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【ドラマティック・ドリーム・コラム】竹下幸之介vsアントーニオ本多、その魂の響きに耳をかたむけろ(三田佐代子)

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  • 「プロレスラー全部を家族としてみたら、ヒロシはお兄ちゃん、ヤ ス・ウラノがお父さん。本多さんはおじいちゃんか、親戚にひとり ぐらいいる変なおじさん。そういう感じなんですよ」

    竹下幸之介はアントーニオ本多についてこう表現した。竹下にとっ て尊敬すべきおじいちゃん(或いはおじさん)であり、映画や音楽 を愛する同志であり、同じ詩心を持つふたりのプロレスラーが、 DDT5・27大阪大会のメインイベントで向かい合う。

    竹下幸之介とアントーニオ本多は、竹下のデビューほどなくして「ハッピー・モーテル」というユニットで共に活動していた。その仲間には今やヨガの大家と変貌を遂げたトランザム★ヒロシと、猛威 をふるうDAMNATIONでクールな魅力を振りまいている遠藤哲哉がいる。振り返れば個性豊かで、ユニークなユニットだった。 アントーニオ本多は竹下との出会いをこう振り返る。

    「僕の人生は、竹ちゃん以前、竹ちゃん以降で確実に何かが変わったんですよ。竹ちゃんは向上心の塊というか、全てを生きる上で抱きしめてやろうというポジティブな衝動に溢れている。 あとは竹ちゃんという魂の持つ繊細さが、プロレス界に他にいない 。私も似たようなところがあるかなと。プロレスラーはアスリートでもあり、かつ優れたプロレスラーは詩人なんですね。その詩心が 竹ちゃんにはあるんだと思います」(アントン)

    アントーニオ本多というプロレスラーが繊細で、詩心に溢れていることは誰が見てもわかる。しかし天性のアスリートであり、強さをただ一心に追い求めてきた竹下幸之介が繊細で、詩人だという表現に驚くと、アントンは笑う。

    「竹ちゃんは団体を担う存在ですから、詩人ではいけないんですよ。だから竹ちゃんは逆に(詩人としての) 牙を隠しているところはありますね」(アントン)

    竹下もまた、アントンと深い心の繋がりを感じていた。高校生ながらDDTの入門テストに合格し、初めて興行のお手伝いにいった時の搬入のエレベーターで「竹下くんはDDTで好きなレスラーは誰?」と話しかけられた時から仲良くなった。アントンにお勧めの映画を教えてもらい、DVDを借りて見ては、一緒になった時にその感想を報告する。マヤの予言について語り合う。 プロレスについてもそうだった。

    「僕がまだデビュー間もない頃に後楽園でシングルマッチがあって、試合後にいい試合だった、良くない試合だったって人もいる中で、本多さんは善し悪しは言わずに『プロレスラーはWWEの選手もDDTの選手も地方の選手もみんな家族だ』って話をしてくれたんですね。だから家族にリスペクトをもって試合しないと、家族のバランスが崩れてしまう。ひとつひとつの技も大切に使わないといけないんだよって話をしてくれた時に、なるほどな、って。僕世代の他の選手だったらぽかんとするかもしれないですけれど、僕と本多さんにとってはシンクロしてるので、その意味がわかるんです。プロレスラーは家族だから、で、なるほど、と」(竹下)

    4年前の飯伏とのシングルマッチの後も本多が貸してくれたイタリアの歌手のCDを聴いて、ひとりで泣いた。上京して初めて帰阪しての試合、満足感や達成感、複雑に絡み合った感情が、その本多が貸してくれたCDを聴くことで落ち着いた。

    「(本多は)セラピストです、プロレスセラピスト。セラピストおじさんです」(竹下)

    今回の大阪大会は、私たちに毎年興味深い対戦カードを提供してくれる、松井幸則レフェリーのプロデュース興行だ。これまでも前述した竹下vs飯伏や竹下vsZERO、アントーニオ本多vs菊タローvsくいしんぼう仮面など、心をくすぐるカードをたくさん実現させてきた。

    「竹下がチャンピオンだった時にやりたい相手がいるっていう中にアントンがいるだろうなというのは、本人に聞いたわけではないけれど確信がありました。ハピモを去年4月に解散して、この1年、タケはずっと上でタイトルマッチをやっていて、ずっとアントンはごんぎつねをやってきた。タケにとってもベルトを落として、しがらみ抜きでやって欲しいというのもあるし、最近のファンはアントンのことを強さとは別次元の面白いだけのレスラーだと思ってるかもしれないので、ちゃんと実力があるレスラーなんだってことを思い出させて欲しいんです」(松井)

    この1年、つまりハピモを解散するきっかけにもなった昨年3月の DDT旗揚げ20周年大会でKO-D無差別級王者になってから、竹下幸之介はDDTの絶対王者として不動の地位を築き上げた。毎回違うタイプの選手とすさまじいレベルのタイトルマッチを行い、その強さを突き詰めると同時に、そのプロレスの幅を存分に広げた。一方その頃アントーニオ本多は、大会の前半戦で試合が始まるやいなや転び、徹夜で考えてきたごんぎつねを全国各地、ありとあらゆるバージョンで、ありとあらゆる相手の前で説き続けた。つまりハッピーモーテルを解散してからただの一度も、竹下とアントンは同じリングに立っていない。

    プロレスが、DDTが、舐められたくない一心で竹下幸之介は身体を鍛え続け、そしてその恵まれた身体能力をめいっぱい使ってメインイベントを張り続けた。そんな竹下と、リング上で昔話を語り続けたアントン。2人のプロレス観は、いったいどこで繋がっているのだろうか。

    「これはなかなか言葉にするのが難しいですけど、竹ちゃんが、団体を背負っていくにはいろんなバランスがあると思いますが、我々が理想としているプロレスの中心の芯の部分、核心は忘れることはないなと思います」(アントン)

    「僕と本多さんは違うところでプロレスをしているわけではないんです。 本多さんが言ったプロレスは家族っていう思想で考えた時に、本多さんがおじいちゃんだったりして、何人もいる孫の中でひとりくらい運動神経いい子がいたり不良がいたりするじゃないですか。 それと一緒で、その家族が大事にしている、受け継がれている思想、モットーっていうのは一緒で。見た目だったり運動神経だったり好きなプロレスだったりっていう価値観の違いはあると思うんですけれど、結局本質的な、一番中心の核となる 、流れてる血は同じかなという感じですかね」(竹下)

    そしてプロレスラーはみな家族である、ということと同じくらい、 竹下が本多から影響を受けているのが、「舐められたくない」という気持ちだった。

    「いまのファンは知っているかわからないですけれど、男色ディーノがチャンピオンだった時に本多さんが挑戦者として指名されるんですけれど(2012年1・29後楽園)、思いが強まって本多さんの挑戦表明が長い。その時にお客さんから『長いよ』 ってヤジが飛ぶんですけれど、それに本多さんがぶち切れるんですよ。あれはまだ僕はデビュー前でサムライTVで見ていたんですけれど、凄い!って」(竹下)

    その時のことは私も鮮明に覚えている。アントンが目の前の男色ディーノへのこみ上げる思いや過去の自分をえぐり出すような思いで叫び続けているさなかに観客席から声が飛び、アントンは「長えじゃねえよ! うるせえ! なめんじゃねえ!」と叫び返した。「俺はここでしか息をしていない、ここでしか本当のことを言ってねえの!」と血のにじむような声で叫ぶアントンに、心から震えた。 そしてその舐められたくない、という思いの現れこそが、いまのごんぎつねだと竹下は言うのだ。

    「だって、ごんぎつねしている間ってみんな本多さんのことしか見ないでしょう。プロレスって面白いものでやられている側のことも見ちゃうんですけれど、 ごんぎつねの時は本多さんにしか目がいかない。だから実は凄いエゴイストなんですよ。スターとしての性質はものすごく持ってるんですよね」(竹下)

    そんな2人の今回の対戦の鍵になるのは「勝負論」だと、奇しくもお互いが口にした。家族であり、同じ詩心を分かち合うソウルメイ トの久々の闘いは、いくらでもポエティックな展開も予想できるだ ろう。でも、そうではない。

    「心をすっからかんにしても湧き上がってくるものは当日あると思うんですよ。ひとたび拳を交わしてしまうと、そこで出て来るのが勝負論。何をすればいいかというのは勝てばいいんですよ 。これは簡単なことです。むしろありがたい、プロレスは。勝てばいい」(アントン)

    「本多さんの言う勝負論は今回に関してはシンプルな結果としての勝負論だと思うんですよ。僕がいま勝負すべきところは、結果がどうあれ、勝負という部分でプロレスラーとして一度は本多さんに勝ってみたい。本多さんとの試合は負けがちです、呑まれがちなんですよ。普通に闘った結果、僕が勝つけれども勝負としては本多さんが勝ってた、それじゃ意味がない」(竹下)

    最近プロレスは儚いものだ、と思うようになったと竹下は言う。まだ前途洋々とした未来が開けている竹下から「儚い」という言葉が出ることに少なからずの衝撃は受けたが、確かにプロレスは一期一会の連続だ。

    「生涯プロレスラーでいられるにこしたことないですけど、怪我もありますし、プロレスラーも人間ではあるので。僕が1年頑張ってベルトを防衛して、本多さんが頑張って1年ごんぎつねをやって、っていうシチュエーションではあるんですけれど、プロレスは儚い。もう闘えないかもしれない。同じ団体にいたらまた闘う機会はあるんでしょうけれども、同じ業界にいたらやる機会もあるんでしょうけれど、いつ闘えなくなるかわからない。 だからそれを、毎年見られるものとか、そういうものとは思って欲 しくないんですね」(竹下)

    確かにアントンの言う通り、優れたプロレスラーは、優れた詩人だった。アントンも竹下も、お互いについて、そしてお互いが愛するものについて語る言葉は豊かで、詩心に溢れていた。 そしてそんなお互いへの思いを、プロレスラーは拳を交えることで 伝え合う。思いが溢れた時に、プロレスラーは試合をする、という手段を持つ。これはプロレスラーにしか与えられていない特権で、それほどまでに敬愛する相手に、試合、という手段で気持ちを伝えられるプロレスラーという存在を、うらやましく思う。

    「私が勝った方が面白いじゃないですか。あまりないでしょうこんなことは世間で。やっぱり勉強出来る人が出世して、お金持ちがお金持ちであり続け、政治家はセクハラと汚職を繰り返し、その構造って変えられないんですよ。ただそういったメタファーと して、プロレスは弱い者が強い者に勝つことが出来るっていう。ポジティブなことですよね。私は他に何も出来ないけれどプロレスはある程度出来て、自分が憧れる光景を作り出すことが出来るかもしれない。モハメド・アリがフォアマンに勝ったり、ロッキーが『ロッキー2』でアポロに勝ったり、とってもそういうのって人の心の胸の内に残るかもしれない。それは残らないよりとてもいいこと」(アントン)

    人生は儚く、世の中は世知辛い。憎い上司にも好きなあの子にも思いはなかなか届かない。でも、今宵の竹下vsアントンは、そんなことばかりじゃないんだよってことを、この試合の間だけでもきっと思わせてくれるだろう。竹下幸之介とアントーニオ本多、プロレスラーという家族が奏でる拳での語り合いに、こちらも心をまっさらにして臨みたい。

    (筆者プロフィル)
    三田佐代子(みた・さよこ)
    1969年8月5日、神奈川県小田原市出身。CS放送・FIGHTING TV サムライのニュース番組『速報!バトル☆メン』、『インディーのお仕事』のキャスターほか、レポーターや執筆活動など幅広く活躍中。初の著書『プロレスという生き方-平成のリングの主役たち』(中公新書ラクレ)は好評発売中。

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