今年も松井レフェリーのプロデュース興行が7月2日(日)大阪・コミ協ひがしなり区民センターで行われる。記念すべき10回目のメインイベントは、上野勇希vsHUBのシングルマッチだ。
よく知られているように高校の同級生だった竹下幸之介がデビューしたことでプロレスを知った上野は、竹下が尊敬するHUBの映像をたくさん見ることで自身もHUBの大ファンになった。運動神経が良く若手時代からなんでも苦労なくこなしていたように見える上野だが、自分がどんな選手になりたいのか、掴みきれないままリングに上がっていたという。そんな上野の目を釘付けにしたのが、ビリーケン・キッドや"ビッグボス"MA-G-MAらが日々激闘を繰り広げていた2000年代前半の大阪プロレスで、その映像の中に上野は「自分の中の『かっこいい』という言葉の事例の一行目にかけちゃう」存在に出会う。それが、ゴアこと現在のHUBだった。
当時のことを知らない世代から憧れの対象として見られることについて、HUB自身は「ホントかー?という疑いの気持ちが強いですが、素直に受け止めるとしたら……それは当時の大阪プロレスの選手達と戦っていたからこそ輝けていたと思います。あの頃の必死の僕らの戦いが響いていたんだと思うと誇らしいです」と胸を張る。そして今回の試合に向けて、驚くべきひと言を語ってくれた。
「彼の純粋な気持ちに応えたくて、体を変えた。今が24年のキャリアで最高のコンディションです。今のHUBを引き出してくれたのは間違いなく上野くん。僕が生み出したWRも完全に自分のモノにしてる。消えかかっていた僕の心に火をつけてくれた、リスペクトの心をもって上野勇希と戦います!」
誰もが知るようにHUBは厳しい選手だ。対戦相手に情熱がなかったら、そこに容赦はない。以前、タッグマッチで上野と対戦した時には「運動神経がイイから飛びも投げも何でもできる印象。でも、だからこそ逆に何を魅せたいのかが伝わってこない」と指摘していた。そしてその厳しさは対戦相手以上に自分に向けられる。これまで私たちは幾度も、不甲斐ない自分に涙したり、思う通りに動かない身体に歯を食いしばるHUBの姿を見てきた。キャリアを重ねてからは特にそうだった。そのHUBが、今が24年のキャリアで最高のコンディションです、と言うのだ!
これがどれだけすごいことかわかるだろうか。
現在27歳、キャリア7年の上野勇希は、遠くない未来にDDTのトップに立ち、プロレス界を代表する選手になるだろう。DDTのメインイベンターとして喜びも、そして悔しさも味わってなおまだ成長の最中にある。そしてHUBは44歳、今年でデビューから24年を迎え、そのキャリアの全てをローカルの団体に捧げ、地方からそのほとばしる情熱を言葉にして試合にしてさらけ出し、遠くに届かせてきた。その二人が2023年7月、ベストコンディションで向かい合うことができるのだ。夢が夢のまま終わらなくて良かった。この邂逅が、間に合って良かった。
今回HUBとの対戦で何を得たいか、との問いに上野は「松井さんの前でHUBさんと試合をするという事で胸がいっぱいで、戦いで何かを得たいとか、いま求めることは全くないです。メインイベントの3人しかいないリングで、ゴングがなったら僕の夢の世界です」ときっぱり応えてくれて、私はそう問いかけた自分が恥ずかしくなった。
はるかにキャリアの違う憧れの存在が、ベストコンディションで向かい合ってくれる。上野勇希は幸せなプロレスラーだ。
キャリアを重ねてなお、自分に火をつけてくれる存在がいて、その選手のために自分を整えて向かい合うことができる。HUBもまた、幸せなプロレスラーだ。
「もちろんプロモートするワタクシも幸せです」
と松井幸則レフェリーも顔をほころばせる。DDTに松井さんがいて、大阪プロレスを見て育った竹下幸之介がいて、竹下のデビューに人生を変えられた上野勇希がいて、そして大阪でHUBがまだ頑張っていて、全部が揃って初めて実現する今回のシングルマッチだ。「上野にとってはプロレスを続けている限り、振り返るとそこにある大きなターニングポイントになる試合になると思いますし、HUBにとっては今後まだまだ続くであろうプロレスラー生活の、さらなる励みになるような試合になって欲しい」と松井さんはエールを送る。
メインの上野vs HUBだけでなく、久々にディック東郷選手もやってくる。マグニチュード岸和田選手は30周年記念試合だ。もちろん松井さん興行には欠かせない入江茂弘選手もいるし、絶対に笑ってはいけない遠藤哲哉選手も気がかりだ。
今回の大会タイトル「身をも惜しまじ 名をも惜しまじ」は明智光秀が本能寺に赴く前に読んだ辞世の句だという。ちょっとびっくりしてその真意を尋ねたら、「こじつけなのですが、敢えて言うならこのご時世、自分の好きなことだけやって生きていくのは難しいけれど、この瞬間だけは何にも邪魔されないでお互いの技と体と心をぶつけて欲しい、みたいなことでしょうか」と松井さんは応えてくれた。
1年に1度、松井さん興行で出会っては、紡がれていく物語がある。懐かしい顔に、新しい顔合わせがある。毎年見たいお約束と、初めて見るムーブメントがある。その身も名声も惜しまずに今を生き切る彼らの戦いに、心をまっさらにして向かい合いたい。



