今年も松井レフェリー主催興行の季節がやってくる。松井レフェリーが悩み抜いて選ぶ至高のラインナップが今回も並んだが、ダブルメインイベントのひとつとして
「KONOSUKE TAKESHITA&上野勇希 vs 秋山準&石川修司」というカードが発表された。
「デカいなって。石川さんと最後に当たったのは府立第2なんですけれど(2019年9月1日 石川修司&遠藤哲哉vs上野勇希&吉村直巳)、とにかく今も変わらず常にデカいし、秋山さんとメインイベントでがっちりやれるのも本当に久しぶり。もう組むこともないだろうと思ったタケとも早速、1年ぶりに組めるっていうのも松井さんらしいなと」
今回の対戦カードを聞いて、現KO-D無差別級王者の上野勇希はにこやかに語る。そう、去年の松井さん興行のメインで佐々木大輔&ディック東郷と戦ったTAKESHITAと上野は、それぞれ「もうしばらくふたりで組むことはない」と宣言していたのだ。そもそもなぜあの時、もう組まない、と言ったのか。
「たぶんお客さんも、これからは上野とTAKESHITAが入ったら組むよりも戦う方が見たいだろうと思ったんですね。でも、僕が『東京ドームに行きたいです』って言った時に、ドームでやるカードはもう僕とタケがやるしかないと思うんです。それで少し風向きが変わった。だからその目標があるんだったら、いまはたっぷり組んで、いつか戦う時に備えたいなと。松井さんがどういう意図なのかは聞いてないですけれどね」
昨年11月3日のこと。DDT両国大会のメインイベントで、KO-D無差別級をかけて上野勇希は鈴木みのると戦い、勝利した。その試合後に上野はマイクを持ち、「僕はDDTの仲間たちと東京ドームに行きたい!」と高らかに宣言したのだ。その瞬間から、上野の試合は、言葉は、歩く道のりは、全て東京ドームへと繋がっている。そして上野勇希は東京ドーム大会を宣言しただけではなく、そこでやるのは上野勇希vsKONOSUKE TAKESHITAしかない、というところまで見越していた。
では当の松井さんの意図はどのあたりにあるのか聞いてみたところ、「去年の試合後にTAKESHITAと上野の間で、今後組むことはないかもしれない、みたいな流れがあったようですが、ワタクシあの試合の後、東郷選手のペディグリーをいただきまして、そのあたりの記憶がすっぽり欠けておりまして」と恐縮していた。そう、試合後に松井さんはディック東郷のペディグリーでKOされていたのだった。
「2人が戦うとなった場合には相当に特別なシチュエーションになると思いますので、それは自分の大会でやるより他にやる場所があるだろうと思います。組むことに関しては自分も特に抵抗がなかったので、2年連続で咲くやこの花タッグを実現することができました」
よく知られている通り、上野勇希は大阪の咲くやこの花高校の同級生だった竹下幸之介の試合を見て、プロレスラーを志した。子供の頃からプロレスを見て育ち、大阪プロレスのプロレス教室に通い、小学生の時にプロレス団体に履歴書を送った経歴を持つ竹下とは対照的に、上野にとって初めて見たプロレスが竹下で、DDTのプロレスだった。竹下を研究し、竹下に勧められた大阪プロレスのVTRに夢中になり、それが必殺技のWRであり、2023年の松井さん興行での上野勇希vsHUBというカードにつながっていく。そして上野がプロレスラーになるきっかけの竹下幸之介は、KONOSUKE TAKESHITAとなって世界に羽ばたいていった。
TAKESHITAがDDTの日常の風景ではなくなってしばらく経つが、TAKESHITAの不在を感じることがあるか、という問いに「ないです」と上野は即答した。
「これは僕の考え方なんですけれど、人っていなくても世の中が廻るっていうのは悲しいことでも怖いことでもあり、それでいてある種の希望でもあると思うんですね。ああすれば良かった、こうしたかった、みたいなものにすがろうとするのを止めてるんだと思うんですよ。いま自分たちが持っているもので戦ったり、面白がったりする、自分の身の回りにしかないものでそれを楽しむっていう癖がついてるからだと思います。」
上野勇希も今年デビュー10年を迎える。KO-D無差別級王者としても、団体の顔としても、リング上でもリングを離れた時の発信力も全ての面において、DDTを頂点で引っ張り続けている存在だ。熱い言葉を持ちながらもどこかクールで、俯瞰で自分を見ているのが上野勇希というレスラーの特徴でもある。
「10年ですけど、常にこんな自分になるとは思ってなかったです。連続でチャンピオンになれるとも思ってなかったし、メインイベントに立つとか、もっと言うとプロレスラーになれるとも思ってなかった。常に自分に対して疑い続ける、それが自分の中でも安心感にも繋がっていたんですけれど、周りも含めて自分以外のものが僕のことを引き上げてくれた」
DDTが好き、プロレスおもろいな、という気持ちが上野にとっての最大のモチベーションだ。自分が好きなことをやっているのが何よりの喜びであり、自分の好きなことを楽しんで見てくれている人がいるのがなお幸せ。そんな上野自身が、自分の中で「東京ドームに行きたい」という思いが湧き出たことに驚いていた。
「将来どうなりたいとか、自分自身に関しては全然ないです。だから東京ドームに行きたいって思うこと自体が自分の中で不思議だったし、初めて未来にやりたいものを掲げる、リスクを背負おうと思うこと自体が、自分でもちょっと新鮮ですね」
そんな上野勇希にとって、年に一度の松井さん興行はどんな位置づけにあるのだろうか。
「松井さんが見たいものを見せる大会っていうのがまずいいなと思っていて。僕らも松井さんのことが好きだっていうだけじゃなくて、松井さんが楽しんでいるからみんなも楽しい。松井さんって今でも自分がレフェリングしてない時って、試合見てキャッキャキャッキャ喜んでるんですよ。今でもプロレスがこんなに好きっていう、プロレスが凄いんだか松井さんがずっと赤ちゃんなんだかわからないですけど、やっぱり常にプロレスを楽しんでるんですよね。だからそんな松井さんを喜ばせたい、松井さんの喜んでる姿を見たいっていうのが何よりの恩返しになりますよね」
今回の対戦相手の石川修司と秋山準は、共に上野にとっては先輩で、しかもスーパーヘビー級の相手となる。なかなかここまでの相手と向き合うことも少なくなっているからこそ、今回の対戦にしっかりと上野は意味を感じている。
「石川さんはDDTの大きい選手たちに大きな影響を今も与え続けている選手だと思うんですね。石川さんがこういう人だから、俺もこういうことが出来るかもしれないという後押し、DDTの大きい人の概念になってる存在だと思うんです。
秋山さんからは僕とタケがDDTの中でも最も影響を受けていると思うんですね。秋山準から吸収できるものを吸収して、咀嚼して得た。だから秋山さんに対してはその秋山さんの影響を受けている僕というのを感じて欲しいですね」
自身のカード以外もみんなおもろそうですよね、と言いながら、中でも最も上野の熱量が上がったのはDDT生え抜きの若手による6人タッグ、「須見和馬&正田壮史&高鹿佑也 vs To-y&石田有輝&瑠希也」に触れた時だった。
「僕がずっと言っているように、松井さんが見たいからこそこのカードが組まれているわけで。この6人が集まって、松井さんが何かエネルギーみたいな、概念で求めてるものがあるんだと思うんです。だからそれを見せつけられるの? 超えられるの?っていうのを見たいですよね」
団体は大きくなり、会場も大きくなる。選手はどんどん成長し、夢はその先を行く。楽しいと、大好きを着実に積み上げていったその先に、大きな夢は叶うはずだ。5月17日日曜日、大阪市錦秀会住吉区民センターで松井レフェリーを一番喜ばせることが出来るのは、果たして誰になるだろうか。




