3月30日と31日のアメリカ・ハリウッド大会が目前に迫るDDTに対し、どうやら世界中のプロレス団体がDDTの動向に注目しているようだ。
あのAEWも、「“ワルい奴ら”をDDTに乗り込ませよう」と、選手の派遣を秘密裏に進めていた。
1月3日後楽園ホール、新年最初の大会において発表された選手の名前に場内が騒めく。
AEWが送り込んできた刺客は、“スーパーバッド箱男”キップ・セイビアンと、その妻“バッドガール悪女”ペネロペ・フォード。
AEWが誇る世界No.1美形夫婦と称され、夫婦共に“Bad バッド”の異名をとる、“美と悪”この二人の参戦に、DDTは打つ手はあるのか……。
プロレス界一カッコいい髪型だと自負する夫のキップ・セイビアンは、イギリス東部ノーフォーク州の海沿いの街、グレート・ヤーマス出身の30歳。子供の頃からプロレスが好きだったセイビアンは、ある時、父親にロンドンで行われたWCWの大会に連れて行ってもらった。初めてのプロレス観戦だったが、セイビアンは楽しめなかった。なぜなら、セイビアンの好きなWWEのレスラーが出ていなかったからだ。
プロレスは好きでも、WWEとWCWの違いもわからなく、自分自身がプロレスラーになろうとは考えもしなかったが、思春期を迎えた10代半ばには、その気持ちに変化が生じるようになる。
セイビアンの眠っていた才能を目覚めさせたのは、あのウィル・オスプレイだった。一つ年下のオスプレイと友達になったことで、オスプレイの家で、当時イギリスで人気のあったTNA(現インパクト)を一緒に見たり、バックヤード・レスリングに興じるようになり、プロレスの面白さに開眼したのであった。セイビアンは、特にモーター・シティ・マシンガンズが好きで、セイビアンというリングネームは、クリス・セイビンから大きな影響を受けたからである。
バックヤード・レスリングでプロレスごっこをしていたセイビアンは、ある時、地元で行われたWAW(World Association of Wrestling)のプロレスセミナーに参加する。WAWは、現在AEWで活躍しているサラヤ(元ペイジ)の両親がノーフォーク州ノリッジで運営しているプロレス学校も併設している団体だ。WWE時代のサラヤを描いた映画「ファイティング・ファミリー」の舞台にもなったことで知られている(セイビアンも映画にエキストラで出演)。
まだプロレスラーとして真摯な姿勢を持っていなかったため、若気の至りもあり、無茶苦茶な受け身をとったり、ウケ狙いの無意味なムーブをするなど、ふざけた態度で講義を受けた。その愚かな行為を、師範代のサラヤ・ナイト(サラヤの母)に叱責される。また、同じく講義を受けていた選手からも注意されたことで、セイビアンは自分の愚かさに気づき、馬鹿げた行いを反省し、心を改める。セイビアンが、プロレスラーとしての一歩を踏み出した瞬間であった。
2010年10月、18歳でプロレスデビューを飾り、イギリスの有望若手選手としてその名を轟かせる。2018年8月にROHイギリス大会に参戦したことで、アメリカにもその名前が知れ渡ることになる。
2019年2月、設立間もないAEWとの契約を得たセイビアンは、同年5月のAEW旗揚げ戦「ダブル・オア・ナッシング」に出場し、本放送前の事前試合ながら、サミー・ゲバラ相手にAEWデビュー戦を初勝利で飾る。
契約選手が増えていき、番組登場選手が限られていく中、ミロとのタッグチームなどで活躍するが、2021年4月の「ダイナマイト」でミロとの仲間割れを最後に、怪我の治療のため、表舞台から姿を消した。
同年5月に肩の手術をしたというニュースから数ヶ月後、“過小評価”と書かれたダンボール箱をかぶった、スーツ姿の謎の男が、会場の客席に座る姿をカメラがとらえる。セイビアンと背格好の似た謎の箱男は、それから約1年、時折、番組に姿は見せるものの、正体は明かさぬまま。だが、ついにその時が来た。2022年8月24日の「ダイナマイト」で、オールアトランティック王者PACを背後から急襲し、自らが箱男の正体であったことを満天下のファンに示す。およそ1年4ヶ月ぶりにテレビの画面にその姿を表したセイビアンは、その直後、9月4日の特番「オール・アウト」でPACとの王座戦にて、ようやく本格復帰を果たしたのであった。
妻ペネロペ・フォードもセイビアンと同じくAEW設立当初からの在籍メンバーである。アメリカ・アリゾナ州フェニックス出身で、学生時代にチアリーダーや器械体操で活躍したペネロペは、CZWでプロレスを学び、2014年にプロレスデビュー。持ち前のアクロバティックな動きを駆使した華麗な動きで、CZWやGCW、BeyondWrestlingなどの米東部インディーで活躍。特にGCWではザンディグからガラス板に投げ込まれたり、ザ・グレート・サスケと一緒にリング上でダンスのステップを踏んだりと、知る人ぞ知る名場面を彩った。
同い年でお互いに無類のゲーム好きだったこともあり、AEWに入ってから交際を始めた二人は、2020年4月4日に婚約。翌2021年2月3日の「ダイナマイト」生放送内で結婚式をあげる。プロレス番組での結婚式は、演出であることが普通だが、この二人に限っては「本当の結婚式」だった。
箱から素顔に戻ったセイビアンは、妻ペネロペとの夫婦コンビで活躍中。来日直前の「ダイナマイト」では、ハングマン・ペイジとの試合も決定した。
長期欠場から復帰したセイビアンにとって、2023年はより一層の飛躍の年になるに違いない。本来ならば、ペネロペも試合に出て、チアリーディングと器械体操で培った美しい技の数々を見せてもらいたいのだが、残念ながら、怪我のため試合には参戦できないとのことだ。今回はマネージャーとして、夫セイビアンの全力サポートに集中してくる。
AEWからの刺客キップ・セイビアンとペネロペ・フォードは、2・18名古屋、2・26後楽園の両大会で、寒さを吹き飛ばす二人の熱い夫婦愛を見せつけてくるだろう。アメリカから一筋縄ではいかない、“美と悪”の強烈な個性を持った夫婦がやって来る。我々は、二人の一挙手一投足から目を離してはならない。
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店主 タカ中山



