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【インタビュー】全ベットで敗れたあとに望んだ鈴木みのるとの再戦……上野勇希が自分自身として生きるために――

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  • 痛さも怖さも味わわされた上での完敗――それが上野勇希にとっての鈴木みのる戦だった。全ベットで臨んだDDT UNIVERSAL王座戦。ゼロになったところから何を積み重ねて、上野は再び鈴木と殴り合う場を求めようと思ったのか。この7ヵ月間の中で芽生えた突き動かすものをKO-D無差別級王者が語った。(聞き手・鈴木健.txt)
  • TAKAYAMANIAのバックステージで
    あった鈴木とのやりとりが決め手に

    ――鈴木みのる選手との再戦が、前回から7ヵ月で実現します。
    上野 僕の方があのタイミングで鈴木さんのUNIVERSALに(挑戦する)って言おうと思っていたんですけど鈴木さんも出てきてくれたんで、もう一番嬉しい!っていう感じで。鈴木さんがUNIVERSALチャンピオンとして動いているか意識なのかどうかは僕にはわからないけど、それでも海外でも国内のいろんな団体にベルトを持っていっているのを見て、それが嬉しかったんですよね。僕は今年のTAKAYAMANIA EMPIREに参戦させていただいたんですけど、鈴木さんがその日のメインイベントに出る直前、たぶんそのまま鈴木さんが階段を上がって入場にいく前にすれ違ったんですよ。言葉はなかったんですけど(UNIVERSALの)ベルトを僕に見せて入場していったんです。それが、どういうメッセージをこめているかはわからなかったですけど、僕は嬉しいな、誇らしいなと思って。やっぱり僕は鈴木さんからUNIVERSALを獲りたいっていうことなんだと思いました。それは、負けたから鈴木さんとやりたいんじゃなく、UNIVERSALチャンピオン・鈴木みのるだからこの人から獲りたいって、改めて思った感じです。
    ――観客の見ていないところでそういうやりとりがあったんですね。
    上野 それは(このベルトを持っているのは)おまえじゃねえよということだったのか、おまえから獲ったこれを持っていくという意味だったのかはわからなかったんですけど、僕に対しベルトを掲げていった。で、そのあと僕はその試合を上(バルコニー)で見ながら、やっぱりUNIVERSALチャンピオン、すげえって思っていました。
    ――これまでのDDTにおいてKO-D無差別級王者とDDT UNIVERSAL王者はまったく別の路線で進んでいて交わらなかったのが、お互いが求めることによって初めて交わります。
    上野 MAOちゃんと無差別を懸けて両国でやった時も、MAOちゃんがUNIVERSALチャンピオンだったけれどその前にKING OF DDTを制して僕とやるということで、ダブルタイトル戦にはならなかった。今回に関しては、感覚としては結果的にこうなったと思っていて、鈴木さんのUNIVERSALに挑戦させてほしいと口に出そうと思った時、この(無差別級の)ベルトを懸けてでもというか、リマッチをさせてもらうには自分も何かを懸けないと、UNIVERSALだけ懸けてくれというのは無理だなと思ったんです。だから今回、どういう形であれダブルタイトル戦になっていただろうと思いながら、でも鈴木さんが求めてくれて僕が求めてというところで合致したのも嬉しかったんですよね。
    ――無差別級のベルトが鈴木みのるを釣るためのものだったと。
    上野 釣るためというよりかは、自分の覚悟。そもそも、僕の方がUNIVERSALに挑戦してくれって呼びかけながら負けてしまって、それで自分がもう一回やりたくなったからといって負けたベルトを懸けてやらせてというのは、ちょっと自分の中でOKできなかった。だから平田さんからベルトを獲り返して、須見からも防衛することができて、言ってみるかとなれたんです。そこは鈴木さんだからOKするかどうかわからないけど、ちょっと嫌なことを言ってみるとか…まあ、そういうのはすることなかったんですけど、無差別級を懸けるのもそういうもの(OKさせるための)の一つで。結果的にダブルタイトルマッチになりましたけど、今回負けたらもう二度と鈴木みのるに挑戦することはないと自分で決めて…その2つですね。このベルトを懸けることと、今回負けたら鈴木みのるに挑戦しませんので、僕に挑戦させてくださいでいこうとなったんです。
    ――前回、UNIVERSALタイトル戦をやる時に「全ベットする」と言ってその結果、負けてしまったから違う何かを持っていかないといけないということですね。
    上野 はい。団体の一番のベルトであり、僕は鈴木さんと闘うのが好きだからその楽しさや自分のプラスになる思いも全部懸けますんで、もう一回遊んでくれよということです。手ぶらじゃできないです。でも、僕が(無差別級を)獲ったから動いたと言ってくれて、それも痺れました。勝った者が強くて、負けた者が弱いという結果が出たなら、わざわざ僕にかまう必要なんてないはずなのに僕と組んだり、DDTでの僕の闘いやいろんなものを見たりする中で、この上野が持っている無差別級なら獲りたいと思ってくれているのであれば、痺れますよね。
    ――鈴木選手の中に上野勇希だから動いたという明確な動機がある。それはある意味、評価されていることになります。鈴木みのるに面白いやつと思われているという手応えは感じていたのでしょうか。
    上野 少なくとも鈴木さんとタッグを組んだ時はめちゃ楽しくて手が合いました。逆に対戦していても自分の中にある壁のような自意識がなくなって、鈴木さんと一体になっているんじゃないかって思えたんです。なんか、変な感覚でしたね。あとから映像で見ると、自分はこんな顔をしていたんだ!?って一番思うのが鈴木さんとの試合で。生意気ですけど、僕は鈴木さんとプロレスに対する求めるものの感覚が近い気がするんです。だから僕はすごく溶け合っていると思っているので、もしかすると鈴木さんもそういうように思っているかもしれないです。
    ――鈴木選手とのタッグに関してなんですが、3・20後楽園ホールで完敗を喫し、あれほど勝った姿を見せつけられた直後、4・7後楽園でタッグを組んだじゃないですか(男色ディーノ&HARASHIMA戦)。あの時、正直なところ「負けてすんなり組んじゃうのか…」と思ったんです。悔しさが残ったのであれば、そこは拒絶するべきではないかと。負けて組んだら、軍門に下った形じゃないですか。
    上野 なるほど。気持ちいいぐらいに負けましたから。ある種、思い残すことなく負けたんで、あの時点では僕が鈴木みのるから獲り返さなきゃいけないっていう気持ちもゼロ。さすがにプロレス王を呼び出して挑戦してこいって言いながら負けたら「チキショーッ!」「こんなはずじゃ…」とはならなかった。それぐらいのお手上げ状態で、ここまで完膚なきまでに負けたならDDTで鈴木みのるがどうするのか、UNIVERSALチャンピオンになったらどんなチャンピオンになるのかを見てやろうって、そこで切り替わった。UNIVERSALタイトル戦の時点で何か溶け込んだ感覚があったからこそ、むしろ鈴木みのるがUNIVERSALチャンピオンとしてDDTでどう動くのかっていうのを感じたかったのが一番だったんで、組むことにはなんら抵抗もなかったし、なんならタイミングが合えばタッグタイトルを狙うのも楽しいだろうなと、その時は思っていました。
    ――距離を縮めるために?
    上野 そう。別にタッグを組んだからといって…それも結果的にうまく潤滑した。鈴木さんの中に何か認められないものがあったら不協和音が生まれていたんでしょうけど、それもなく手が合ってしまった。その意味ではこれも結果論なのかもしれないけど、メンタルとしてまったく抵抗はなかったです。むしろ(組むことで)何を感じられるかでしたね。
    ――闘う側に回ると試合だけでなく言葉も辛らつなのが、組むと円滑な関係性になるところに二面性を味わったのでは?
    上野 僕は二面性を感じなくて、むしろ僕から見た鈴木みのるまんまだったと思います。闘っても組んでも違いはなかったかな。
    ――そういうものなんですね。
    上野 僕の見られ方も、対戦相手に対する言葉も含めてぶれていないと思いますよ。この時はこの顔というのではなく、鈴木みのるという軸から見た立ち位置の問題だから気持ちよく組めたっていうのはありますね。
    ――ということは、むしろ気持ちよく組めてもやっぱり対戦したいとなるわけですね。
    上野 そうですね。鈴木みのるのUNIVERSAL防衛の過程を追っていく中で、やっぱりこの人に勝ちたい、UNIVERSALを獲りたい、こんなすごいチャンピオンになりたいって、改めて思わされてしまいました。鈴木みのるウォッチャーになっていました。
    ――あの防衛戦の相手を次々とクリアしていく姿は、見ていて面白かったでしょう。
    上野 鈴木さんって、生命力が強いじゃないですか。その生き延びる力、生存能力っていうことだけじゃなく、自分自身として生きる力が強いところが僕はすごいと思うんですよね。自分を生きるってプロレスラーじゃない人生だとしてもすごい大事なことで、ほかの誰かが評価していいって言われるとかじゃなく、自分のいく道を進むための力がプロレスラーの中で一番大事だと思っているから、鈴木さんのことを素直にこの人がプロレス王なんだって思えるんです。ただでさえプロレスというジャンルは多様性に満ちているからどうとでもいける。そういうジャンルの中で、ちゃんと自分というものを持ち続けることの難しさですよね。選択肢の多さから、一番大きな団体のチャンピオン、力が強いチャンピオン、技術があるチャンピオンとさまざまな形がある中でプロレス王と言っているわけだけど、そういうところじゃない自分を進める力の強いというところでのプロレス王なんで。
    ――そういう気づきを得ながら、この7ヵ月間は鈴木みのるともう一度対戦するために積み重ね、着地点を定めていたということになります。
    上野 負けた時点でまったくのゼロになって、そこからは自分がしたいことってなんだろうと思っていた時期だったんですけど、そう思うたびに鈴木みのるが面白すぎて面白すぎて、凄すぎて。どんどん膨らんでいって、TAKAYAMANIAでベルトを掲げられた瞬間に、やっぱりやらなあかんって自分がやりたいこととハマって感じですよね。
  • 怖いも楽しいも全部ないぐらい
    フラットに鈴木さんと殴り合っている

    ――TAKAYAMANIA EMPIREの3日前に無差別級のベルトを平田選手に奪われたばかりでした。鈴木戦を実現させるために、あのような獲り返し方(ヨシヒコの黒子に化けて、いつでもどこでも挑戦権を行使)まで企てたのでしょうか。
    上野 あの行動はまったく別軸です。8月31日の無差別級タイトルマッチは、前日まで樋口さんと秋山さんのどちらが来るかわからない状況で。通常の僕はずーっとタイトルマッチの相手のことを考えて、膨らませて、その中で変化していく考えを楽しむんですけど、あの時はそれができなかったから、もう一つのこととして鈴木みのる、面白いことやってんなーという方を膨らませていった。でも、ひがしんアリーナで秋山さんに勝ったあとマイクをした時に樋口さんがすごく笑っていて、ケガとか直前の秋山さんとの壮絶な闘いを乗り越えて、人としてKO-D無差別級チャンピオンになっている樋口さんを見て、こういうふうにもなりたいって思ったんですよね。自分が闘いたいとか勝ちたいと思えるのって、相手を尊敬したりあこがれたりする部分によるものなんだっていう思いが膨らんだんです。そういう意味で、名実ともに強さだけじゃない心の部分もチャンピオンになった樋口さんから獲りたいと思って、それで獲ることができた。でも平田さんが…あれは、平田さんからしたらノーロープバンジージャンプぐらいの気持ちで来たと思うんですけど、それで獲られてしまって何も考えられなかった中で、それでも「やっぱ、平田一喜おもろいよな」というのが自分の中に残って、悔しいとも言えるんですけどおもろすぎた。それで、自分の中のおもろさをぶつけようと。明確に、平田一喜のおもろさに自分のおもろいをぶつけることをやった結果、ベルトを獲れたという。じゃあベルトが獲れたなら今度は、樋口さんとのタイトルマッチまでに生まれていた鈴木みのるの名を言おうと思っていたらお客さんがざわついて、振り向いたら鈴木みのるがいたという。何か一つだけにいっているのではなく、常に感じるものがある中で鈴木みのるはずっとそこにいたという感じでしたね。
    ――まあ、8月31日の時点では鈴木みのる戦どころじゃなくなっちゃいましたからね。
    上野 そう。だからあれは平田さんに対しての自分の示し方です。鈴木さんには、僕がDDTの王様っていう言い方をしていますけど、ほかのみんながいるから僕がいて、平田さんがいるからDDTだし、逆に言えば平田さんがいて僕がいるからDDTだと思うから。何かに対し軸を決めるというよりも、自分たちの持っているものをぶつけるところなんで、平田さんには平田一喜というチャンピオンに対して勝ちにいく姿勢でずっといました。
    ――お互いが対戦を要求するやり合いの中で、鈴木選手に対し「また少し離れたところにいってもらおうと思います」と言いました。UNIVERSALのベルトを獲るまでは、そういう立ち位置に映っていたんですね。
    上野 それを言ったらUNIVERSAL以前に宮城(MAO凱旋興行)で出逢う(タッグ対戦)まではプロレス界という意味で一緒なだけで、僕なんか試合をすることもないしあるとも思っていませんでしたから。でも、あのあとからは、離れてはいるけれどもしかすると闘えるかもしれない距離になった。それでその言葉が出たんですけど、言おうとも思っていなかったのが「制圧する」と言われた時に何も考えることなく出てきた。それが自分のプライドなのか、何によるものなのかはわからないですけど、こんなことを言ったらどう思われるのかという壁がパーンとなくなった瞬間でした。自分でも、こんなこと言うんだ!?って。
    ――それまではDDTのメインストリームとは離れた存在ととらえていたんですね。鈴木選手本人は、2011年に初めてDDTへ上がった時からKO-D無差別級王座を狙っていたそうなんです。上がるリングの一番上を目指すのは当然だろうと。そこから14年かけての初挑戦となるわけです。
    上野 それは嬉しいですね。この無差別級のベルトを持っていると歴史と闘うことがたくさんあって、最初に獲った時は特にDDTの歴史を持っている人たちとタイトルマッチをやって、DDTの全部を混ぜ込むようにやりたかった。でも、鈴木さんが新宿FACEで「覚悟」っていうことを出したんですけど、それこそ14年とか、鈴木さんの何十年というキャリアとか歴史では測れないところでやっている。鈴木さんも歴史や時間の長さで覚悟を掲げているわけじゃないのはわかっていますが、それは別に僕が退くべきことじゃないというか、別に長さが強さじゃないからひるむこともないんですけど。でも結果的に14年経っての初挑戦でDDTを制すという高い志を持つ鈴木みのるを受け止める側面もこのタイトルマッチにはあるので、それはやぶさかではないです。
    ――ほかの誰でもなく自分にその役どころが回ってきました。
    上野 鈴木みのるという存在を目の前にしてしまったら、自分の心の奥底にあったであろう言葉が出てきて僕自身、しっかりとプライドを持っているから怖くもなければある種、恐れ多くもない。そう、前回と全然違うのは怖くないんですよね。どう考えても痛いし、迫力もものすごいし、言葉も強い。怖いと思う要素はたくさんあるんですけど、怖いとか、もっと言うと楽しいとか、そういうものが全部ないぐらいフラットに鈴木みのると殴り合って、マイクを取り合ってやっているんですよね。
    ――前回はその怖さをむしろ味わいたいと言っていました。それを味わった結果、フラットにいけると。
    上野 なんですかねえ、不思議なぐらい溶け込んでいます。自意識がなくなりました。究極の状態だと思います。
    ――慣れ、ですかね。
    上野 いや、慣れではないと思います。むしろ一度怖さも味わいきったし楽しみきったし、その限界値を知って今も常にそういう思いもあるけど…なんだろうな、鈴木さんの言葉一つひとつ、表情一つひとつがもうバーン!と入ってくるんですよね。そのまま入ってきたのを返すっていうことをしています。それはなんか、慣れたともちょっと違う感覚が開いている感じですね。
    ――受け止められるようになったということなのか。
    上野 なのかもしれない。それがこの7ヵ月間での変化なのかもしれない。樋口さんとタイトルマッチをやってそこに費やしたものがあり、平田さんに負けて勝って、須見が来てくれたりといろんな要素があってのことなのかもしれないですけど。自分の中では何かが広がったというよりは、本当に開かれている。
    ――痛みも怖さも味わい、結果としても負けたにもかかわらずそういうポジティブに解釈ができるのは、強み言えば強みではないかと思います。
    上野 一度落ち込むとかを超えて、360度こうなった。やりきっても、悔しいとか痛いとか哀しいとかがグルンと回って、鈴木みのると向き合うことができた中で無差別級タイトルマッチを計4回やって自分の中のアンテナがおかしくなっているかもしれないです。
    ――あれほどの目に遭わされながら今回やるとなったのは、自分の中でいけるという手応えがなければそうはならないですよね。
    上野 いけちゃい…ますね。鈴木みのるに勝てるという確信はないんですけど、でもいかなきゃいけないということですね。勝ちたい、勝てますなんていうのはプロレスやっていたら前提だから、そこに志を一番にすることはない。それに勝てると思うからやるわけでもない。むしろ自分が開かれていくからこそやらざるを得ない。
    ――それは自分自身のために?
    上野 自分自身のためです。僕はプロレスを生きるためにやっている。それはリング上だけじゃなくて、生活そのものだから。お客さんにもそれぞれの人生があって、それぞれ生きる中でプロレスを見に来て僕たちの姿を見てくれている。もちろん僕は見てくれる人にとっての活力になったらいいなと思いながらプロレスをしているんですけど、それは必ずしもプロレスラーが立ち上がる姿とかだけじゃなくて、僕が痛みを味わったり苦しんだり、あるいは僕に対してむかつくとかマイナスの思いが活力になる可能性もある。6000人いたら6000人、みんな見方が違うんだから、僕は常々思うんですけどこういうふうに見てほしいというのはなくて。僕が鈴木みのるという強大な存在に立ち向かっていく姿を見てほしいんだというわけではなく、とにかく生きるということを見てもらわないといけない。そこでやっと何かを感じてもらえると思っているから、僕が生きるためには今、鈴木みのるとタイトルマッチをしないといけないんです。もっと言うと、それが勝たなければいけないというところにつながっていく。それを見て、何かを受け取ってもらうのがプロレスをやっている大きな一つの理由だから、僕は生きなきゃいけない。
    ――見てくれる人たちにそれを提示しないといけないと思っているんですね。
    上野 そうです。なんのために闘っているって、対戦相手に勝ちたい、対戦相手を感じたいというのはもちろんあるんですけど、それと同じぐらいにみんなが自分たちの時間を使って、この日は両国国技館に来てくれるということに対する届けるものっていうのは、自分の生き方とか向き合い方だから。それをなぜ鈴木みのるとやりたいかというと、鈴木さんはそうやって自分自身を生き続けてきたから。僕がいきたいという生き方をしている。僕も上野勇希として生きるということをやりたいし、それこそが見てもらう価値のあるものだと思うから。鈴木さんは鈴木みのるとして生きて、人に見てもらう価値のある闘いをし続けている生き方をしているから、その鈴木さんに自分をぶつけるということが一番みんなに見てもらいたい闘いだって思います。
  • ベルトだけでなく二度とやらないという
    手土産を差し出さないと同じ土俵に立てない

    ――なんか、とんでもない人と出逢っちゃいましたね。十何年、何十年後の自分に直結してくる存在に。
    上野 そうなんですよね、うん。そこは鈴木みのるという概念にしてほしいんですけど。鈴木さんみたいな刺々しい生き方っていうか、あの殺気立ったものという意味じゃなく僕は鈴木みのるみたいになりたいから、概念として僕のあこがれるものだからそんな人に自分をぶつけてみたらどうなるんだろうというのがあるし、そういう思いをぶつけたいから急に自分の中の枠、自意識みたいなものがなくなったのかなと思います。
    ――そういう対象は今までほかにいたんですか。
    上野 自分自身で生きることが大事という気づきを与えてくれたという点では青木さん。そこに対しての学びたい気持ちや、自分が感じたことに対する感謝もそうだし、答え合わせみたいな思いで青木さんとはタイトルマッチで闘ったし、組む時も常にその思いだから。ただ、今の僕が鈴木さんに感じている思いというのは、たぶん鈴木みのるでしか味わえないものなんですよ。鈴木みのるvs青木真也を見ながら、やっぱり二人ともそれぞれ生きていて、プロレスラーはこういう姿を見せるものなんだと思えたし、その積み重ねで鈴木みのるおもしれえ→すげえ→こんな人に負けたのか→勝ちてえってなっていった感じです。
    ――鈴木みのると闘うということは、殴り合うのを前提としているわけじゃないですか。自分の人生において、人との殴り合いを求めてしまっていることを客観的にどう受け取りますか。もともとそういう人間だったのでしょうか。
    上野 いやいや! 僕は今でも自分の試合を見て、なんでそんなことをするの!?って思っていますよ。
    ――人を殴って楽しんでいる自分がいるんですよ。
    上野 そうなんですよね。殴られて楽しんでいる自分もいるし。特に鈴木さんは殴れば殴るほど殴ってくるじゃないですか。それもたまらない。
    ――それをたまらないと思えてしまう。
    上野 その瞬間瞬間を細かくやっていったら痛い、苦しいと思っているんでしょうけど、終わってみたらめっちゃ来たなーみたいな。それこそヒジを通してマジで会話しているような感じで「おまえ、どんなもんや?」って常に鈴木さんも開いてくれているんじゃないかと僕は思っているんですけど、それが楽しいから。殴るっていうのは一つの手段で、マイクも一つの手段。鈴木さんとはすべての瞬間でぶつけ合えているからなのかもしれないッスね。入場の前から、入場している時から、目を見ている時から達人の攻防じゃないですけど、それを精神でもやっているような感覚です。おまえはこの瞬間をどう生きるんだ?というのを問い合っている。この感覚は、ほかの人にはちょっとないですね。
    ――それが快感?
    上野 はい、気持ちいいです。鈴木さんとのUNIVERSAL戦の時、実はエルボーで左の鼓膜が破れたんですけど、まったく聞こえなくなることはなくて、その時の歓声や自分の息遣いがゴボゴボゴボってなるんですよね。自分の感覚では水の中にいるような。苦しさも含めて、体力も一杯いっぱいだったし耳も意識もそんなだったし、夢の中にいるような…だからちょっとキマっていたのかもしれないんです。それを味わいたいのかもしれない。
    ――それは病みつきになるでしょうね。
    上野 常に自分が変だなと、こうやって口に出したり行動したりしたあとに思います。プロレスラーになるきっかけも、プロレスが好きだから鍛えるとか体を大きくしたいとか当然だと思っていたし、プロレスが好きだから入門テストを受けるのも当たり前だと思っていたのが、今思ったらほかにそんな人はいなかったという。でもこうやって自分が楽しいとか、心躍るものに対して動いてしまうっていうのは、たぶん自分の最大のいいところだから。別に誰かの基準で変だとかはどうでもいいから、とにかく心躍ることに向かっていったら今はそのゴールが鈴木みのるであるという。
    ――そこまでのめり込めているのに、負けたら二度とやらないんですか。
    上野 ちょっと時代に合っていないこと言いましたけど、プロレスラーなんで、やっぱり懸けていかんと。凄い人とやるには、自分を凄いと思えるようなことをベットしないと物足りなくなっちゃっているのかもしれないです。
    ――そんなに退路を断たなくても…今回と同じように、負けてもまたやってみたくなるでしょう。
    上野 退路というわけではないんですけど、確かに言われてみたらその感覚もおかしくはないですよね。でも…。
    ――前回、全ベットしてゼロになりながらもう一度できるということは、ここでも可能性はゼロではないということなのに、二度とやらないと言ったのは何がそうさせるのかと。
    上野 自分の中ではそれ以外の選択肢はないと思っていたんですけど、確かにまたやってもいいという選択肢もありますよね。でも鈴木さんは自分がなりたい、未来の自分であるし、UNIVERSALのチャンピオンとして凄い人であるし、常におもろすぎる人というリスペクトを持っている人に対し、手土産なしではいけないと思っているのかもしれないです。ベルトを懸けてもらうということで僕のベルトも懸けるのは当然の差し出すもので、それに乗っけているのは鈴木さんに負けた身なんだから同じぐらいの覚悟がないと同じ土俵に立てないと思うんです。
    ――二度とやらないという覚悟も差し出したものの一つだと。
    上野 自分自身、そういうものも差し出し切らないと闘えない。
    ――本当に全ベットですよね。それこそ負けたらゼロどころではないぐらいの。
    上野 鈴木みのるが持つ2本のベルト(無差別級&UNIVERSAL)にもう挑戦できないというのは、僕の中ではもしも負けた先、鈴木さんがベルトを持っている間は挑戦することができないってこと。それでもかまわないと思えるぐらい鈴木さんとやるなら、その瞬間瞬間に尽くしたい。
    ――それだけの大きなものを懸ければ当然返ってくるものも大きいわけで、鈴木みのるに勝ったという勲章と、史上初の2冠王という称号が得られます。今まで通り2つのタイトルで違うカラーを出していくならまた忙しくなります。
    上野 でも、僕の中では2本とも懸け続けたいと思っていて。そこは挑戦者次第ですけど、テーマとしては別のものがあるけど今はプロレス界が世界に開かれるようになったじゃないですか。だからこそDDTプロレスへの愛情とか、矢印が大きければ大きいほどそれが跳ね返って世界にも飛んでいく状態だと思うんです。配信があれば家で見られるし、ほかの団体にいかなくても知られる可能性が膨らむというところで僕がKO-D無差別級とUNIVERSALを持ってDDTに対する愛情を持ち続けることは、2つのベルトが持つ理念を同時に進行できると思っているんですよね。だから、チャレンジャーがこっちのベルトがほしいって言うんだったら分けてやりますけど、おいしい存在として限界値を超えていかないと。限界を超えた僕を超えてくれる人を待って、それを僕が超えていく作業をしていかなければならないんで、もういくところまでいってやろうと思っています。
    ――この日はIWGP世界ヘビー級王者となったKONOSUKE TAKESHITA選手の試合もあるので、同じまな板の上に置かれることとなります。
    上野 その内容が比べられるとか考えないんで、まったく意識しないですけど、タケがIWGP世界ヘビーを獲ったのは友達として、DDTのファミリーとして仲間として誇らしいことであるし、それで比べて見る人もいるならば、それによってもっとDDTを見てくれる人が増えてくれるのが嬉しい。タケがほしいと思ったものを獲れたことが僕も嬉しいからいいことしかない。そこにプレッシャーはまったくなくやれます。
    ――日本に帰ってきて会話などをする中で、距離感の変化は…。
    上野 まったくないですね! 僕はDDTプロレスが好きでプロレス界に入ってきたんで、AEWのベルトの価値と比べるわけじゃないですけど僕はKO-D無差別のベルトがほしいし、僕が見せていきたいものはすべてここ(目の前にあるベルトをポンと叩く)に詰まっているから。タケが獲れて嬉しいと思っているのは、タケがほしいと思ったもの、あこがれたものにたどり着いたことが嬉しいというだけだから、そこに距離はないんですよ。
    ――別の世界でもなく?
    上野 別の世界に見えていない。でも、TAKESHITA以外にできないもの凄いことであるのはもう間違いないから最大限のリスペクトがあるけれども、それが遠くの世界のことでもなければ、自分が手の届かないことを成し得たということではない。何も変わらないです。もともと僕はTAKESHITAが凄い人、凄いレスラーだと思っているからなのかもしれないですけど。僕がDDT、タケが新日本プロレスで一番のベルトを持つという物語でつながるとはまったく思っていないんで。それよりもプロレス界にいる限り常に僕たちはプロレスというものでつながっているんだということを、改めて思いました。それを比較する人がいるかもしれないし、一緒に進んでいる物語と思って見る人もいるかもしれないけど、僕たちがプロレスラーと友達である限りはずっと物語は進んでいるというように思いますね。リングで相対することだけが僕たちのつながりじゃないから。
    ――自分の同級生がIWGPチャンピオンというのも、なかなかのシチュエーションです。
    上野 不思議ですよね。考えてみたらおもろいですよ、こんなことになるなんて。たぶん、今の時点でもけっこう自分の想像を超えたいろんなものが生み出されていると思うから、両国で鈴木さんとやって自分が今の時点で想定していない何かが得られるかもしれないですけど、鈴木みのるを味わう権利を失った時にどんな哀しみや絶望が待っているんだろうというのが怖さであり、楽しみの部分でもあります。
    ――それも前回に言った、スリルというものなんですかね。
    上野 確かに、こうやって(インタビューを)続けてもらうと続くものも築かれてきますね。でも、負けると思っていなさすぎて、そこの想定もできていないっていうのがあります。その瞬間を生きていくしかないですからね。

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