先頃、WWEの二大タイトルであるWWE王座とユニバーサル王座がロマン・レインズによって統一されたのち、世界ヘビー級王座が新設されセス“フリーキン”ロリンズが初代チャンピオンとなった。ロウとスマックダウン2つのブランドに分かれ(ほかにNXTがあり)、TVショーでストーリーが展開されていくWWEにおいては、常にそれぞれの“最高峰”が必要であり、過去にもベルトが統一されながら新たなタイトルが設立される歴史を繰り返してきている。
いつの時代もこれらを巡る争いがメインストリームとなるのは不変だが、言うまでもなくそれだけでショーは成り立たない。よって他のシングルやタッグの王座もあり、番付的には大関・関脇クラスのスーパースターたちがそこへラインナップされる。
横綱格ではないからといって、それらのポジションに誰もがつけるものとは違う。世界最大のプロレス団体ゆえの生存競争の中で勝ち残るのは、並大抵の実力では難しい。
2007年から2020年にかけて、ザック・ライダーことマット・カルドナはそうした群雄割拠の中で常になんらかのタイトル戦線へ絡む存在だった。足かけ13年間もWWEに在籍し、そうしたポジションをキープすること自体が誇れる“実績”なのだ。
WWEの下部組織・FCW(NXTの前身)で一軍入りを夢見ていた頃のザックは、同じくスーパースターになるため新日本プロレスを退団し海を渡ってきたヨシタツとともに汗を流した仲。シェイマス、ドルフ・ジグラー、ブレイ・ワイアットなど、のちのメインクラスたちがゴロゴロいた時期である。
2007年5月1日、第三のブランドとしてあったECW(いわゆるWWECW)でメインロスター入りを果たし、7ヵ月後にエッジと結託しヒールターンしたのを機に、リングネームをブレット・メジャーからザック・ライダーに変更。2人の関係性はストーリーラインを超えたものであり、2012年に殿堂入りを果たしたエッジがそのスピーチで仲が良かった友人としてマット・ストライカー、トミー・ドリーマーとともにザックの名をあげていた。
「この団体ではまず、ボーイズたちに信用されなければやっていけない。本当の家族よりも長い時間行動をともにするのだから、それが何よりも大切なんです。だから、長く在籍する=信用されているということです」
日本人スーパースターとして活躍したFUNAKIから、そのような言葉を聞いたことがある。我々オーディンスの目が届かないところで、ザックの評価は高かったのだろう。そしてそれに応えるべく、日本的な言い回しをするなら職人的姿勢で全うし続けた。
初のメジャータイトル獲得は2008年7・20PPV「グレート・アメリカン・バッシュ」におけるWWEタッグ王座。カート・ホーキンスとの「ジ・エッジヘッズ」で4WAY戦を制した。2011年12・13PPV「WWE TLC(テーブルズ・ラダーズ・アンド・チェアーズ)」ではUS王者・ジグラーに勝ちシングルタイトルを奪取。
このベルトを巡りジャック・スワガーとの抗争が本格化。王座を奪取する12日前には初来日を果たしたWWE日本公演でシングルマッチをおこなっており、フィニッシャーであるラフライダー(スタンディング式レッグドロップ=現在はレディオサイレンスの名称で使用)を初披露している。
1ヵ月後、スワガーにベルトを強奪されたものの、このタイトル獲得でザックはそのポジションを確立。前年の2010年から2019年までの間、年間最大のイベント「レッスルマニア」へ8度の出場を果たした。
US王座を奪取する前年の3・28レッスルマニア26では、初出場ながら26人参加バトルロイヤルのラストまで残り、フロリダ時代の盟友・ヨシタツと優勝を争った。日本のニュース的にはヨシタツの快挙が大々的に報じられたが、7万2219人の大観衆の前で闘えたのは2人に格別の感慨があったと想像できる。
並みいるスーパースターズの中でも選ばれし者しか出場できぬWWE最高のひのき舞台へ、コンスタントに出場しただけでも偉業と言っていい。中でも今なお語り草となっているのが、2016年4・3レッスルマニア32のインターコンチネンタル選手権ラダーマッチ。王者のケビン・オーエンズにザ・ミズ、ジグラー、スターダスト(現コーディ・ローデス)、シン・カラ(2代目)、サミ・ゼインとともに挑戦するという、そうそうたる顔ぶれによるスリリングな一戦だった。
この大会はテキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムに10万1763人もの大観衆を集め、それまでの室内スポーツイベントの最高記録とされた1987年4・7レッスルマニア3シルバードーム(ハルク・ホーガンがアンドレ・ザ・ジャイアントをボディースラムで投げたシーンで有名)の9万3197人を29年ぶりに更新し、またレッスルマニア史上初の10万人超えという記録ずくめのメガイベントとなった。20万3584個の目が天井からつるされたベルトを巡るラダー上の攻防に釘付けとなる中、ミズを突き落としたザックが勝利の証へ顔を埋めた瞬間、スタジアムは歓声とどよめきに包まれた。
なぜなら、7人の中でザックは伏兵的存在と見られていたため。下馬評を覆し新王者となったことで、またしてもその存在を印象づけたのだった。もっとも、翌日のロウでは実父とミズの妻・マリースが揉めているところに気をとられるうち、まんまとミズに足元をすくわれ一日天下となってしまったが、US王座とIC王座という2つの“大関の象徴”を自身のキャリアに刻んだあたりがザックの真骨頂と言えるだろう。
8度のレッスルマニア出場中5度がバトルロイヤルで1度が7人参加のラダー戦と、多人数によるカードにラインナップされることがほとんどだったザック。最後となった2019年4・7レッスルマニア35ではかつてのタッグパートナー・ホーキンスとのコンビでザ・リバイバル(ダッシュ・ワイルダー&スコット・ドーソン)を破り10年半ぶりにロウ版タッグ王座へ返り咲いた。このカードは前王者組に王座が戻ったあと、その年の日本公演にも“輸入”されタイトルマッチとしておこなわれた。
WWE在籍中、ザックは2011~2013、2019年と4度日本公演のメンバーとしてやってきた。今回のDDT登場は2019年6・29両国国技館の対カール・アンダーソン&ルーク・ギャローズ戦(パートナーはホーキンス)以来となる。
4度の日本公演経験によりスモーアリーナの雰囲気を熟知しているザックだけに、7・23両国も臆することなく本領を発揮させるはず。日本のWWEユニバースも「レッツゴー・ライダー!」や「ウー・ウー・ウー!」のチャントで盛り上がったものだったが、今回はマット・カルドナに対し、どんなリアクションが発生するか。
レディオサイレンスと並ぶ得意技として、ザック時代はブロスキーブートの名称で使っていたリブートは、いわゆる顔面ウォッシュ。日本のファンにはなじみ深い技だけにこれが出れば国技館が一体化すると思われる。
2020年4月、新型コロナウイルスの影響を受けた大量リリースのリストにザックの名があった。あのパンディミックがなければ今もWWEで活躍していたかもしれないが、逆の見方をするとそこからマット・カルドナとしての可能性が広がり、米インディーシーンの大物へとグレードアップすることにつながった。
同じような番付にいたコーディも退団後にAEWを設立。WWEへカムバックした今では「ロイヤルランブル」で優勝し、レッスルマニアのメインでレインズと統一王座を懸けて闘うまでの大物となった。元WWEスーパースターの肩書はあくまでも名刺代わりであり、重要なのは今現在の実績と価値なのだ。
その意味でも、WWEユニバースの中に残るザック・ライダーのイメージを凌駕する男となって日本に帰ってくる期待が膨らむ。レッスルマニアのラダー戦のように、見る者を驚かせるのがカルドナの真骨頂であるならば――。



