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【6・29後楽園KO-D無差別級戦インタビュー①クリス・ブルックス編】マサの言葉が常に頭の中へあるから自分を律して動けた

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  • 6・29後楽園ホールにて、KING OF DDT 2025優勝者・樋口和貞を相手に5度目の防衛戦に臨むクリス・ブルックス。先におこなわれた会見では、自分の思いを文書にして正確に伝わるよう努めた。それほどの意味を持ってリングへ上がるわけだが、3月20日の盟友・高梨将弘とのタイトル戦から3ヵ月が経った今、これまでの葛藤も明かした。それを踏まえた上で、樋口戦を見届けていただきたい。(聞き手・鈴木健.txt/通訳・Mr. HAKU)

    会見のコメントを文書にしたのは
    ヒグチに対する強い気持ちの表れ

    ――5月26日のKO-D無差別級タイトルマッチ発表会見で、クリス選手はコメントを文書にして用意し、思いを伝えました。そのさい、質疑応答に関してはその文書のコメントがすべてとして受け付けなかったので、タイトルマッチを前にインタビューは受けないと思ったんです。
    クリス タイトルマッチは大事なシチュエーションだし、もちろんあの時も話したくないというわけではなかったんです。ただ、あの場には通訳をやってくれる人が不在で、自分のつたない日本語で伝えようとしてもその通りには伝わりづらいだろうと思って、言いたいことはすべてコメントにあるっていうことにした。そこまで気にする必要はないと言う人もいるかもしれないし実際、おおまかなことは理解してもらえるだろう。ただ、今回のタイトルマッチに関しては僕にとってそれほど大きいということをわかってもらう方が重要だと思ったんだ。だから今回、通訳をつけて話すという場がセッティングされたのであれば、まったく問題なく話せる。
    ――会見でも言っていましたが、これまでも真意が伝わらずもどかしさを感じるケースがあったんですか。
    クリス そうだね。ガイジンチャンピオンとしてアナウンスするにあたり、僕がなまじ少しだけ日本語ができてしまうから、逆に伝わらないって思うことはあったね。普段の会話であれば、それで問題なく成立するけど、今回のような大事な局面を僕の日本語で語るのはまずい。その点、ヒグチはおそらく伝わらなくてもリング上のファイトで伝えられるから気にしないタイプなんだろうけど、僕は過去に自分の言葉足らずが原因で思っていたように伝わらなかった経験をしていて、ああ、自分の意図とは違う受け取られ方をされているなって気づける程度の日本語は理解できる。だからといって、いやいや、そこはこうなんですよと日本語で言ったところで100%伝えるのは難しい。これは、僕がこの国でプロレスを続ける上で常に向き合っていかなかなければならないことなんだ。だから同じように、テキストにしてアナウンスする方法を採ることは今後もあるかもしれない。
    ――そのテキストですが、しっかりと要点を踏まえて書かれていると感心させられました。
    クリス お褒めいただきありがとうございます。noteでも翻訳した文章をアップすることをやっているけど、けっこういい反響が返ってくるんでこういう方法もありかなと思ってね。それは過去に、伝わらなくて忸怩たる思いになったことがあったから、文章という手があると気づいたことでもあって。会見だとその場で考えたことを言葉にして出さなければならないが、テキストだったら推敲ができる分、内容的な深み与えることが可能だ。それなら、会見でもその場で語る以上に本意をストレスなく伝えられるしね。
    ――病気に関し公表する時も、長文のテキストを発表していました。ああいう場合は、一度英文で書いたものを翻訳アプリにかけているんですか。
    クリス そうです。「DeepL」を使っていて、それでまず翻訳してから上がった日本語テキストを今度はGoogle翻訳にかけて英語に戻す作業。そこで文脈的におかしいところがあれば修正できる程度の日本語力はあるから。たとえば“無差別級”が“オープンウェート”って出てきたら、それは自分で漢字に戻すとかね。そうしてブラッシュアップした日本語テキストをたまたま近くにいたウエノとかに読んでもらって、違和感がないかどうかアドバイスしてもらう。書くたびに訳してもらうよう頼むのは申し訳ないから、自分でやっています。
    ――便利な時代になりましたよねえ。
    クリス AI翻訳あるあるだけど、あまりにもネイティブな英語のままだとすべて直訳されてヘンな日本語になるから、こういうふうに書けば自然な日本語に訳されるっていうコツをマスターしつつあるんです。日本語で“立て板に水”ってあるじゃない。そのままだと、本当に立っている板に水が当たるっていう英語になってしまう。なので、そういう表現は使わないようにしてうまく入力するときれいな文章になる。そういうテクニック。
    ――翻訳アプリの達人。日々のXへのポストぐらいであれば、自分ではじめから日本語を書いているんですか。
    クリス メッセージ性のあるものは翻訳をかけるけど、それ以外の「今日は暑いねー」「みんな、物販へ遊びに来てね」というようなものは直接、日本語で打ち込んでいます。
    ――いや、チャンピオンになったことで発言や発信を求められる機会が増えたわけじゃないですか。その中で、真意が伝わらないことのギャップが精神的負担になってはいまいかと、気にはなっていたんです。
    クリス 僕の性格から言えば、喋らなくて済むなら発言しなくていっこうにかまわないタイプなんだ。BAKA GAIJIN(クリスのプロデュース興行)でも初期の頃は締めのマイクをドリュー・パーカーに任せて僕はあまり喋らなかったぐらい。でも、意思を伝えることがうまくなるためにはやっぱり回数をこなすことだから、その意味では機会が増えたのはありがたいと思っていて、けっして伝わらないことで喋るのが嫌だとはなっていないよ。今思うと、DDTに来て最初の頃はマイクを持つと緊張していたね。それこそ何を言おうかと事前に考えて何度も言葉に出して繰り返すようなこともやっていた。それが無差別級チャンピオンになってからはマイクを持つ機会も増えたので、自分が言うことだけじゃなく、相手の言ったことを聞いてその場で返すのも苦ではなくなってきた。
    ――文書にしたのは、相手の樋口選手にも真意を伝えたいという思いが強かったんでしょうか。
    クリス 重要な試合ほど、ファンに伝える以上に相手へ伝える意味合いの方が強くなる。特に今回は、自分の日本でのキャリアを考えると無差別級チャンピオンに初めてなった時の起点の試合がヒグチだったという事実がとても大きい(2023年のKING OF DDT決勝戦で樋口選手に勝ち、優勝したことがKO-D無差別級初戴冠につながる)。だからこそタイトルマッチを前に、ちゃんとヒグチにはそれを知ってほしという思いは確かにあった。あの文書は、ヒグチに対する強い気持ちの表れと受け取ってもらっていいと思います。
    ――今回の防衛戦が今までと違うと思うのは、樋口選手もクリス選手もある意味、自分の人生と向き合い、それを克服した上でリングへ上がっている者同士という点です。もちろんケガと病気というのは同じではないにせよ、背負っているものの重みは変わらないはずです。
    クリス 言わんとしていることは、わかるよ。ただ、それによって共感しているかと言われたら、今の時点ではしづらい部分もある、というのは、僕は大きな困難に直面した時に周りの友人やファンの人たちに自分の思いを伝えたり、対話したりすることによって気持ちを昇華させ、それによって乗り越えられたと思っている。それに対し、ヒグチは非常に黙して語らずというタイプで、黙って消えて、黙ってリハビリに励み、黙って戻ってきたというイメージがある。だから彼がどういう気持ちのアップダウンを経て戻ってきたのかが、ちょっとわかりづらい。共感しづらいというのはその部分なんだけど、見た限りではあれほどの大きなケガをしながら、後遺症を引きずっているとか、まだ本調子じゃないというようには一切映らない。戻ってくる前となんら変わっていないとしか思えないぐらいなので、そこの感情の起伏だったり、紆余曲折のようなものだったりが見えてこない。そこはヒグチの語らない性格によるものなんだと思う。
    ――休んでいる間のアップダウンを表に出さないという点に関しては、クリス選手からも感じることです。我々の見えないところでいろいろなことがあっただろうに、それをリング上に持ち込まず、みんなの中にあるクリス・ブルックスそのものを見せている。凄いと思っていました。
    クリス そう思ってもらえていたのであれば嬉しいです。そこは意識してそうしているわけじゃないんだけど、それも性格によるものだと思う。僕はプロレスが好きだし楽しいから、やっている時にほかの雑念のようなものが入ってくる余地がない。よくイギリスの友人に、もう5年も6年も日本にいったきりで、そろそろホームシックになったり寂しくなったりしているんじゃないの?って聞かれるけどまったくそんなことはなくて。別にホームシックにならないよう意図的に忘れようとしているんじゃなく、ただ単にプロレスと日本が大好きで、そこに意識が向いているから祖国のことを考えるタイミングが訪れないにすぎないんだ。病気のことも、リングに上がって試合をするとなったら頭から飛んでいるから、影響が出ないように自分を仕向けているところはないんです。
  • 言葉にすることで注目してもらいたいと
    思われたくないから話さずにきた

    ――そうですか。なぜ、この話をしたかというと…特に、3月20日以後のこの3ヵ月間は自分の内面を出すことなくプロレスに打ち込めているなと思っていたからです。あれほどのことがあったというのに。
    クリス それに関しては…マサ(高梨将弘)に叱られたから。あの時、彼のそばへいった時に「クリス、何やってんだよ。おまえは今、ここにいるべきじゃないだろ。チャンピオンとして防衛したんだから、大会を締める役割があるんじゃないのか?」と言われたんだ。そのあとにも、もう一回怒られてね。「締めが終わったんだからロビーにいって、お客さんを見送るのがクリスの責任だろ」って。“Show must go on”とマサから言われて、それが自分の言動の指針になっている。もちろん、辛いことはたくさんあった…うん、あったんだ。この3ヵ月間、プロレスなんてやっている場合じゃないだろっていう気持ちになることも一度や二度じゃなかった。
    ――プロレスが大好きであるにもかかわらず。
    クリス だけど、それでも自らを律して動けたのはチャンピオンとしての責任というよりも、その責任を全うしないとまたマサに怒られちゃう。彼は何を望むのか、僕に何を言うだろうかっていうのが常に心の中へあるから、試合をやっていてもマサの言葉として頭をもたげてくる。
    ――文書の中にもあった「自分のモチベーションに疑問が生じている」という思いは、高梨選手とのことが影響を及ぼしているのでしょうか。
    クリス はい、100%そのことです。
    ――……そうでしたか。
    クリス 最近、精神的な岐路に立つことが続いている。ベルトを獲ったこと、両国のメインに出ること、マサとタイトルマッチをやること…それらの自分にとって意味のある試合ができるのは、すべて自分が過去におこなってきた選択が正しかったと思わせてくれるものだった。故郷を離れることや日本に移住するというような難しい選択をする時って、はたしてそれが正しいのかっていう迷いが生じるわけだけど、それが今あげたようなシチュエーションを得ることで自分の中での正解を確信できた。でも、その一方でもしもベルトを獲っていなかったら、それであのタイトルマッチもおこなわれなかったら、こういうことは起こらなかったんじゃないかと思ってしまった。もちろんプロレスはケガもするし、事故が起こり得るものだというのはわかっているにもかかわらず、そう受け取ってしまう自分がいる。やってきたことが正しかったという嬉しさと、悲しくなる気持ちが交錯する局面がたびたび訪れてしまう。でも、じゃあベルトを持っていない方がよかったのか、それなら今、落とした方がいいのかって…そんなことをマサが望むわけがない。そもそも、こういう話は今までしてこなかったよね。
    ――はい。
    クリス 今は、質問されたから答えている。回答するのはやぶさかではないよ。ただ…うん、言葉にすると安っぽくなると思って。なんて言ったらいいかな、要は言葉にすることで試合に注目してもらいたいというように思われたくないし、僕とマサの関係性をそういうことで汚したくない。だから今までは話さなかったんです。今、この場においてはコミュニケーションの上で成り立っている言葉じゃないですか。それなら問題ないと思う。それを自分発信で一方的にアナウンスしたら、たぶん誤解が生じやすくなる。まあ、誤解じゃないにしても、結果として注目を集めることに利用されるのは嫌だったから口にはしてこなかった。
    ――今回、オフィシャルとしてクリス選手へのインタビューのオーダーを受けた時は正直、迷いがありました。結果的に私は今、クリス・ブルックスの気持ちの中に土足で上がり込んだ形になっています。そして、このインタビューが公開された時点で「注目を集める」ためのものになってしまっています。
    クリス うん、それは理解しているよ。僕の本意にそぐわないとしても、我々がやっているプロレスというものの構造上、そうなる部分があるのはね。だからそれに対し、反発するようなこととは思っていないよ。
    ――ありがとうございます。話を変えます。ブンブンとはどうやって出逢ったんですか。
    クリス これは運命的な出逢いでね。ブンブンの方が僕と出逢いたがって、彼がなんらかの形でネット通販を通じて自分が見つかるように仕向けて、僕の手元に届くようにしたらしい。ブンブンは僕のことをわかっていたようで、僕が酔っ払った時に必要のないものでもポチっとやってつい買っちゃうタイミングを見越していたんだって。まあ、こっちはただ酔っ払って押しただけなんだけど、こうやって一緒の時間を過ごすうちにそうとしか思えなくなった。
    ――どうしてブンブンはクリス選手に逢いたかったのか、本人に聞いたんですか。
    クリス 聞いたよ。でも、シャイだから頑なに口を閉ざしている。だけど僕にはわかる。まあ、もともと1月ぐらいからSCHADENFREUDE Internationalに新メンバー入れるとしたら誰がいいだろうと思って、DDTの周りを見渡してもちょうどいい人がいないなと思っていたんだけど、そんな中でMAOとKANONがSTRANGE LOVE CONNECTIONを結成してある日突然、MC(KIMIHIRO)を連れてきた。そうかそうか、レスラーじゃない人間でもOKだったら、僕らもブンブンを入れても文句は言われないよな。じゃあ、メンバーとして迎えちゃおうって。
    ――仲が良さそうで何よりだなと思って見ています。
    クリス ワタシトブンブン、ソンナニナカイクナイ。ブンブントマサダハスゴイナカヨシ。チームメンバーとしては、非常によく役割を果たしてくれているとは思うけど、それ以上の関係は実を言うと築けておりません。それほどマサダとの仲が良すぎ! バックステージではいつも赤ちゃんをあやすように両手でブンブンを抱きかかえている。なんだろうね、マサダはずっと弟がほしくて、それを投影しているのでは?と思わせるぐらいのかわいがりようだ。その愛情が伝わっているのか、ブンブンの方も少しずつ人格というか性格を表に出すようになってきて、ブンブンもマサダのことを気に入っているんじゃないかと思わせることが多々ある。これを見てよ(スマホを見せる)。
    ――ブンブンのX!?(@bunbunddt) いつの間にアカウントを。
    クリス ここに「わたしのしんゆうはまちゃだーです」って書いてある。
    ――6月17日に開設してフォロワー数1000超えって、またたく間にDDTのファンにも受け入れられていますね。
    クリス 最近はコールも「withブンブン」の時が、クリスよりもマサダよりも歓声が多い。
    ――彼の存在は今のクリス選手にピースフルなものやポジティブなものを与えてくれているものですか。
    クリス ブンブン? ベツニ。まあ、みんなが喜んでくれているならそれでいい。ハッピーやポジティブにしてくれるわけじゃないけど、面白いやつではあるし、マサダの精神安定にとても貢献している部分に関しては、助かっているかな。かわいいな、大好きだっていうよりも、この奇妙な状況が楽しめて、なんでこんなものが存在し得るんだろう、いかにもDDTだよなって思っているので、その意味ではポジティブを与えてもらっていることになるのかな。
    ――わかりました。今回は喋りづらいことにも答えていただき、感謝します。
    クリス ううん、今日は一歩踏み込んだ質問をされるだろうと想定していたから、本当に問題ないよ。逆に、ありがとう。

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