本来ならば今年7月に開催される予定だった松井レフェリー主催興行が、いよいよ10月18日日曜日に近づいてきた。キャパシティの50%以下の収容人数、感染症防止対策などまだまだ心置きなくとは言えないけれど、目の前でプロレスを応援出来る喜びはやはり格別だ。そして今回も、松井幸則レフェリーの心のこもったが全8試合がラインナップされた。
ダブルメインイベントとして組まれたひとつが、「チームWRvsザ☆竹ビリー スペシャルタッグマッチ~紡~ 」と銘打たれた上野勇希&HUB組vs竹下幸之介&ビリーケン・キッド組のタッグマッチだ。上野、竹下というDDTを背負って立つ若きエースたちと、HUB、ビリーという大阪プロレスのスター選手たちの混合タッグになる。
竹下が少年時代に大阪プロレスのプロレス教室に通っていたのは有名な話だ。当時スーパードルフィンを名乗っていたHUBは竹下にとってプロレスの厳しさ、面白さを教えてくれた先生であり、選手として憧れの存在であると同時に、この人と試合がしたいと思ってプロレスラーになった目標だった。ゼロvsGAINA、ゼロvsシーサー王、怪人ハブ男vsビリーケン・キッドの試合をいったい何度見返したかしれないという。
一方、上野は高校の同級生である竹下がプロレスラーになるまで、全くプロレスを見たことがなかった。竹下がリングで輝く姿を見て自分もレスラーを志し、DDTに入門。その後、体操で培った持ち前の運動神経と器用さであっという間にDDTのトップ戦線に上りつめている。そんな上野はプロレスラーになってから、かつて竹下が憧れた大阪プロレスの試合をたくさん見たという。
「僕は大阪プロレスをリアルタイムで見たことはないのですが、映像で見てもその凄さたるや、感動の域でした。 受け身とか技とかだけではなくて、所作すらも全て凄いゴア選手、体力と運動能力、華々しさを極めているビリー選手。かねてから大阪プロレスの中でも両選手共に、レスラー上野勇希に足りない部分や、必要な部分を持たれていると思っていました。 最近の試合を見ていてもコンディションの保たれかたも凄いですし、リスペクトしかないです」
今回のカードが決まって、上野はこう答えてくれた。実は上野は、かつてHUBがスーパードルフィン時代に使っていたWRという技を、無観客のTVショーの中である日いきなり、繰り出した。その日試合の解説に入っていた私は突然目の前で繰り出されたその技に反応が出来ず、言葉に詰まってしまったことを覚えている。
「大阪プロレスの映像を見ていて、当時、スーパードルフィン選手が使っていたWRを見て衝撃を受けました。 自信の持てるレベルまで習得できたと思えたので、HUB選手に連絡させていただいて、快く使用を許していただきました」
その技、WRについて、オリジナルの開発者のHUBはこう解説してくれた。
「WRは受け身を取るのが難しくて、相手がきちんと受け身を取れないと自分が大ダメージを負ってしまう諸刃の剣みたいなところがあるんです。上野選手には是非とも自分のものにして、いかなる相手にも食らわせられる技にしてもらいたい。でもそれは相当に大変ですよ」
そんな難しい技を映像で見て使ってみようと思い、それを習得してしまう上野の運動神経、HUBに使っていいかと許可を取るところ、さすがスマートな上野勇希だなと唸らされる。松井レフェリーも「上野にはフィニッシュを取れる技がないと言われ続けていたところでWRを選ぶセンスは凄いなと思ったし、このタイミングでHUBの横に立って何かを吸収して欲しい」と語っている。
上野にとって今回のパートナーのHUB、そして対戦相手の竹下、ビリーは「いろいろな角度から見た理想のレスラー像に近い3人」だという。果たして何を吸収してくれるのか、そして試合の中でどんな成長を遂げてくれるのか楽しみだし、その隣に並び立つHUBは「過去&今vs過去&今ではなく、今&今vs今&今なんです」というしびれる言葉で、この試合の誰にも負けないことを宣言してくれた。若さ、勢い、華やかさ、巧さ、どんな組み合わせもどんな顔合わせも楽しみなこの試合で、果たして誰が何を私たちの心に残してくれるだろうか。
さて、もうひとつのメインイベントが「スペシャルタッグマッチ~留め置かまし 大和魂~田中将斗&入江茂弘組vs樋口和貞&坂口征夫組」だ。見るからに強そうで迫力のある4人が揃ったタッグマッチだが、松井レフェリーは中でも樋口和貞に大きな期待を寄せている。
樋口和貞はこの11月で6年目を迎える。デビュー当時から大相撲で培った体格の良さとしなやかさ、イベント試合などで見せるコミカルな部分やハードコアなどの適用能力も高く、DDTのトップに立つのに時間はかからないだろうと思われた。デビュー半年でKO-D無差別級に挑戦もしている。しかし、なぜか未だに戴冠できていない。今年6月の無観客でのビッグマッチ「WRESTLE PETER PAN2020」で当時、田中が持っていたKO-D無差別級に挑戦まであと一歩と迫った。結局、その挑戦の座は遠藤哲哉に奪われてしまい、田中からベルトを取り返したのも遠藤だった。
その後、KING OF DDT 2020準決勝でも樋口は遠藤に敗れ、遠藤に「あいつには足りないものがある」と厳しい言葉をかけられている。樋口戴冠の期待はこれまで何度も高まったものの、それが果たせていないのは遠藤の言葉の通り、樋口に何かが足りていないのだろうか。気運が高まりながら結局実現しなかった田中とタッグながら対戦することで、松井レフェリーは「足りない何か」を樋口に感じて欲しいと願っている。
今回、久々にDDTの選手と対戦するZERO1の田中は、この試合のオファーを受けて「やりがいがありそうで、小細工なしの真っ向勝負が出来る相手だな」と感じたという。KO-Dのベルトをめぐって対戦が実現しなかった樋口についての印象についてはこう答えてくれた。
「道場をシェアしてるときに初めて見たときは、大きくて、礼儀の正しい真面目な印象でした。その後対戦もなく、もう少しでシングルって時に消滅したカードなんで、タッグながら対戦するのは楽しみです」
プロレスラーがトップに立つには、心と身体の強さ、本人の努力、運、タイミング、様々な要因が重なり合う。そして、しかるべき対戦相手との試合、というのもひとつの要素になってくるだろう。竹下は今から4年前、まさに松井レフェリーのプロデュース興行で「12年越しの夢。スペシャルシングルマッチ」と題してZERO(HUBの別名)と対戦し、その直後に21歳にしてKO-D無差別級を初戴冠した。HUBは今回、「個人的にはZEROvs幸之介のリベンジをしたい」とあの時以上のコンディションに整えて試合に臨むことを宣言している。
普段からプロレスラーを誰より間近で見ている松井レフェリーは、「自分が一番見たい試合」と言いながらも、出場するレスラーに今何が必要か、どんな出会いが必要かを考え抜いて、プロデュース興行の試合を組んでいるのだろう。既にDDTのトップに立っている竹下はもちろん、DDTの若き才能と相まみえるHUBやビリー、いつ・どこで誰と闘っても抜群のコンディションの田中、久々にバチバチのしばき合いが見たい入江vs坂口、そしてあと一歩でトップに立つであろう上野と樋口にとって、この10月18日の試合が彼らのプロレスラー人生にとってかけがえのない試合になることを期待している。



