「世の中の女性たち、もう我慢する時代は終わってるんだよ。男と対等に勝負出来ないなんて思ってるんじゃねえぞ。私はこれからどんどん男でも女でも強いヤツと対等に勝負してやるから、これからも里村明衣子をよく見ておけ!」
そう叫んで里村明衣子は第66代KO-D無差別級選手権王者になった。今から18年前の2000年4月に折原昌夫が初代チャンピオンになって以来、KO-D無差別級史上初の女性王者誕生である。
アメリカから帰国した入江茂弘が、それまで1年以上に渡って絶対王者として君臨していた竹下幸之介を破って第62代王者になったのが今年4月のこと。DDTの現状に不満をぶちまけ、プロデューサーの男色ディーノにも中指を立てた。DDTのアイコンとして圧倒的な支持を集めていたはずのディーノへの敵意を入江が6月の後楽園大会で露わにした時、その場に立ち会った少なくないファンからも入江を支持する声が挙がった。
そしてこの夏のKO-D戦線は特にめまぐるしかった。8月に王者入江は単独渡米し、自らが希望した通りアメリカでタイトルマッチを行ったところサミ・キャラハンにまさかの陥落。その後取り返して帰国するも「いつでもどこでも挑戦権」を使った男色ディーノに敗れ、ディーノが6年半ぶりのKO-D王者に。そのディーノもわずか2週間で、やはり「いつどこ」を行使した里村明衣子に敗れた。
10月21日の両国大会まであと1ヵ月と迫ったいま、先に挑戦者としてKING OF DDTトーナメントを優勝した佐々木大輔がメインイベントの座を確かなものにしている。そしてチャンピオンは、里村がアメリカでなくした赤いいつでもどこでも挑戦権が見つからない以上、9.23後楽園で行われる3WAYサバイバルタイトルマッチ、王者・里村明衣子vs挑戦者・男色ディーノvs挑戦者・入江茂弘の3人の勝者に絞られた。里村には強い意志があり、ディーノには夢があり、入江には求める自由がある。里村は女性も対等に男性と戦えることを、ディーノはDDTのあるべき姿を、入江は自身の理想のDDTを、この試合に勝つことで証明したいと願っている。それぞれの言い分に納得出来るし、それぞれに乗りたい気持ちはあるが、勝ち名乗りを受けるためには自分以外の2人に勝たなければいけない過酷なサバイバルルールだ。
DDTにはいろいろなベルトがあり、24時間防衛可能なアイアンマンヘビーメタル級や、王者がルールを決められるEXTREME級のような自由度の高いタイトルもある。入江が異議を唱える「いつでもどこでも挑戦権」も、DDTの個性を表している。でもいつの時代も団体の頂点はKO-D無差別級で、このベルトこそが団体のトップであり、団体の顔だった。男色ディーノが初めて高木三四郎からKO-D無差別級のベルトを巻いた時には「高木三四郎とDDTが私の価値を認めてくれた」と涙したし、竹下幸之介は2017年の1年間、DDTのプロレスが舐められないために猛然と身体を張り続け、多様な相手とレベルの高い試合をし続けてDDTとKO-D無差別級の、そしてレスラー竹下幸之介自身の価値を大いに上げた。里村明衣子は初の女性王者として女性の誇りを、そして男子と同一のルールで戦うことが出来る事を高らかに宣言し、世の女性たちと女子プロレスラーに大きな勇気を与えたはずだ。
今のDDTは面白くない、と言い切る入江はとにかくDDTを象徴する男色ディーノを叩きつぶしたい。男色ディーノは両国のメインに立ちたい。現王者の里村明衣子は敢えて、入江の本気を引き出し、それに勝ってから両国のメインに進みたい。3人の思惑はそれぞれで、サバイバル3WAYマッチという難しいルールが予測を困難にしている。ただ男色ディーノは右肩の負傷という手負いの状態だし、前哨戦を見る限り入江と里村の体力差は歴然としている。入江有利は動かないところだが、その直情的な危うさが自身の足を引っ張る可能性も大いにありそうだ。
これだけ三者の言い分がはっきりしている分、応援する側も試されている。里村の誇りに乗るか、ディーノの夢に乗るか、入江の求める自由に乗るか、果たしてあなたは誰にbetできるだろうか。それはそのまま、自分が何をDDTに求めているかにかかっている。そしてその先に待ち構えているのは、ニヒルに笑う挑戦者の佐々木大輔だ。
今年は両国大会が8月ではなく10月で、わたしたちはそこまでの道筋を例年より長く楽しむことが出来る。物語が長いぶんだけ、登場人物も増え、彼らの感情はより複雑に交差した。そんな物語もいよいよ終盤に近づいている。どんなドラマも最終回の一つ手前が、一番ドラマチックだ。両国大会一つ手前の9・23後楽園で、誰が果たして生き残ることが出来るか。3人のうちの誰かに自分の思いを託して、そのサバイバルマッチを見届けたい。
(著者Profile)
三田佐代子(みた・さよこ)
1969年8月5日、神奈川県小田原市出身。CS放送・FIGHTING TVサムライのニュース番組「速報!バトル☆メン」、「インディーのお仕事」のキャスターほか、リポーターや執筆など幅広く活動中。初の著書『プロレスという生き方-平成のリングの主役たち』(中公新書ラクレ)は好評発売中。
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