かつて週刊プロレス在籍時代、小島聡選手と本間朋晃選手(いずれも当時は全日本プロレス所属)の愛犬同士による対談の司会進行を務めたことがあったが、今回は単独インタビューを経験させていただいた。3・20後楽園ホールで飼い主の男色ディーノがマッスル坂井に敗れたため、ルールにより犬でありながらDDT所属となったハク。まだ一試合もしていない時点で圧倒的な支持を誇っているように、今後の活躍ぶりに大きな期待がかけられている。そんなハク選手のことをより知っていただくためにコミュニケーションを図ったところ、気さくに語ってくれた。なお、一人称と語尾に関しては飼い主さんの解釈に倣った。(聞き手・鈴木健.txt)
運命的なディーノとの出逢い
牛の部位を名前にされかける
――本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。
ハク ハァッハァッハァッハァッハァッハフッハフッハァッハァッ…。
――さっそくですが、ご主人様の男色ディーノ選手との出逢いからお話いただけますか。
ハク すでに男色ディーノがあちこちで言っているように、アッシは元・保護犬でゲス。「アニフェア」っていう保護犬と里親のマッチングサービスをおこなう施設があって、前のご主人夫婦が別れるとなったことで、そこに引き取られたでゲス。
――いきなりそんな大変なことがあったんですか。
ハク その時のアッシはまだ生まれて半年ぐらいでゲスよ。それである時、里親とマッチングする譲渡会がお台場でおこなわれて…本当はその日、アッシはその会場にいく予定ではなかったんでゲスけど、想定以上にどんどんマッチングが成立して、追加で送り込まれた形だったんで、そこにディーノが来たんでゲス。
――ディーノ選手は里親になるために来ていたんですか。
ハク それがあとで聞くと、そういうつもりではなかったそうなんでゲス。引っ越しした時に一応ペットOKの部屋に入って、ゆくゆくは飼えたらいいなあぐらいに思っていただけで、その日は近くで用事があって近くに来たから癒やされにいってみるかぐらいのつもりだったようで。それで会場に来た時はほとんどが引き取られていったあとで、今追加で来るからって聞いて待っていたそうでゲス。小学生の頃、柴犬を飼っていたので自分でまた飼うとしたら柴犬と決めていたのに、そこにはいなかったのでほかの犬種を見て「かわいいなあ」と思っていたら、待って5分ぐらいで柴犬であるアッシが運ばれてきたと。目がハートになった以後は記憶を失ったと言っていたでゲス。残っている記憶は、家に帰ってケージの中で寝ているアッシの姿かららしくて。
――ひとめ惚れした興奮のあまり、記憶が抜けているんでしょうね。
ハク アッシはお台場から車に乗せてもらったのは憶えているのに、ディーノはそれどころじゃなかったみたいでゲス。今思うと、よく無事に家までいけたなと思うんでゲスけど。
――ハクさん的にはまったく知らないぽっちゃりしたおねえ言葉の男に、知らないところへ連れていかれたわけじゃないですか。不安はなかったんですか。
ハク 生まれて7ヵ月で前のご主人と別れたあと、施設には1週間ぐらいいたので、いろいろなところを転々とするのはその時点で慣れっ子になっていたのかもしれないでゲス。正直、生まれたてで何もわからない状態だったので。短い間ではありましたけどかわいがってはもらえたし、そのあと施設に来てからも大事にしてもらった。こっちも人懐っこくはしていたんで、この人についていってもかわいがってもらえるだろうとは思ったでゲス。悪い人には見えなかったゲスし、特に警戒することはなかったゲスね。だた…ガジガジかじってしまったでゲス。
――どうしてですか。
ハク ぽっちゃり体型だから、アッシにはおいしそうに見えたでゲス。施設って保護犬がワンサといるから食べる量もそんなにぜい沢できるほどもらえるわけではなくて、その日もちょうどお腹がすいていた時に目の前へあの肉々しいディーノがいたので、思わず…まあ、初対面にしてはちょっとがっついてしまって、失礼を働いてしまったかなと反省しているでゲス。でも、それでアッシがお腹をすかせていることがわかったのか、家に着くとアッシが大好物のロイヤルカナンのドッグフードを食べさせてくれたんでゲスよ。施設の人から好物を聞いてそれを買ったら、思いのほか値段が張るんでボヤいていたでゲス。
――それ、高級ペットフードブランドじゃないですか。それにしても、柴犬がいないからといってディーノ選手がすぐに帰っていたら出逢わなかったということですよね。
ハク そうでゲス。これってけっこう、運命的じゃん!って思うでゲス。ただ、一緒に住むことによってディーノの素顔が見えてくるわけじゃないでゲスか。それは今まで面倒を見てくれた人たちとは違うから、ちょっとこっちも警戒するようになったんでゲス。あとは、せっかくロイヤルカナンを食べさせてもらっているこの環境がまた変わるのが怖かったというのもあったでゲス。ご主人が変わるのは慣れているとは言いましたゲスが、やっぱり心地よさを感じる家から離れたいとは思わないでゲスから。
――ディーノ選手がちゃんとそういう環境を与えてくれたんですね。
ハク そうゲスね。だから3日も経ったらけっこう馴染んでいたでゲスよ。なんでゲスかね…早いうちからこっちの考えていること、求めているものを意思表示しなくても理解してくれているというか、あまり本人にこういうことは言わないようにしているんでゲスが、ディーノはペットを飼う才能があると思うでゲスよ。こういうのってプロレスと同じで呼吸であり、間合いでありじゃないゲスか。
――そうですね。
ハク いくらかわいがってくれるご主人であっても、勘が悪いとペットシーツを変えてほしくても気づかなかったり、満腹の状態の時に限って「おやつだよー」とか言って食わそうとしやがる。それでこっちが食べないと「せっかくおやつをあげているのになんで食わないんだ!」って逆ギレする飼い主がいるっていうのが、施設にいる時の街の声でゲしたから。だからアッシは生まれてこの方、吠えて意思表示をしたことがないでゲス。
――「ワン!」って吠えないんですか。
ハク 吠えないのではなく、吠える必要のない生活をディーノによって保障されているんでゲス。逆に散歩していてすれ違うほかの犬にはよく吠えられるんでゲスけど、そういう時も吠え返すことはしないゲス。そんなところでケンカ腰にならずとも、ディーノがアッシのことを守ってくれるのがわかっているからでゲス。まあ、アンガーマネジメントに長けていると言ってください。
――今の時代、大切です。それでハクというお名前はどの時点でつけられたんでしょう。
ハク ディーノ邸に来てしばらくはいくつかの候補を提示されました。最初は牛の部位からつけたかったそうでゲス。ハラミとかハツとかマルチョウとか…いや、もうね、勘弁してくれでゲスよ。なんで焼き肉みたいな名前にされなきゃいけねえんだと。内心はやめてほしかったんでゲスけど、そのうちアッシの体を見て「“白”“發”“中”のどれかにしよう…白いからハクだよな」って言い出したんでゲス。ハク・ハツ・チュンってなんのことでゲスか?
――いや、気にしないでください。
ハク 意味はわからなかったゲスが、焼き肉みたいな名前にされるのを思えばいいかと、受け入れたでゲス。前のご主人につけられた名前は小さかったんで記憶に残っていないんでゲスが、施設では「もちまるくん」と呼ばれていたでゲス。でも、わずか1週間しかいなかったからまだ馴染んでいないうちに「ハク」に変わった感じゲスね。
――ちなみにキング・ハクはご存じですか。
ハク 知っているでゲスよ。そこはハクを名乗りし者…名乗りし犬としていつか“キング”の称号を受け継がなければならないと思っているでゲスから。ただ、アッシはまだそれほどの器じゃねえんで。
――そうなんですね。新しいご主人様との日々を始めてみてどうでしたか。
ハク 商売柄、うちのご主人は地方巡業に出る時はペットホテルに預けられるんでゲス。でもアッシはそれによってストレスが溜まることがなくて、ホテルのスタッフさんとも一緒に泊まるワン友とも円滑な関係を築けている。よく「適応能力がすごいね」って褒めてもらえるんでゲスが、これはアッシ自身の能力というよりも、今まで生きてきた中で嫌な人や嫌な犬に会ってこなかったからだと思うんでゲス。最初のご主人もかすかな記憶の中で何か酷いことをされたこともなかったゲスし、施設も同じだったので怖い目に遭ったことがないから、警戒心を持つ必要がないんでゲスよ。
――よい環境によって、よい性格が養われたと。
ハク そうでゲス。まあ言うても、もともと適応能力もあったんでしょうけど。昔から犬の世界では、相手がワルツで来たらワルツで、ジルバで来たらジルバで踊れるのが名犬だって言われてきたでゲスから、アッシはまさにそういう犬じゃないんでゲスかね。
――じゃあ、嫌な思いをすることなく毎日を…。
ハク いや、アッシは金属のカチャカチャする音が嫌いなんでゲスよ。この前も、エアコンの修理業者が来た時に器具がガチャガチャ当たって、吠えるまではしなかったゲスが「うー…」と唸ってやりました。あとは、できたらスケボーの滑る音も聞きたくないでゲス。外を散歩していて若い人間がガーッ!って滑っていると、あれが苦手で。
――ノイズが性に合わないんですかね。ドッグフード以外で好きな食べ物は?
ハク これもドッグフードではあるんでゲスが、鹿肉のジャーキーはたまらんでゲスな。人間が食べる物に関してはディーノが食べさせないようにしているし、アッシも特に食べたいと思うものがないので、普通に犬用の物しか食べないゲスね。一番いいのは、言うまでもなくロイヤルカナンでゲスが。
――では、基本は自分からこれがほしいとおねだりすることがないんですね。
ハク おねだりするのは食べる物じゃなくてオモチャ! アッシに言わせるとオモチャは消耗品でゲス。最初の頃、オモチャをねだったらディーノが奮発して高いものを買ってくれたんでゲスが、6秒で食いちぎってやったでゲス、ンムフフフ。
――なぜそのようなことを。
ハク 縫い目があって、中に綿が入っていると糸の部分に噛みついて、中の綿を出すのが興奮するんでゲス。
――けっこう残虐な面があるんですね。
ハク 縫い目って、破るためにあるようなものじゃないでゲスか。そして中が飛び出てきた時のエクスタシー、達成感、征服感ね。それで食いちぎるたびに新しいオモチャを買ってもらうんでゲスが、せいぜい持って1週間。おととし、ディーノがアメリカ遠征のお土産に買ってきてくれたのがあったんでゲスが、それは中が綿じゃないんで張り合いがなかったゲスね。
――ハクさんのような犬がデスマッチをやったら、デスマッチファイターは縫い目だらけなのでいても立ってもいられなくなるでしょうね。
ハク アッシにかかれば縫い目から食い破って内臓を引きずり出すことぐらい造作もないことでゲスよ(ドヤ顔)。
犬によるピンフォールは仕込まれて
いると思われるのが嫌だった
――ところで、先ほどからご主人様のことを「ディーノ」と呼び捨てにしていますよね。
ハク そもそも、ご主人という言い方は人間の都合によるものであって、アッシ的にはディーノは下でゲスから。
――動物は上下関係を築く習性があると学術的にも言われていますが、そんなに格がハッキリしているんですか。
ハク 見ればわかるでゲしょ。アッシに対してはプロレス界では泣く子もアナル…泣く子も黙る男色ディーノが、あんなにデレデレになっているじゃないでゲスか。それで上になるわけがないゲス。ディーノは、上位になることを最初から放棄しているんでゲス。自分がご主人ヅラすることに価値なんて見いだしていないし、アッシを下に置くという発想自体が最初の時点でなかった。飼い主によっては、躾を厳しくするためにかわいいんだけど上位を保とうとする場合もあるそうでゲスが、ディーノは最初に「一生甘やかしてやるからね」と言っていたでゲス。躾っていうのは、どちらかというと対外的な理由によるものじゃないでゲスか。ディーノは「でも、ウチで囲い込む分には甘やかせてもいいのでは」と思ったようで。だからアッシとディーノにとってはこの上下関係が理想なんでゲス。実際、これまでおねだりする時も「ディーノ」と呼んできたけど一度も怒られたことがないでゲス。
――ハクさんは何か犬ならではのオリジナルの行動はしますか。
ハク ディーノのヒゲをかじることでゲスかね。それをよくやるんで、ディーノがアッシを仕込もうとしたんでゲス。自分が仰向けに寝たら、ヒゲをかじるために上へ乗ってくるというムーブを。最初は胸の上やヒゲの近くにおやつを置いて引き寄せていたんでゲスが、別にそんなことをやらなくてもアッシはディーノのヒゲにスリスリするのが気持ちいいんで。あれをやるとリラックスできるんゲス。で、初めて後楽園ホールのリングに上がったことがあったじゃないでゲスか。
――2022年12月21日、後楽園ホールの「男色ディーノ20周年書籍出版記念(予定)大会」ですね。ディーノvsマッスル坂井戦でしたが、最後はハクさんが2人を同時にピンフォールし勝者になるという。犬が勝ったということでヤフーニュースにもなりました。
ハク あの時も、ふと見たらディーノが仰向けになっているからいつものやつだなと思ってヒゲをかじろうと思ったんでゲスが…拒否したんでゲス。
――なぜですか。
ハク ああ、いつも家でやっていたのはこれが目的だったのかと。そりゃあ、犬がプロレスのルールを知っていてフォールの体勢になったら凄い!ってなるでゲしょう。でも、アッシにとってはやらされてやっていたわけじゃない。あくまで、アッシ自身がやりたくてやっていることなんゲス。そこで狙ってやったらそれこそゲスの極みでゲスよ。
――まあ、そういう受け取り方もありますね。でも、ちゃんとフォールにいったじゃないですか。
ハク だからあれはWRESTLE UNIVERSEで見返してもらえたらわかると思うんでゲスが、アッシはヒゲに食いつきにいっていないでゲス。通常の体固めでディーノともう一人のササダンゴのように太った男の上に乗っているはずゲス。
――そうだったんですね。気づきませんでした。
ハク ああ見えてあの日、アッシは柄にもなく緊張していたんでゲス。それこそ、初めてプロレスのリングに足を踏み入れた瞬間は体だけでなく頭の中も真っ白になったぐらいでゲした。
――そうだったんですか、犬とは思えないほど落ち着いて見えましたが。
ハク そう見せていただけでゲス。なぜそこまで緊張したかというと、あそこまで大勢の人間の前に出ること自体初めてでゲしたし、何よりもプロレスのリングに上がった以上はオーディエンスの想像を上回るものを見せるのが最低限のやるべきことじゃないゲスか。
――確かにそうですが、犬がそこまで考えなくてもかわいさだけで通用するものじゃ…。
ハク (さえぎって)犬だと思ってナメんじゃねえよ!(怒) こちとらそんなナアナアでディーノに育てられていねえよ!!
――す、すいません。
ハク 言葉に気をつけろよ。プロレスのリング上は、かわいいだけで評価されるような場じゃないんでゲスよ。だからアッシは、見ている人間たちの想像を上回らなければと思って、ヒゲにいざなわれることなく自分の意思でピンフォールしたでゲスよ。
――それを聞くと凄いシーンだったんだなと改めて思います。
ハク 「どうせディーノが仕込んだんでしょ?」とか思われるのが、アッシは嫌なんでゲス。そこは自分が上位だというプライドもあるし。あと、プロレスの魔力もあったでゲスね。
――プロレスの魔力?
ハク 家でディーノと一緒にプロレスを見てはいたんでゲスけどあの日、初めて会場にいってこれは動画とかで見るのとは別世界だと思ったんでゲス。お客さんの存在によって、アッシ自身が「これはいつも家でディーノと戯れていることをそのままやってもダメだ」って直感したんでゲス。それはなんなのかと考えたところ、プロレス会場特有の磁力によって「やらなきゃ!」と思わされたというのが、アッシが導いた答えでゲス。あの場に出てわかったんでゲスけどアッシ自身、人前で何かをやることが嫌いじゃなかったんだなって。どちらかというと、人の数よりも音の方が難敵でゲスね。後楽園はまったく大丈夫だったんでゲスが、新宿FACEや上野公園は位置によって音の響きが自分に合わない。
――やはり音で判断するんですね。
ハク 犬って匂いで判断すると思われているでゲスよね。確かにほかの犬の中にはそういう子もいるでゲスが、アッシは音と視認なんでゲス。嗅覚に頼ることなく聴覚と視覚で状況判断することによって五感をバランスよく磨こうと思っているんで。
――先ほど家でプロレスを見ていると言われていましたが、見始めたのはいつ頃からですか。
ハク 最初のご主人のところでは、記憶にないからたぶん見ていなかったと思うでゲス。やっぱりディーノのところに来てWRESTLE UNIVERSEにいつもアクセスされているから、わりと来てすぐに見ていたことになるでゲスね。
――それまで文化として通過してこなかったプロレスはどのように映ったんでしょう。
ハク これは苦言になってしまうかもしれないけど、アッシから見たら人間って身のこなしが重く見えるでゲス。
――まあ、犬の動きには勝てないですよ。
ハク 野性味がない。
――人間は野性ではないので仕方がないです。
ハク 今、その言葉の裏で「ハクだって飼い犬で野性じゃねえだろプ」って思ったゲしょ?
――いいえ、けっしてそんなことは。
ハク 野性味っていう言い回しをしてそう受け取られるのであれば、危機管理能力がないって言い方を変えるでゲス。人間以外の動物は本能として身の危険にどう対処するかが植えつけられているので、どうしてもそう見えてしまうでゲス。
――ネガティブから入ったんですね、プロレス。
ハク でも、そこからポジティブに持っていける。犬目線、動物目線でプロレスを見るとなかなかいいアドバイスもできると思うでゲスよー。
――ディーノ選手にもアドバイスを?
ハク あ、ディーノは手遅れ。あのファイトスタイルはあんまり好きじゃないでゲス。だからあのスタイルがやりたきゃ続ければいいんじゃないでゲスか。
――男色殺法の何が合わないんでしょう。
ハク 人前で脱ぐなんて、どうかしているでゲス。裸体が許されるのはアッシしかいない。それぐらいの意識でいるでゲス。
――意外と昭和の価値観ですね。
ハク 昭和のプロレスを見ていないのに昭和の考えというね。闘いとはこれすなわち…噛みつくか、噛みつかないかでゲスから。
――「おまえは噛みつかないのか!?」という昭和の名言をご存じだと。
ハク 長州力というプロレスラーがそれを言っているのを映像で見て、その通り!と思ったでゲスよ。人間の中にも、ちゃんと噛みつく人間がいるんだなと。こう見えて、アッシはストロング志向でゲスから。
――そのようですね。でも、プロレスと関わったことで楽しいと思える部分も得られたのでは?
ハク 楽しいところでゲスか…うーん……(長考)ああ、今思いついたのは、リング上ではいかつくて「俺は強いんだぜ」と言っているプロレスラーが、控室に戻ってきてアッシを見かけると途端にデレデレするんでゲスよ。そのギャップが、プロレスラーって最高だと思うでゲス。特にキャリアのあるベテランの選手ほどなるでゲスね。J.AとかM.Sとか。アッシも業界の先人としてわきまえているでゲスから、たいがいは擦り寄って尻尾の一つや二つも振るんでゲスけど、一人だけ下に見ている男がいるでゲス。
――誰ですか。
ハク 須見和馬。
――そうなんですね。
ハク 普段、嗅覚を使わないのに、自分をかわいがってくれる人間に対してはアッシって鼻が利くんでゲスよ。「かわいい!」って言われようなら、その人のところまで走っていってハッピーな関係を築けるんでゲス。それはプロレスラーに対しても同じ。ただ須見だけは…なんでも小さい頃、犬に噛まれたトラウマがあって、アッシに対し「かわいい」と言いながら腰が引けているんでゲス。それを見てこの人、心から言っていないな、そんな人を自分より上位に置く必要はないなと判断したんでゲス。
――一人を除いて全部のプロレスラーとフレンドリーな関係を築ける中、好きなプロレスラーはいるんですか。
ハク (即答で)ブラック・キャット。
――元・新日本プロレスの。
ハク アッシは犬でありながらどちらかというと猫好きなんでゲス。それでキャットと聞いていても立ってもいられなくなって。逆に犬軍団(平成時代に新日本で暴れた後藤達俊&小原道由のコンビ)やロード・ドッグ(元WWE)みたいなああいう犬を名乗るのは違うかなって思っているでゲス。動物に関することを抜きにすると平田一喜。アッシは『TOKYO GO!』に合わせて遠吠えを響かせているでゲスよ。GO!GO!GO!GO!→ウォーン!という感じで。
――そこでも「ワン!」ではないんですね。ストロング志向のハクさんがああいうスタイルの選手を推すとは。
ハク それは技術に裏打ちされたスタイルでゲスから。
プロレス業界におけるアニマル
ヒエラルキーのトップにいる
――そういうものですか。ストロングスタイルの元祖・新日本プロレスは見ているんですか。
ハク ストロング志向は見る側の視点ではなくやる側の視点だから、見てはいないでゲス。むしろ見るのはデスマッチの方でゲスね。ただ、日々の生活の中でストロングであれとは思っているんでゲスが…現実はなかなかそうもいかなくて。
――?
ハク 千葉にお気に入りの「ドギーズアイランド」というドッグランがあってよく連れていってもらうんでゲスが、ほかの家の子と競争すると3分でバテてしまうんでゲスよ。恥ずかしい話でゲスが、小型犬にも追い抜かれて…。
――ストロング志向で子犬に敗れるのはまずいんじゃないでしょうか。
ハク いやいや、そこは風車の理論でゲスよ。
――相手の5の力を8まで引き出し、10で仕とめるというアントニオ猪木さんの理論ですよね。逆に8の力を10で仕とめられていません?
ハク 令和の風車は5対5のイーブンでゲスよ。なんでも白黒つけたがる風潮はよくないでゲス。
――白いのに。
ハク なんでも物事をハッキリさせようとした結果が、今のギスギスした世の中じゃないでゲスか。もっとファジーで、ハッキリさせなくていいというのが、これからの風車の理論でゲス。
――マッスル坂井さんも「白と黒以外にハッピーという選択肢があってもいい」という名言を残しています。
ハク ぶっちゃけ、アッシもだんだん白くなくなってきているし。ちょっと茶色がかってきてもハクと呼んでいいぐらいの寛容さこそが、今の時代に必要だと思わないでゲスか?
――寛容であってほしいとは思います。ところでこのたび、DDTプロレスリング所属となりました。正式には、ハク選手とお呼びした方がよろしいですか。
ハク ディーノは“選手”としてリリースを流されて会社に対し「かませやがったな」と憤ったらしいでゲスが、アッシは正直、どっちでもいいでゲスよ。
――どっちでもいい! 選手だとしたら試合を組まれる可能性もありますよ。
ハク 特にディーノは、危ないことはさせられないって止めるでしょうが、アッシにも「狂犬」と呼ばれた時代があったでゲスし、触れるものすべてに噛みつく気概のようなものは今も持っているでゲスから。ただ、この令和はそういう時代じゃないでゲスし、所属となったからには会社のコンプライアンスというものも考える必要が出てくる。そうは言うものの、いざとなったら出せる刀は懐に忍ばせているので、それをいつでも振るえる態勢ではい続けているつもりでゲス。
――5・13上野で男色ディーノプロデュースマッチとして「わんわんパラダイス」が組まれました。プロデューサーのご主人は「ワンちゃん同士で闘わせることはなくて、ただただ品評会としてかわいいと言ってもらうための場」とアナウンスしています。
ハク 試合としてやるのかどうかはともかく、所属となったからには「働かざる者食うべからず」とアッシは思っているんで。リアルな話になるでゲスけど、アッシのグッズの売り上げで食費とペットホテル代ぐらいは稼いでいるんでゲスよ。
――それはご主人様言えど頭が上がらないでしょうね。
ハク こう見えて、ちゃんと金の雨を降らせているんでゲス。つまり、そういうことでゲスよ。どんな形になるにせよ、稼ぐためのことをやるのが所属でゲスから。アッシとしては常在戦場のつもりでゲス。
――所属になるにあたって、CyberFightとは契約を結んだんでしょうか。
ハク ディーノは口約束って言っていたでゲス。
――『猫ピッチャー』という漫画では、主人公のミー太郎が所属球団のヨリウミニャイアンツから「契約金猫缶1年分、年俸はドライフード12箱」と提示されながらその後、再交渉して「猫缶2000缶追加+出来高(かつお節)」という条件を獲得しました。やはりそういう契約を締結するのはプロの所属として必要なのでは?
ハク 同じプロの業界ではそういう前例があったんでゲスね。じゃあ、ロイヤルカナン1年分と出来高でオモチャを提示してみるでゲス。
――よほど好きなんですね。ところで、プロレス業界における動物枠ではこの数年、新根室プロレス所属のアンドレザ・ジャイアントパンダという身長3m、体重500kgのパンダがデカい顔をして幅を利かせています。
ハク その話、出ると思っていたでゲスよ。しかるべき時は来ると思っているでゲス。さっき、なんでも白黒つけるのはどうかと言ったでゲスが、向こうこそ白黒つけたがるでゲしょう?
――まあ、見ての通りでしょうね。
ハク こっちは白しかないでゲスから。アッシなりに分析したところ、あのパンダの肌質は牙に弱い。穴を開けたらそこから何かが漏れるかのようにしぼんでいく。
――精神的に穴を開けたら、精神的にしぼんでいくという意味ですよね。
ハク あとは水分に弱そう。アッシはある程度自在に水分を出せるんで、そこは有利に働くと思うでゲス。
――プロレス業界におけるアニマルヒエラルキーを変えたい?
ハク 変えるというより、アッシがトップだと思っているでゲスから。問題はパンダが逃げずに向かってくるかどうかでゲス。
――まだ一試合もしていないのにトップと自認している!
ハク アニマル界で重要なことってわかるでゲスか? いかに強いやつ、偉いやつの懐に入って尻尾を振れるかでゲスから。そういう政治力はずっと培ってきているんで、地方のポッと出のパンダには負ける自信がないでゲスよ。
――あと、5・25後楽園でご主人様があの鈴木みのるという怖い相手と対戦するのですが、飼い犬としての視点からどのように見ますか。
ハク アッシが教えていることをやれば、だれが相手でも取るに足らないでゲスよ。
――教えていることとは?
ハク やる前にバラすやつがいるかよっ!
――ごもっともです。
ハク 一つ言えるのは、アッシの立場からするとまだ自分のご主人には稼いでもらわないと困るでゲス。アッシが稼ぐのも限界があるでゲスから、1馬力じゃなく2馬力で世帯年収を上げていかないと。ベルトが懸かっているんでゲしょ? ディーノにはチャンピオンになってもっともっと稼いでもらわないと。アッシはペットホテルからWRESTLE UNIVERSEを通じて見ているでゲス。
――いっそのこと解説席でご主人の試合を解説してみては? 村田晴郎さんだったらしれっとコミュニケーションを成立させますよ。
ハク うーん、解説って一方を応援したらいけない立場じゃないでゲスか。この試合に関してはやめておいた方がいいでゲスよ。ただ、メディアにはどんどん出たいでゲス。某専門チャンネルとかも呼んでくれてかまわないし、なんならギャラは現物支給…ドッグフードでもいいでゲスよ。
――それでは所属としてDDTでなし得たい目標や夢がありましたらどうぞ。
ハク 試合を通じて団体を引っ張っていくということは誰でも言えることでゲスよね? アッシは試合をせずしてDDTを引っ張っていく存在になりたいでゲス。
――それは可能なんでしょうか。
ハク かわいいという武器があるんで。
――さっき、かわいさだけでは通用しないと言っていましたが。
ハク それが現実。でも理想はかわいさがすべての価値観になればいいとアッシは思っているでゲス。ストロングという基礎があった上でのかわいさ…そのギャップが見る者に突き刺さるんでゲスよ。DDTにおけるあらゆる価値観をかわいさが凌駕し、返す刀でかわいさによる世界平和…これでゲスね。
――わかりました。では最後に…ご主人様に対し、普段は面と向かって言えないことをこの機に言ってください。
ハク いつも寝る前に、必ずディーノが「長生きしてね」って言うんでゲス。それに対するアンサーでゲス。(ハァッハァッという息遣いを一度止めて)「ディーノがかわいがってくれる限り、アッシは長生きしてやるからな」――。