ひとつ屋根の下のあんちゃんではないが、「そこに愛はあるのかい?」と聞かれたら、愛しかなかったと言うしかない、DDTドラマティック総選挙2018だった。今年も喜び、悔しさ、清々しさ、悩み、様々な感情に揺り動かされたけれど、勝ちたい選手と勝たせたいファンの思いがぴったり合致した時、それは歓喜に繋がる。改めてそれを突きつけられた。
DDT総選挙は2010年に始まり、今年で9回目を迎える。初めて総選挙が行われると発表された時、当時圧倒的な人気を誇っていた飯伏幸太、絶対的エースのHARASHIMA、我らが高木大社長あたりが固いだろうなと予想したら全くそれは裏切られた。2010年第1回DDT総選挙、第1位・男色ディーノ、第2位・佐藤光留、第3位・チェリー。この3人のうち佐藤とチェリーはもうDDTのリングを離れていて、そしてディーノには記憶がない。
この1回目の結果が象徴している通り、DDT総選挙は単なる人気投票ではなく、リング上の強さも団体内の序列も、世間的な知名度もその結果に全く関係ない。選手は自分がこの総選挙に勝ちたい、1位を獲りたいということを繰り返し自分の言葉で伝え、ファンの心を動かさなければいけない。そしてファンは誰になら乗れるのか、誰なら推せるのか、誰になら自分のお金を投じることが出来るか。それを問われている。極論を言えばその選手のことを好きでなくても、普段応援していなくてもいい。
そして今年はご存じの通り、1位・高梨将弘、2位・彰人、3位・伊藤麻希という結果になった。この3人の顔ぶれが全て初めてのトップ3入りで、前年度と1人も重ならなかったのも史上初めてのことだ。
何より今年の総選挙を最も盛り上げたのが、伊藤麻希の存在だ。それは異論がないところだと思う。彼女は最初から本気だった。いきなり1回目の中間発表でぶっちぎりの1位を獲得し、周囲を震撼させる。その伊藤麻希の本気こそが、この選挙に関わる選手たちと、そして応援するファンの心に火を付けた。私自身、普段DDTをあまり見ない層から何人も「あの伊藤って子はベルトに挑戦するの?」と尋ねられた。間違いなく彼女こそが今年の総選挙の顔であり、嵐のように私たちの心を揺り動かした。
総選挙発表大会の新木場、第3位!と伊藤麻希の名前が村田晴郎アナの口からコールされた時、新木場に何ともいえない空気が流れた。落胆と動揺と安堵感が混じった微妙な雰囲気の中、アイアンマンのベルトを肩にきっちり巻いた伊藤はまっすぐ花道を歩いてリングに上がり、マイクを受け取ると誰に促されるでも聞かれるでもなく自分の言葉で喋り始めた。
1位を獲りたかったけれど負けてばかりだった自分が3位で良かったと思っていること。辛いことに立ち向かっている人の希望になりたいこと。そして東京女子プロレスももっと盛り上げていきたいこと。
その毅然とした喋りは強く、清々しく、私たちの心に届いた。もちろん1位を獲りたかったという気持ちも、3位で良かったというのもどちらも、伊藤麻希の本当の気持ちだと思う。彼女はずっとアイドルグループという、女の子として常に比べられる場所にいて、そして自分以外のファンがたくさんいる現場に身を置いてきた人だ。この総選挙期間中に自分に向けられるかすかな違和感を、感じていなかったはずはない。そんな中で伊藤ちゃんは見事に総選挙を戦い抜いて、そして3位という誇るべき順位を勝ち取った。
試合後に「アイドル時代にも人と比べられてきたと思うが今回の総選挙はまた違ったか」と尋ねたら、
「アイドル時代だったら絶対ランキングには入れなかったと思うんです。握手会をやっても1人、2人とかで、いないのが当たり前だったから。だからこれが当たり前じゃないっていうのはわかります」
そう答えてくれた。勝ち続けたアイドルではなかったからこそ、彼女はこの選挙で戦うことが出来た。自分の気持ちをまっすぐに、恥じることなくファンに、そしてそれ以外にも届けることが出来た。それが彼女の強さだった。ちいさな身体で堂々とリングのど真ん中に立ってスピーチする伊藤麻希はとても神々しくて、カッコ良かった。
一方、第2位で名前を呼ばれた彰人は、その瞬間から悔しがっていた。その身体から表情から言葉から、悔しさが溢れていた。「伊藤ちゃんがどう、ということではなく」と試合後のバックステージでは付け加えていたけれど、所属外の選手が中間発表で1位だったのが嫌だったこと。去年までの自分だったら2位で喜んでいたと思うけれど、誰よりも選挙活動頑張って、1位に手が届きそうだったからこそ悔しかったと。確かに、中間発表以降の彰人の追い上げはもの凄く、てっぺんが見えたところでの2位は他のどんな順位よりも辛かっただろうと思う。
そして堂々の第1位は高梨将弘。もちろん高梨にとって初めての1位だ。見た目はいつまでも若々しく、弟分の雰囲気を持ち続けている高梨だが実はもうデビュー15年目、DDTでも古株の部類に入る。いにしえの怪しく懐かしいDDTの雰囲気をどこかに持ち続けている数少ない選手のひとりである。
ケガで欠場していた第1回を除いて、2011年の第2回総選挙から連続でエントリーし、高梨は常に選抜入りを果たしている。リング上ではバイプレイヤー的な役割を任されることが多い高梨だが、その信頼度は常に高い。思えば今回第2位の彰人も、そして現王者の佐々木大輔も、最初からメインイベンターが約束されたプロレスラーではなかった。伊藤麻希が常に光の当たるところだけを歩いて来たアイドルではないのと同様に、みなレスラーとしては苦労人で、任された仕事を期待以上に応えてくれてきたからこそ今の信頼度がある。そして何より、高梨も彰人も佐々木も、レスラーとしての色気を持ち合わせている。
イベント後に高梨が「俺は誰よりも負けてきたから、勝つっていうことを一番大事に思っている」と語っていてはっとした。一見、勝負にこだわっていないように見えている高梨将弘が、実は一番、勝つことにこだわっている。プロレスのリングで勝つ、というのが、ただ力が強いとか、早く動けるとか、難しい技が出来るとか、そういうことだけでもたらされるのではないことを体現している高梨だから吐ける言葉だと思ったし、それが高梨将弘というプロレスラーの強さであり、総選挙でこの人に賭けたい、と思わせる魅力なのだと思った。
DDT総選挙が始まって9年、最初にこの企画を猛然と引っ張ったのが佐藤光留の強い言葉と行動力だった。そして次に、木髙イサミの疾走の時代があった。ここ数年はDAMNATIONがリング上と同様に総選挙をリードし、そして今年。高梨将弘と彰人と伊藤麻希の、新たな時代が始まる。
選手にとっても応援するファンにとっても心穏やかではいられないDDT総選挙だが、1人ずつ新しいメンバーを受け入れるための洗礼でもあった。大石真翔も、坂口征夫も、みんな総選挙で選抜入りしたのをきっかけに、涙ながらにDDT入団を大社長に直訴して所属になっている。赤井沙希は初めての総選挙で選抜入りした時に、「皆さんにとって急に現れた私を受け入れて下さってありがとう」と大粒の涙を流しながらファンに感謝の言葉を伝えている。そして今年、伊藤麻希はこの総選挙をまっすぐに戦い抜いて、DDTファンにその存在を認めさせた。この総選挙で彼女は改めて、誰もが認めるドラマティック・ドリーム・チームの一員となったのだ。
総選挙で選手とファンは思いを分かち合った。一緒に喜び合えた関係もあれば、一緒に残念だったね、という関係もあったと思う。それがどんな順位であろうと、その選手を応援したいという気持ちで投じた一票は、確実にその選手の元に届いている。もし開催されれば来年2019年には記念すべき10回目を迎えることになるDDT総選挙だが、選手とファンが同じ思いを分かち合う、そんな場であればいいと思っている。
(筆者プロフィル)
三田佐代子(みた・さよこ)
1969年8月5日、神奈川県小田原市出身。CS放送・FIGHTING TV サムライのニュース番組『速報!バトル☆メン』、『インディーのお仕事』のキャスターほか、レポーターや執筆活動など幅広く活躍中。初の著書『プロレスという生き方-平成のリングの主役たち』(中公新書ラクレ)は好評発売中。



