退は、やり遂げた感がありますか?
赤井 6人タッグのベルトは他の格闘技にはないベルトなんで、このプロレスらしいチームの象徴のベルトを持ったまま卒業・引退できるのは、胸を張って最後までリングに立てたなと思います。引退試合には、初めてプロレスを見に来られるお客様もたくさんいらっしゃると思うし、赤井沙希を初めて見る人もいると思います。最後のプロレスラーとしての姿が、チャンピオンとしてリングに立てるのは胸がいっぱいです。
――この半年で記憶に残った試合は?
赤井 9・24後楽園でKO-D無差別級王座に挑戦したクリス(ブルックス)戦。10・22後楽園でのEruption同門対決(坂口&岡谷vs赤井&橋本千紘)。特に体、心のダメージ的に大きかったのは、この2試合です。
「KO-D無差別級王座への挑戦は生涯忘れないと思います」
――やはり無差別級への挑戦は重いことでしたか?
赤井 DDTに入って、挑戦も絡むチャンスもなかったので。DDT最高峰の無差別級は体重のことを言ってるんですけど、何のボーダーラインもないベルト。挑戦する権利を取るのは大変だけど、資格としては誰にでもあるべき。そこに触れることもできなかったので、自分にとっては大きなことでした。たぶんプロレスやめても、この先、生涯忘れないと思います。
――師匠の坂口選手と戦うのは特別でしたか?
赤井 坂口選手は、いつも岡谷選手と隣に立って、支えてくれたり、お互いサポートして試合して。今は6人タッグのチャンピオンなので、絆はすごいあります。橋本千紘選手とは、ずっと対峙してきたなかで、今は女子プロレス界のトップの選手。その選手が隣に立ってくれて、心強かったんですけど、いつも隣に立ってる2人が対峙してて、こっちをにらんでて。私が先に入場して、いつも頑張ろうと思うEruptionの曲が流れて、もう震えました。怖いからではなく、この状況に頭と心と体が一致できなかったんです。
――試合後はもう冷静でいられなかった?
赤井 試合後はそうでした。坂口選手は手を抜かず、私を沈める覚悟で、向かい合ってくださって。師匠、先輩として、私に対するリスペクトの気持ちをもって、対峙してくださったというのを体で感じました。このときの感情はプロレスを10年やってきて初めて経験しました。
――坂口選手と出会ったから今がある?
赤井 ハイ。技術を道場で教えてくださったものもあるし、ファイターとしての心構えとか。私と同じでお父様が有名な方で、ご家族に有名な方がいらっしゃって、重なる部分があるんで。その意味で自分の人生としてもプロレスラーとしてもお師匠様。親でありお兄ちゃん、家族という感じがあります。
――引退試合のカードには、どういう思いがありますか?
赤井 会社にはミックストの3vs3でやりたいと言ってて、最後はEruptionで固めて隣にいてほしい。信頼してる仲間に立ってほしいと。対戦相手はやっぱり樋口選手は特別な存在なので。女子は、私がデビューした年に東京女子が旗揚げして、山下選手は同期なので。これからもプロレスを続けて、プロレス界を背負ってくれる選手でのカード、未来に向けてのカードにしたくて。引退試合を両国ですることで、ふだんプロレスを見ない人が何も知らない情報で、初めていらっしゃる方もいると思うんで、こんなに素晴らしい選手がいるんだと、先につながればと思って。リスペクトしてる、これから未来につながる選手に入ってもらいました。丸藤選手については、やったことない選手と戦うとき、すごい刺激があるんで。そういう刺激を最後まで経験して上りつめたいと思って。
――山下選手とは思いっきり蹴り合いたいですか?
赤井 ハイ。自分がプロレスに入る前、打撃を使う選手が好きだったんです。山下選手とは今までも蹴り合ってきました。彼女は海外でも活躍してて、これからもっともっと国内だけじゃなく、海外でも活躍する選手になると思うんで。今の山下選手を味わいたいというのと、自分の蹴りを味わってほしいというのもあります。単純に後のことは考えず、山下選手とバチバチやりたいですね。
――道は分かれましたが樋口選手は今も同志と思っていますよね?
赤井 そう思ってます。Eruptionで組む前から、樋口選手がヒザをケガしたときも、連絡取り合ったり、食事に行ったりもしてたんで、ずっと絆はあって。プロレスラーとして、違う方向性に進んではいるんですけど、樋口選手も今自分なりに信じた道を進んでいるので、その姿を、背中を見て応援したいなって思ってます。
――やる以上、勝って終わりたいですよね?
赤井 やるからにはレスラーなんで勝ちには行きます。ただ、そのときの自分のメンタルがどうなってるのか想像できないですね。
――試合終了のゴングが鳴った時、燃え尽きるくらいのファイトをしようと思ってますか?
赤井 出し切りたいとは思ってます。ただ1試合で赤井沙希のすべてを詰め込めるほどプロレスって単純じゃないんで。やり切りたいという気持ちは持ってリングに上がりたいです。



