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【インタビュー】プロレスラー・青木真也を理解するためのインタビュー「僕もDDTに対する帰属意識が あるんだと今、思いました」

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  • 総合格闘技で一時代を築き、現在もプロレスと並行し活動を続ける青木真也に対するイメージは、格闘家としてのそれが今なお持ち続けられていると思われる。その一方でこの数年、DDTのリングへ上がり続ける中、変化も感じられるようになった。DDTにおける立ち位置について、そして何よりもDDTによって、プロレスによって青木真也は変えられたのかという、常々持ち続けてきた問いかけを6・28後楽園ホールにおける上野勇希とのKO-D無差別級戦を前に提示したいと思った。このインタビューを読むことによって、あなたの中の青木真也はどう変わるか。(聞き手・鈴木健.txt)
  • フォール技はクリエイティブの幅がある
    ギブアップは尊厳を奪うから多用できない

    ――KING OF DDTですが、1回戦よりKANON、HARASHIMA、鈴木みのる、MAOを連破した上での初制覇でした
    青木 一個一個の価値は重いと思うんですけど、鈴木さんを超えたというのが一つインパクトとしては大きかったです。それが自信につながったと思いますね。
    ――初の一騎打ちとなった前回は、DDT UNIVERSAL王座に挑戦し敗れている相手ですが、青木選手とは近い立ち位置のプロレスラーと受け取られていると思われます。
    青木 言うなれば青木真也の上位互換。僕もそう思っていたけど、そこをちゃんと超えられた…勝っただけとも言えますけど、超えられたのは価値がある。ただ、心残りもあって、それはギブアップを獲らせてもらえなかったこと。いろんなプロレスっていうものの中で、実力不足だから獲れなかったと思うんです。
    ――鈴木みのるから、ギブアップを獲りたかったんですね。
    青木 はい、ギブアップを獲りたかった。でもやっぱり、獲れなかった。
    ――そうだったんですか。ここ最近はエイオキクラッチを定着させましたし、ヨーロピアンクラッチの入り方を工夫したりと、ピンフォールを獲ることに重きを置いているように思えました。
    青木 自信はありますよ。ひきだしが増えたし。でも鈴木みのるに対しては、僕はギブアップだと思ったんですよ。でもそこは、あの試合の中では硬かったですよね。獲らせてくれないという。プロレスって、格闘技側から見ると勝敗に重きがないように言われるじゃないですか。でも僕は存在や、プロレスという中のすべてをひっくるめてギブアップを獲りたかったんです。それが獲れなかったことで、ガックリは来ました。
    ――勝ってもガックリした。
    青木 だからこそやり甲斐があると思うんですけど、鈴木みのる戦に関しては、ヨーロピアンクラッチは逃げだったかな。
    ――ガックリ来たところから決勝戦は気持ちを立て直して臨めたんですか、それとも引きずったままだったのか。
    青木 プロレスをやっていると、お客さんの沸きがあの鈴木戦に関してはあったと思うので、沸いている、受け入れられている、評価されている、観客のあと押しで俺は今、支持されているんだというものが、決勝戦までの1時間ほどの間で持たされた気がします。
    ――観客のリアクションを根拠に立て直せたと。
    青木 あれで「まあ、そうだよな」的な流れだったら立て直せていなかったと思うんです。ガックリ来ているとか納得がいっていないというものは、あくまで主観の評価なので。価値というか大事にしなきゃいけないのは、客観の評価じゃないですか。だから、そこはよかったと思えた。あそこは客ありきでしたね。鈴木みのる戦をやって主観を強めていたら、けっこうドーンって来ていたと思うんです。
    ――客観に頼った方がいいケースもあるんですね。
    青木 濃淡じゃないですか。特にプロレスという必ずしも結果だけがすべてじゃない世界の中では、うまく自分をだますために主観と客観を使い分けるのは大事です。
    ――それは以前からできていたことですか、それとも今回のこのシチュエーションで気づいたことなのか。
    青木 以前からできていたと思います。言葉にしたり文字にしたりすることだって、主観と客観をズルく使い分けることだと思うんです。
    ――それは“ズルい”ことになるんですね。
    青木 うん、ズルいと思います。だって、俺はこういう評価で喋っていると言いつつ、都合が悪いとこっち(客観)の評価を持ってくる。プロレスでは、いろいろある軸を都合よく回して自分の正解にするみたいなものだと思っているので。
    ――MAO選手とも、2度目のシングルマッチでした(前回は2021年8月15日、後楽園。ハードコア柔道ルールの3本勝負で対戦し、青木がEXTREME王座を防衛)。
    青木 実はこれ、みんな気づいていないんですけど、これまでの絡みの中では僕の方が押されていたんですよ。けっこういいところを獲られているんですよね。こっちの思うようにいかせてもらえなくて、やりとりの中で押されている。その上で、この数年で彼はデカくなった分すごく消耗するんです、こっちが。
    ――試合後に「疲れた」と言っていましたが、一日2試合やったことだけが理由ではなかったんですね。
    青木 いや、ホントに疲れた。デカい相手だから苦労しましたね。
    ――これまで押されていたというのは、発想力に関してですか。
    青木 いや、単純にMAOは強い。全然気づかれていないけど、あいつは格闘技として強いんです。
    ――それを自分のカラーとして前面に出すことはしないですよね。だから気づかれない。
    青木 やっていたのは柔道だけでしたっけ。だけど強い。普通に極めっこのスパーリングや、それに近い格闘技的なことをやらせたら、競技として1、2年やればそれなりに上へいくのに、そういうところを見せないようにしている。なんていうかな…明るいケンドー・カシン的なところがあるじゃないですか。
    ――それはいい言い回しですね。
    青木 見せないんだけど強さがあるから、MAOはやる前からちょっとストレスがかかる相手。
    ――ここで言う強さとは、KONOSUKE TAKESHITAや樋口和貞の持つ強さとはまた別モノですか。
    青木 それより格闘技としてはまた一段上じゃないかな。彼のさじ加減とか機嫌次第で、すっごくギクシャクしたものを作られちゃう可能性があるから、どうしようかというストレスがすごくかかる相手なんです。
    ――MAOというプロレスラーは独自性に満ちた発想力やトリッキーな動きが持ち味という認識をされているので、今の話は新鮮でした。
    青木 そうですか? 僕はトリッキーなやつというイメージはまったくなくて。独自性とかはあとから着ている服ですよ。ファッションに近いかもしれない。(決勝戦も)ペースは獲られていましたからね。
    ――1回戦から準決勝まではすべてヨーロピアンクラッチで仕とめて、決勝戦のみエイオキクラッチでピンフォールを獲ったのは、そこまではエイオキクラッチを温存するつもりだったのでしょうか。
    青木 (エイオキクラッチは)印象がつきすぎているというか、一辺倒になりがち。形にハマっちゃえばいい技でもあるので便利な技なんですけど、あくまでも隠し球というか。トーナメントで勝つには必ず何かしら一つの武器がないといけないので、それがローリングするヨーロピアンクラッチだったんです。
    ――ピンフォール技を磨くことに高いモチベーションを持てているんですか。
    青木 面白いなあって思っちゃうんですよね。
    ――ああ、それは見ていて伝わってきます。以前よりも青木真也はプロレスを楽しんでいるなと。
    青木 (フォール技は)クリエイティブの幅がすごくあって、ただでさえ自由なプロレスの中でフォール・レスリングがすごく面白くて、昔の映像をよく見ちゃうんです。どういう歴史背景で起こったのかというところまでさかのぼりますね。
    ――青木選手がもとから備えている技術を思えば、サブミッションに持っていった方が勝つ上では有利なはずです。
    青木 有利だけど、面白くないんですよね。ギブアップって、プロレスにおいてはあまり多用できないと思うんです。なぜなら、相手の尊厳をなくすことでもあるから。
    ――相手の尊厳ですか。
    青木 極力ギブアップは、僕の感覚としては大事(切り札)にしたくて。相手を尊重し、相手とともに上がっていくカルチャーだと思うからフォールがないとプロレスというものは成り立たない。スクールボーイ的な切り返し技だと奇襲技感が出てしまうけど、それをちゃんとテクニックで押さえ込んだという表現をしたいって思ったんです。
    ――あの今まで誰も見せなかったヨーロピアンクラッチの入り方などは、日々の反復練習によってあそこまで持っていくものなんですか。
    青木 実戦の中でですけど、映像はメッチャ見ています。80年代のブリティッシュレスリング…ジョニー・セイントの試合とかをYouTubeで漁って。派手じゃないんですよね。ラウンド制だったりもして、こういうものがあるんだという発見が新鮮で。
    ――そこは青木選手も通ってきていなかった分野だったんですね。
    青木 (これまでは)キャッチレスリング的だったと思うんですよね。でも、そのキャッチレスリングもなんだろうと思うと、何がキャッチレスリングなのかってなりますよね。
    ――鈴木秀樹選手と話したりはしないんですか。
    青木 鈴木さんの言うビル・ロビンソン的なレスリングがキャッチレスリングだっていう人もいれば、アメリカ人がやっているのは藤原喜明さんの流れによるキャッチレスリングだという人もいるじゃないですか。どっちがキャッチレスリングなの? どういう派閥のレスリングなの?と考えるのが好きで調べるんです。
  • プロレスを趣味の域から脱しないように
    しているから自分はズルいんですよ

    ――さかのぼって調べるほどに今、プロレスにハマっているということですね。
    青木 比較に出すと、格闘技はよくも悪くもマークシートの点数を取らなきゃいけないので、同じ場所を通るからスタイルが絶対に似通うんですよ。クリエイティブは生まれづらい。より体が頑丈なやつ、より若く、より速く、より強くみたいな世界なんですよね。それよりも(プロレスの方が)僕は面白いです。
    ――格闘技の世界であれほどの実績をあげた上でも、この年齢でハマってしまう魔力のようなものがプロレスにはあるのかもしれません。
    青木 人がやっていないことって、オイシイじゃないですか。誰もそこを掘ろうとしないようなこと。ザック・セイバーJr.とやらせてもらった(5・17大阪。○クリス&ザックvsHARASHIMA●&青木)のは本当、松井さんに感謝なんですけど、あれでザックの凄さがわかったんですね。2年前の僕だったらわからなかった。
    ――ならば、この2年の間で青木選手の中に変化があったということになります。先ほども言わせていただきましたが、ここ最近の青木さんはプロレスをやっている姿が楽しげに見えていて、物事をポジティブに持っていけている中でリングに上がっていると受け取っていたんです。総合格闘技の闘いは、場合によってはネガティブなテーマだったり、ネガティブな感情が自分を動かしたりする世界ですが、それを経験した上で今、ポジティブになれているのは本当に何ものにも代え難いと思うんです。
    青木 のびしろがあるから面白いし(決勝戦後のバックステージで)信用、信頼を得られたって言いましたけど、自分の試合を理解してくれているってすごいことだと思うんですよ。こんなにひねくれて、こねくり回したものを観客に理解してもらえているのが嬉しいんです。ただ、プロレスはそれ以上にプロモーター…団体の信用、信頼がないと、起用はされないわけで。わりと好き勝手でコントロールしにくい人間が、ちゃんと信用、信頼を得られたのはよかったと思いました。
    ――これまでは信用されていると実感が持てなかったわけですか。
    青木 いや、KO-D無差別級タイトルマッチを組んでもらって、獲れたわけですから感じてはいたんですけど、トーナメントの性質はまた違うと思うので。信用していなかったら、勝負どころ(の興行)で上野とやらせてもらえていないでしょう。
    ――トーナメントにエントリーしたということは、その選手が勝ち進んだ場合、メインを任せることになる。優勝したら無差別級王座へ挑戦することになる。だからKING OF DDTに出たこと自体が信頼されているという形です。
    青木 そこは数字が見込めるかどうかまでを含めての信用ですからね。そうした信用にかかわることが今回はできた。我ながらすごいなって思います。
    ――決勝戦の後楽園大会、ちゃんと埋まっていました。達成感も得られますよね。
    青木 格闘技をやっていると「プロレスでしょ?」って言われるけど、それほどの信用、信頼を積み上げていくのは、そんなに簡単じゃないよって僕は思っちゃうんです。だから今、プロレスに胸を張れています(表情が崩れる)。でもなあ…俺ってズルいんだよな。僕にとってのプロレスって、わざと趣味の域を飛び越えていないんですよ。
    ――これほど胸を張ってのめり込んでいるにもかかわらず、趣味と位置づけているものなんですね。
    青木 格闘技は仕事にしたことで、好きじゃないんですよ。格闘技の練習って、試合があるからやるんです。僕に関しては、格闘技って金額で試合をするんです。だからモチベーションだとか、やりたいやりたくないとか、好きか嫌いかはあまりなくて、自分の求めた金額があるんだったらやる。練習も楽しいからやるというフェーズもあったんですけど、そういうものを越えて、仕事じゃなきゃやらないよって思っちゃうのが格闘技の練習であって。でもプロレスの場合は「青木さん、ここに出てもらえますか?」と言われて条件聞かないもん、もはや。趣味の域から脱しないようにしているから。そこが自分ではズルいってなる。
    ――ただ、ご本人がズルいと思っても最終的にそれがいい形としてお客さんに提供され評価されるのであれば、ズルかろうがなんだろうが正解だと思います。
    青木 そう、まさに正解。そこは、仕事にしたことで格闘技は嫌いになったからなんですよ。この20年やって、試合がしたい、試合が楽しいと思ったのは2006年に初めてPRIDEに出ているんですけど、そこから2007年ぐらいまでだったんです。それ以後は、ずっと仕事としてやっていた。
    ――仕事としてやると好きになれなくなるんですか。
    青木 毎日同じものを食い続けたら、どんなに好きなものでも嫌いになるじゃないですか。そういう感覚です。いつの頃からか、生業のために我慢してやるものになっちゃったんですね。だからプロレスはその位置に置きたくなくて、ライフワークの文脈に留めておきたいんです。
    ――青木さん、プロレスを続けたいんですね。
    青木 エンジョイするものとして続けていきたい。
    ――自分にとって本当にベストな位置づけに置くことが大切だと思います。好きで続けたいと思う中で信用を得られたというのは、意義があることです。
    青木 バランスよく続けていく。のめり込んでいるって言われましたけど、暇ですからね。暇が一番潰れるんです。プロレスの試合で最初のチェーンレスリングを映像で見るにあたり、本当のトップレスラーだったらそこを飛ばすと思うんですよ。最後の流れだけを見るんでしょうけど、僕は持っている暇をそこに注ぎ込んでしまうというか、20~30分の試合を最初から飛ばさずに見られちゃう。そこに関しては、僕の圧倒的なアドバンテージだと思っていて。DDT以外の団体の試合も見ますし、格闘技もまだやろうかとは思うんだけど試合を見るのは減って、プロレスの方を見ています。今、あるものはやっぱり今見ないと。時代と創るものなんだから。それでいて今の時代の情勢との違いもあるのが、面白いじゃないですか。それも、現在のプロレスをちゃんと見ることでわかるんですよ。
  • 上野勇希の強さは言葉に人が
    ついてくるようになったこと

    ――お話を聞かせていただくと、プロレスに対しとても充実しているタイミングでKO-D無差別級王座に挑戦することがわかりました。しかも前回は上野選手からの指名でしたが、今回は青木選手自身が実績をあげた上で得たもの…求めたんですよね。
    青木 求めました。その中で自分なりの工夫もあって、ありきたりの「やってやるぞ、この野郎!」「ぶっ潰してやるぞ!」的な流れってあるじゃないですか。それが格闘技でもプロレスでも横行しすぎちゃって、響かないなと思ったんです。
    ――プロレスの文脈では確かにありがちではありますが、格闘技もそうだと。
    青木 むしろ格闘技の方が強い。BREAKING DOWN的なものが出てきたことで、わかりやすくなった。あれをプロレスがやったところで、エネルギーの可燃度でいったら負ける。だから、そういうものじゃないなって思ったんですよね。
    ――トーナメント優勝後、上野選手と向き合った時のやりとりはまさに真逆な世界観でした。
    青木 真逆のことをしないとダメだと思った時、あの表現だったんです。この流れが、今のプロレスにおいて主流になるんじゃないかな。僕はGLEATにも出ていますけど、この前のトーナメントで優勝したT-Hawkが現在のチャンピオンであるエル・リンダマンとやるとなった時に「おまえをぶっ飛ばしてやるからな!」的なノリでやり合わなかったんです。僕らの方が(時系列的に)先だったから、それを見た時に「やっぱりそうだよね」って思えて。
    ――そういうやりとりの上で対戦する相手としては、上野勇希とは申し分のない関係性ですよね。
    青木 そう。その中で、どういう試合をするかなんですけど。
    ――見る側からすれば前回の「チャンピオンの上野をめくってやる」という発言の方がわかりやすいやりとりではあったと思うんです。ただ、今回はそこがテーマではないですよね。
    青木 前回よりも上野の存在としての器が大きくなっちゃいましたから、まったく違う。まあ、あの時は勝ってベルトを獲りましたけど、ベルトを手放したあとの上野は力強くなった。上野勇希という人格の輪郭がよりハッキリした感じです。だから今回の方が生身の上野勇希が見えている…そこが強さなんですよね。
    ――青木選手が感じる上野勇希の強さを、もっと具体的に表してください。
    青木 上野の言葉に、人がついてくるようになった。東京ドームでやりたいなんて、僕からすればふざけた話だって思うんだけど、でもその言葉にみんなが乗ろうとしている。正直言っちゃうと、彼がそういう器だと思わなかった。
    ――リング上における技術的な強さ、フィジカルな強さとはまた違う部分ですよね。
    青木 格闘技界なら武尊、魔裟斗、那須川天心といった人たちは、誰も信じないような、まやかしみたいな話を実現させるじゃないですか。彼らはもとからそれなりの輝きを持っていたけど、悪いけど上野はそういうタイプとは違う。彼はやっぱり努力だったり、苦労だったりをすることで自分の能力を必死に固めあげてきたタイプだと思うんです。
    ――いわゆる天賦の才に恵まれていたわけではないと。
    青木 そう。でも、その言葉にちゃんと人がついてきている。正しいか正しくないか、できるできないを横に置いて人がついてきているっていうことだから、これほどの脅威ってなくないですか?
    ――スリーカウントを獲る、ギブアップを奪うとも次元が違います。
    青木 さっき、東京ドームでやりたいなんて、ふざけた話だって言いましたけど、それは僕が「そこは東京ドームじゃねえだろ」と思うからなんですよ。今の時代、5万人を動員したかどうかじゃなく、それよりも毎月の後楽園ホールをパンパンの札止めにするほどの地熱のようなものに価値があると思っていて。でも、そこで東京ドームと口から出した時に「おおっ!」ってなって人が乗ってくるなら、それを掲げることで後楽園もほかの大会も熱くなってくるから、そこまで彼がわかった上で風呂敷を広げているのだとしたら、俺は今回勝てないです。そこまで賢く物事を見ていたら、勝てない。
    ――ただ、最終的にはピンフォールかギブアップを獲れるか否かです。
    青木 試合はそうですよね。でもなあ…うん、僕も上野もスリーカウントに逃げたくない。シビアにギブアップを僕は獲りたいし、彼も獲りたいはず。
    ――やり甲斐を感じているピンフォールではなく、この試合に関しては切り札のギブアップ狙い。
    青木 僕はこだわるし、上野もこだわると思います。ここは、ちゃんと、ギブアップで負けを認めさせたいから。
    ――青木真也に負けを認めさせる。
    青木 そこに価値を置いている気がします。
    ――では、青木選手にとっての上野勇希は、負けを認めさせたい存在なんですね。
    青木 はい。好きとか嫌いという動機じゃなく、今の彼をギブアップさせたい。
    ――それは、プロレスラー・青木真也にとっての勲章となり得ることですか。
    青木 勲章…いや、自己満足だろうな。でも、上野をギブアップさせることで満足感は得られる。上野の方がキツいと思います。彼は(プロレスを)仕事にしているから。団体を背負っているじゃないですか。僕は背負っていない身軽さがあるから、こうして楽しめている。冷静に見て、彼の方が大変である分、僕にはチャンスがあると思っています。
    ――上野選手は前回のタイトルマッチ前に発言していたように、青木選手に対して強い思い入れを持っています。その分、背負っているというのを度外視して自分をより個に寄せられると思うんです。
    青木 だとしたら…その上野と僕の試合をお客さんが見たいと思ってくれたら嬉しいです。ラクではないですけどね、今回に関しては。対上野もそうだし、後楽園のメインをやるのは身の引き締まる思いです。
    ――これほど数々の実績と数々の場を経験してきた青木選手でも、そういうものなんですね。
    青木 そこは責任がありますから。格闘技でも三十代半ば以後は団体を背負うといった闘いはあまりやっていないですし、自分が好きでやっている感が出ていたんですけど、そういう意味では僕も帰属意識というか、忠義心のようなものがあるんでしょうね。
    ――ああ、そこは今回、聞きたいと思っていたところです。今の青木さんに、DDTに対する帰属意識があるのかどうかを確認したくて。
    青木 あるんだと思いました、今。僕は名目上、フリーじゃないですか。でも、あまりそうは思われていなくて。
    ――DDTの人間として見ているファンも多いと思われます。
    青木 ですよね。
    ――愛が芽生えたのではないですか。
    青木 まあ、長いですからね。最近は、ケンドー・カシンに会うたびに言われます。「DDTに染まりやがって」って。
    ――それは悪いことではないですよね。上野選手を呼び込んだ時に、上野選手の方から「青木さんはファミリー」という言葉が出たわけで、その帰属意識は青木さんの一方的なものではないはずです。
    青木 嫌なやつがいないですから、ここは。僕は他団体にも上がっているからよけいにわかるけど、本当に安心できた上で試合がやれる。でも「DDTに染まりやがって」っていうのはいい忠告で。“外にいく”時はちょっと意識を変えないといけないから。
    ――帰属意識を持ちつつ、以前に言われていた「DDTにおける異物としての存在」でいたいですか。
    青木 それも不思議なもので、僕の中ではずっと異物感が残っているんです。僕が試合をする中で、やっぱり空気が変わるじゃないですか。こっちで狙ったわけじゃないのに、異物感を残せている。そこは僕の方がありがたい。
    ――帰属意識と異物感を平行できているのが面白いです。
    青木 お客さんがそのように受け取ってくれていることで、異物感が削れずに続けられているのは、僕からすればラッキーですよ。そこはプロレスが上手じゃないことによる副産物なのかもしれないですけど。
    ――今でも青木さんは自分のことを上手じゃないと認識しているんですね。ヨーロピアンクラッチひとつとっても、あれほどの入り方を生み出しているにもかかわらず。
    青木 上手じゃないことが大事なんですよ。上手って表現は難しいですけど、みんなと一緒じゃないことが大事だと思っているので。
    ――これも今回、確認したかったことなんですが、青木真也という人間はDDTによって変えられたのでしょうか。

    青木 今、43歳で格闘技の練習が年齢的に減ってきて、暇という闘いが生まれるんですよね。ここからのセカンドキャリアというか、どう生き甲斐を見つけるかミドルエイジ的悩みを確実に解消してくれましたからね。だから(DDTと)出逢ってよかったんですよね。
    ――このタイミングでの出逢いは、今後の人生にかかわってくるものだけに大きいです。
    青木 四十すぎてそんなことに出逢えるなんて奇跡だから本当、大事にした方がいいって言われたことがあって、その通りだってなりました。変えられたし、若い選手とかかわらせてもらうのもありがたいですよね。格闘技でもかかわりますけど、練習でかかわるのと何かをクリエイティブしていく中で一緒に作っていくものとはまた違うじゃないですか。
    ――一緒にクリエイトしているという感覚なんですね。以前よりもポジティブな匂いを発散させているように映っているので、そこは一人の人間として変わったのかなと思っていたんです。
    青木 ネガティブさは抜けてきたと思うし、特に今年に入ってからの宮脇さんとやった試合が僕の中でもすごくやり甲斐を得られたものになって…3、4年前だったら、ああはならなかったはずなんですよね。
    ――そう思います。相手の存在を消していたでしょう。以前、GLEATでUWFルールの試合をやった時の青木選手が、冷たく見えたんです(2023年7月1日、TDCホール。青木&佐藤光留vs飯塚優&吉田綾斗)。
    青木 そうでしたね。今の世界観なら、ああいう試合にはしないです。
    ――ご本人を前に、これを言うのは失礼かもしれませんが正直、嫌な感じになったんです。それこそ青木さんが言われた、対戦相手の尊厳を奪うような試合を見てしまったことで。
    青木 それ、メッチャわかります。嫌な感じになってくれたのだとしたら、けっこう狙い通りです。嫌でいいじゃん、そもそもUWFってそういうものでしょ?って思っているぐらいなので。
    ――その嫌な感じを抱いた時よりも、今の青木真也の方が私はカッコよく映るんです。
    青木 趣味趣向、好き嫌いの問題でもあるんでしょうけど…今の方が僕もラクですけどね。
    ――何よりも青木選手自身が楽しめているんですから…これで勝てば、8・11両国国技館のメインも見えてきます。
    青木 それはやりたいし、やらせてもらいたいと常々思っています。僕はプロレスって格というものがあると思っていて、今の時点においての僕の格っていうのは後楽園のメインを任せられるまでにはなった。だからこそ、その格は超えたいと思っていて。自分の格をもう一段あげられかどうかの一戦です。

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