現在、AEWで活動する竹下幸之介が高木三四郎戦をぶち上げた1・3後楽園。デビュー以来10年間、一度も実現していないシングルマッチをこのタイミングで希望したのはどのような思いによるものだったのか。
常に自分の逆をいっていた高木さん。
レスラーとしてオールアウトしてほしい
――3・21後楽園での高木三四郎戦ですが他団体の選手ならばともかく、同じ団体に所属していながら一つのシングルマッチが実現するまで10年かかったというだけでも異例ですよね。
竹下 もちろん、もっと早く実現していておかしくないカードですけど…プロレスはタイミングが重要だと思うし、たとえば僕のデビューが5年早かったら高木さんもKO-D(無差別級)戦線に絡んでシングルプレイヤーとしてもバリバリにやっていた時期で、その時に僕がいわゆる期待の新人としてデビューしていたらすんなり組まれていたと思うんです。でも、僕がデビューした頃にはもうベルト戦線から退いていて、すでにチーム変態大社長でタッグの方にいっていた。
――団体のトッププレイヤーというよりも、自分のやりたいことを優先していました。
竹下 そういうのもあって、これは本当に結果的なものとして組まれなかった。ある意味、高木さんとは真逆の方向に僕はいっていましたよね。僕が両国のメインだった時、高木さんは第1試合で(木髙)イサミさんとやっていたり(2019年11月3日)、僕の中ではそうやって反対の方にいくのが高木さんだった。デビューして初めて大阪で試合をした時が高木さんと初対戦だったんですけど(2012年9月16日、ボディメーカーコロシアム第2競技場。高木&火野裕士vs飯伏幸太&竹下)、その時に松永(智充)さんが「高木さんは期待の新人とはシングル、タッグ関係なく試合をしたがるから」って言われたんです。昔だったら飯伏さん、最近なら正田(壮史)のように確かに実現しているんですけど、僕に関してはそうならなかった。
――逆をいったという以外に、心理的理由があるとするならどんなものだと推測しますか。
竹下 仮に高木さんの意思で「竹下とはやらない」と思っていたとしたら、僕が一番脂の乗っている時にやりたかったんちゃうかな。
――完全にオイシイとこ取りですね。
竹下 そうそう。ただ、僕の全盛期がいつになるかはわからないわけだし、それを待っていても…プロレスは待つだけでは自分のもとに来ないじゃないですか。つかみにいく、決めにいかないといけないんで。だから、我がままであろうとリングの上で言って実現させるしかない。
――1・3後楽園で竹下選手から口にしなかったら一度も一騎打ちをやらないまま終わっていた可能性が高いです。
竹下 僕もそう思います。まあ、アメリカに来ているのもあったり、高木さんが四十肩、五十肩って言っているのを踏まえると、このタイミングを逃したらないなと。ましてや今後、高木さんはレスラーとしてのウエートをもっと減らして、経営者としての比重をあげるのは確実で、その時にやったところでビンスとストーンコールドのようになる可能性はあるかもしれないけど、ビンスは先に経営者であとからリングに上がったのに対し、高木三四郎はその逆でやっぱりプロレスラーですから、動けるうちにやりたい。
――実はALL OUTをやっていた頃に「高木さんとシングルをやりたい。高木さんこそがオールアウター」って発言していたんですよね。その思いが頭の中に残っていたんだと思ったんです。
竹下 アメリカにいると移動が長いのもあって、けっこう時間が余るんで昔のDDTの映像を見ているんです。2004年から2009年ぐらいを見ると、やっぱり高木さんが常にシングル戦線の中心にいるんですね。今なら推し活というか、たとえばThe37KAMIINAは人気があるユニットとして分散していて、リング上もみんなで盛り上げていこうという感じでやっている。それに対しあの頃のDDTは高木三四郎が一人で全体を引っ張っている形だった。
――団体経営だけでなく、リング上も高木商店そのものだったという。
竹下 その時のギラギラしている姿に、これをもう一回見たいなあって思ったんです。
――現実問題として、その時から14年以上経っている今、もう一度まとうことが可能かどうか。
竹下 僕が戻したい。そこが勝敗とは別のところでのテーマです。初めてシングルでやるからには、自分のやりたいことが原動力になります。
――あの頃の高木三四郎を引き出さなければ意義はないと。後楽園で対峙した時点で高木選手は「おとなげなさ、デタラメさ、やりすぎさを全部戻す」と宣言しています。まあ、正攻法だけで来るような相手ではありません。
竹下 そこはどう来ようともいいんですけど、その先にある底力を出してこないと……プロレスが自分の想像を超えてくることが年々少なくなってきているんで、竹下幸之介の想像を超えた高木三四郎が見たい。それは高木三四郎のプロレスでもDDTのプロレスでもなんでもいいので、それこそオールアウトしてほしい。経営者としてはオンリーワンだし、見方によってはナンバーワンと言っても過言ではないと思います。DDT、東京女子、ガンプロをやって、かつてはWRESTLE-1、今はプロレスリング・ノアに携わって、武藤敬司引退試合を東京ドームで開催した会社の社長です。そんな人間は世界で高木さんただ一人でしょう。これから先、よりDDTが大きくなっていく上で経営者・高木三四郎の手腕は必要になってくる。でも…でもですよ、それ以上に高木三四郎はプロレスラーなんでしょっていうことです。今こそ聞きたいです、本当にプロレスラーとして出しきりましたか? このままいったら、プロレスラーとして中途半端な感じで終わってしまわないですかって。
――確かにこの数年は、経営の方に比重を置かなければならない立場もあってプレイヤーとしては一線を退いたのか、まだまだガンガンやるつもりなのかどっちつかずという状態が続いています。
竹下 そうなんです。だから僕との試合で出しきれたら、そこで引退しようと思ってもらってもいいし、逆にまだまだいけると思ってもらってもいい。急に本気で無差別級をもう一度獲るぞってなってもいいんですよ。かつて大仁田厚を食らおうとした高木三四郎を見せてほしい。じゃないと、わざわざ日本へ戻る意味がない。僕は高木さんに並走するつもりはないので、僕についてこられるかどうかに尽きます。試合中に五十肩が発症する可能性もあるわけで。
WWE** **をオマージュしてきた高木さんへ
実際に接している僕をぶつけたら……
――よくよく考えたら、この試合は高木三四郎がAEWの主力選手と1対1で闘うシチュエーションにもなるんですよね。
竹下 今の僕は、DDTの中でゲスト外国人的な扱いになっていますけど、AEWで闘う時は「俺はDDTだ!」っていう気持ちを残してやっていて、反対にDDTで試合をする時はAEWを代表して上がるという姿勢なんで、そういう部分はあります。あと、この大会で高木さんとやりたいと思ったのは……史上最長時間興行をうたっていますよね。AEWだと普段ダークから本戦のダイナマイト、ランペイジで20試合ぐらいあるんです。その中でダークに組まれようとTVマッチに組まれようとその日の一番を目指して常にやっているんで、後楽園の試合数が十何試合あるとなれば同じ気持ちもあるんですよね。僕たちの試合はメインではなくとも、この日の一番語り草となって見た人たちの中に残るような。竹下vs高木だったら、語れる試合になるだろうなっていう思いがあるんです。
――その上で、存在感で高木三四郎を上回らなければならない。
竹下 そもそも高木さんってストーンコールド・オマージュというか、イズムが中にあるじじゃないですか。
――この試合に関してはビンス的立場ですが。
竹下 そういうオマージュがDDTのカラーの一つだった。その中で僕は今、AEWにいて当時のWWEを経験しているスーパースターと触れたり話したりして培ったものもある。
――離れたところでのオマージュではなく、実際に接しているわけです。
竹下 それをオマージュでやり続けてきた高木さんにぶつけたら、どうなるか。プロレスって、パクリが本物を上回る時もあるわけで、それぐらいのデタラメさを見せるのが高木三四郎じゃないですか。僕はAEWの竹下幸之介として、やることは変わらない。何かをやるのだとしたら、それは高木さんの方であってこれでいくのか、あれでいくのかっていう選択肢が多いのは高木さん。あの頃のWWEに触れた僕に対し、何を選択するのかです。
――高木三四郎に対しおとなげなさやデタラメさを出す竹下幸之介も見てみたい気がします。
竹下 だからおとなげない高木三四郎を出してくれば、おのずと僕はそこでも上回ろうとします。
――“そっち”でもやれると。
竹下 やれます。こっち(AEW)では、プロレスにおいてサバイブするのに必死です。そこに関しては高木さんに負ける要素はない。また昔の話になりますけど、DDTがドインディーとしてナメられていた時代の高木さんがそうだったと思うんです。おまえら、今に見てろよって生き残るために、見返すためにプロレスをやってきた。
――そのサバイブを今、AEWで体験していると。
竹下 その真っ只中にいる僕だから「高木さん、今はどうですか?」って問えると思うんです。今でも「DDTとは?」と聞かれたら。みんな高木三四郎って答えるでしょう。でも、あの頃のナメられたくないという気持ちを今も持ち続けていますか? それは高木さんだけでなく、DDTそのものに対する問いかけでもあります。現在、無差別級とUNIVERSALの2本のシングルのベルトを他団体・フリーの選手が獲って、EXTREMEも生え抜きではない秋山さんが持っている。なんかね、DDT=高木三四郎という芯が揺らいでいる気がするんです。
――チャンピオンの顔ぶれだけを取ると、DDT色ではないですよね。
竹下 アメリカから見ていると、名前だけ……“ガワ”はDDTでも、メジャーに負けないってやってきたDDTなのかって映るんです。そういうものをぶつけるとしたら、高木三四郎が一番じゃないですか。
――これまで経験してきた先輩との一騎打ちとは明らかに別モノですよね。エモーショナルな部分ではどんな思いがありますか。
竹下 僕の中では明快に“親父超え”です。親を超えるのもそうですけど、親子喧嘩は一回やっておかないと。
――本当に親子喧嘩、やってこなかったですもんねえ。
竹下 プロレスにおける親孝行は、引導を渡すこと。ただ、自分がどういう感情になるかは終了のゴングが鳴ったあとでなければわからない。僕が求めていた高木三四郎と闘えて満足しているかもしれないし、やっぱりあの頃の鼻息はなかったなってガッカリしているかもしれない。だけどやっている本人でさえわからないからこそ、見ている人たちの感情にまで訴えることができるのがプロレスなんですよ。



