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【上野勇希インタビュー】自ら求めたMAOとのKO-D無差別級戦――「自分にとっての“好き”を知っている人間が一番素敵」

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  • 8・11両国国技館でKO-D無差別級王座9度目の防衛戦に臨む上野勇希は、6・28後楽園で青木真也を倒したあと、両国でのチャレンジャーとして自らMAOを指名した。その先に東京ドーム進出という夢を見据えた上でのこの選択は、どのような思いから発露したものだったのか。チャンピオンとしてのスタンスも含め、決戦前に本人が語った。(聞き手・鈴木健.txt)
  • ギブアップした時にMAOから
    何があふれ出るかを見たかった

    ――先にMAO選手のインタビューが公開されました。上野選手も読んだと思われます。
    上野 久しぶりにMAOちゃんがこんなにも自分自身のことを語っているものを見たという嬉しさですね。最近だとこういうインタビューを受けるタイミングがMAOちゃん自身あまりなかったからだと思うんですけど、試合後のコメントとかでMAOちゃんのことを知ることはありますけど、僕自身のことに関してはタイトルマッチをやるのは2年ぶりということもあって見られることができた。喋っている内容以上に、今のMAOちゃんが思っていることを聞けたのはよかったです。
    ――それで読んでみて、どんなことを感じましたか。
    上野 言っていることに関して感じたのは、一つひとつをピックアップすればすべてに関し感想は言えるんですけど、その中でも僕が思っている以上に僕のことを見て、感じてくれているというのが一番かな。The37KAMIINAで長くやっていたから、僕自身はMAOちゃんの思っていること…夢とか好みであるものは深く知っていると思うし、やっぱりそうだよなっていう答え合わせ? 俺はDDTを背負わないという考え方に関しても、解像度が高まった気がします。
    ――その中でMAO選手自身が上野選手に確認したいと語ったのが、両国国技館の相手になぜ自分を指名したかということでした。
    上野 僕が今、掲げているDDTで東京ドームにいくという目標は大きく果てしない、もう道も見えないぐらい、どの道を歩いていったらそこにたどり着くのかわからないぐらいだけれども、とにかく進むしかないものですよね。たとえそこが東京ドームでなくとも、大きな会場にみんなでいくっていうのは後楽園ホールも、大阪だって北海道だって名古屋だって福岡だって全部の大会を見たいと思わせないといけない。その中で、年間で一番のビッグマッチである両国国技館っていうのは、そういう場としての大きなチャンスであるし、みんなが僕たちDDTのプロレスを面白がってくれるかどうかを考えていく中で、両国での上野勇希のKO-D無差別級タイトルマッチというのは未来に向けて示すものを届けられる場所。そんな僕の思いを全部ぶつけても跳ね返してくれるのはやっぱりMAOちゃんだから。これはWRESTLE PETER PANで闘いたかった一戦でもあるし、未来のための一戦でもあるというのが、MAOちゃんである理由です。
    ――6月の後楽園の時点で、今年のKING OF DDT優勝者の青木真也と防衛戦が組まれたじゃないですか。王者vs覇者のタイトルマッチは両国国技館でやりたいという気持ちはなかったんですか。
    上野 いや、そんなのはないです。僕はやれるだけタイトルマッチやりたいんで。あの青木さんとの試合は確かにトーナメント覇者とのタイトルマッチでしたけど、それ以上に上野勇希vs青木真也の闘いだし、今回のMAOちゃんとの闘いもKO-D無差別級戦である以上に上野という人間がMAOと闘いたいんで、MAOちゃんも僕と闘いたいと思ってくれたことの方が重要です。
    ――トーナメント決勝でMAO選手が青木選手に勝って優勝していたら、6月の後楽園の時点でMAO戦が実現していたことになります。
    上野 あそこでMAOちゃんとタイトルマッチをやるとなったとしても、あの時点では両国で誰とやるかは全然想像していなかったんで、流れによってこうなりました。この順番だったらああしようというものよりも、プロレスに関してはその試合の中で何を感じるかの方が大事ですから。青木さんとの試合でも何かが違っていたら変わることもあったかもしれないし、MAOちゃんが優勝したとすれば、6月にやってもう一度両国で!となったかもしれない。そこはたら・ればになっちゃうけど、すべては必然ですから。
    ――MAO選手にも聞いたのですが、あそこでトーナメントの決勝戦で負けた人間を指名することに対し、拒絶反応があるかもしれないというためらいはなかったんですか。
    上野 ないですないです。だって、優勝した人間と優勝していない人間じゃないから。青木さんは優勝したことで権利を手にしたけれど、ほかのみんなも懸命に向き合った上で負けたからといって何かが下がるなんて僕は考えていなかった。何があったところでMAOはすごいMAOのままなわけだから、別にそんなことは考えなかったです。
    ――7・26後楽園のタッグにおける前哨戦では、スリーパーホールドでMAO選手をギブアップさせました。
    上野 試合の中でどう転んでいくかはわからないけど、一つ自分の中で、まずは必ずこの試合は勝ちたい、でもできるならギブアップを獲りたいという思いが強くあって。両国国技館のタイトルマッチ直前の大会で参ったしてしまった時のMAOちゃんは何を感じるんだろう、何があふれ出るんだろうというのを見たかった。このタイトルマッチが決まってから上野勇希vs MAOを、みんなが楽しみにしてくれていると思うんです。僕自身もMAOちゃんとタイトルマッチでプロレスができること自体が本当に楽しみで、むしろMAOとのタイトルマッチを楽しみにしないプロレスラーはいないと思うぐらい。でも、僕がベルトを懸けてやるならやっぱり気になるのは、この人がどういうことを感じる人なんだろうという部分。何をもって、何がしたくて僕とタイトルマッチをしてくれるのか、DDTの一番を競い合ってくれるのかを知りたい。そう思った時に、ギブアップを獲ったら心が動いて、どういう反応をするかという点で、MAOちゃんは僕の予想の外をいく人だから、それを知りたかったんです。
    ――青木戦もギブアップ勝ちだったわけですが、ピンフォールではなくギブアップで勝つことに対する意味合いのようなものが芽生えたのかとも思ったんです。
    上野 相手が参ったするとか、もう動けなくなるまで絞り続けるとかは、僕の中でもただただ絞っているだけではなくて、首を絞めつけている間にもいろんなことを感じられるっていうのが大きいです。相手の体の動かし方もそうだし、横に顔があるわけだからそれは見えてくる。まあ、偶然続いたところもあるんですけど、文脈は生まれる。もちろん僕はWRも何より大事だし思いがこもっているけれど、それは僕の思いだから。こうやって言われてみると、特に青木さん、MAOちゃんはどちらも勝たなければいけなかった試合の中での最善の選択ではあるんですけど。
    ――自分自身の思いを強く持っている相手に対してこそ、参ったさせることで出てくるものが見たかったんですかね。
    上野 まあ、すべては結果なんですけど。青木、MAOと続いたからより印象的にはなっていると思います。特に青木さんとの闘いに関してはそうせざるを得なかった部分もやっぱり大きいし。
  • KO-D無差別級王座防衛戦は
    相手の深層心理を知るための道

    ――戦前、青木選手がインタビューで「お互いがギブアップを奪いに来るのでは」と予想を立てていたのに対し、上野選手はXで「僕には青木真也からスリーカウントを獲る“意味”も大きくありますよ」と反応していました。にもかかわらずギブアップ勝ちを選んだのはなぜだろうと思っていたんです。
    上野 それも何個か理由があって、単純にあの時は(体を)ひっくり返せなかったんです。フォールへいくのに返せない。すごい力でキャンバスにくっついていたし、僕も限界を超えていたから。青木さんとの闘いって研ぎ澄まされていくから、そこで見えたのがスリーパーの形だった。勝ちにいく中で必死にたどり着いたのがあの状態だったというところが青木さんとの闘いなんですよね。MAOちゃんとの試合でもスリーカウントを獲れたとしても、たぶん同じようにMAOの何かを引き出せたり…まあ、そもそも直前で直接負けてしまうって自分だったらメッチャ嫌だし、月並みなことで言うと勢いみたいなものもやっぱりあって、それが削がれてしまうのもすごいストレスだと思うんですけど。だから究極はどっちで勝ってもよかったんですけど、参ったしたあとのMAOが見たかったっていう。そこは(青木戦と)つながってはいるんですけど、やっぱり別なんですよね。
    ――ギブアップを奪ったあと「もっとギラギラしてくれ」と、MAO選手に言いました。上野勇希というプロレスラーが闘った相手に対しネガティブなリアクションを示すのは珍しいですよね。
    上野 僕は2年前よりもキャリアを重ね、年齢も重ね、防衛戦もたくさんしている中で、欲望みたいなものがたくさんあるんですけど、むしろMAO以上にそのギラギラを持っている人間っていない。ここがMAOちゃんの声、考える心を聞ける機会が少なかったというところにもつながってくるんですけど、サウナにいた時、サウナから上野勇希の目の前に立ちたいって出ていった時、S.L.C.をKANONとやろうと言った時、BEST OF SUPER Jr.に出た時、どれもものすごいエネルギーを放出していたんですよ。でも、このタイトルマッチが決まってからは…わかっているんです、MAOちゃんがDDT好きで、僕のことももちろん見てくれて、直接言ってくれることもある。でも、僕の知っているMAOならもっと言葉にも出すし、伝えてくれていただろうし。もっともっとくれよっていうことを伝えたかったんですよね。何をしてくれたら僕が満足できるかはわからないけど、でもほしかった。だから、あのマイクをしながらどういう心の反応が返ってくるんだろうって、一言ひとこと感じながら喋っていました。マイクを取り返してくるかもしれないし、なかなかないことだけど手が出てくることもあるかもしれない。
    ――でも、あの場での反論はなかった。
    上野 うん、だからどんどん言葉が出てきて、自分が青木さんに言われた「敗者は去れ」と…心から思ったんですよね。伝えないのであれば、もう帰ってくれっていう。でも、帰り際には前と後ろから押されているような顔していたんで、面白いな、やっぱこれがMAOだよなって。
    ――やり返したいけれど仲間に下げられるような顔をしながら引き下がっていきました。
    上野 あそこでスタスタ帰ったって、泣いたって、まさに戻ってきたってなんでもいいと思うんですけど、やっぱりあの選択っていうのがMAOちゃんらしいなって、ちょっと嬉しかったところでもありました。
    ――そうやって、もっとギラギラしろよと言っている時点で2年前と2人の立ち位置が違うんですよね。あの時は、言うなれば同じ位置で向かい合った。チャンピオンだからというのもあるでしょうけど、立ち位置的には上からになっています。
    上野 ですよね。まあ、勝ったんで。むしろそれを言うために、必死になって勝った側面もあったし、そこはわかりやすく。別にチャンピオンだから偉い!という感覚ではないですけど、少なくともあの日は参ったを言わせて勝ったので言う権利もあるだろうというところです。
    ――あとは両国でMAO選手が何を提示してくるかですね。
    上野 マジで、なんでもいいんですよ。僕はこんな感じだからいろんなことを考えるし、いろんな選択肢もあるけど、MAOちゃんの素敵なところは一番MAOであるっていう。僕がカッコいいって思うのは、いろんな葛藤はあると思うけどずっと自分の好きな、やりたいことに向かってやる自分のこだわりを持ち続けること。これはほかの誰でもない、MAOちゃんにしかできないことだし。それをあの大きい背中で見せてくれている。そのこだわりとか愛とかを大きい体に詰め込むんじゃなくて、せっかく僕と無差別級のベルトを懸けてやれるんだから、もっと僕を通してみんなに伝えてほしい。もっとぶつけてほしいと思っています。
    ――その大きくなった体なんですけど、対戦する側としてはハンディになりますか。
    上野 大きい人ともいっぱいやっているから、それをハンディとは言わないけれどメチャメチャ強烈ですよ。(MAOは)足りないって言いますけど、体はもう足りすぎているし、ダメージとしても足りすぎているんで、試合に関しては楽しいこと間違いないんですよ。あれだけ強くてデカくて、ものすごい。あんなに強烈で、それでいて宇宙人なんですよね。世界中でほかにいないです。そういう人間だから、試合に関しては楽しいのがわかっているし、僕たちがこれだけ楽しみにしていて激しさも絶対に伝わるんで、何がためにというのをもっと求めたい。すごく印象的だったのが、KING OF DDTの会見でMAOちゃんが「去年はSUPER Jr.出たけど今年はここにいるということは、あのSUPER Jr.に落選したということです。デカくなりすぎたらしいです」という言葉から始まった。それはMAOちゃんの中でもお茶目な要素として話したと思うんですけど、僕はそれがちょっとショックだったんですよ。
    ――ほう。
    上野 MAOちゃんも言っていた通り、DDTといえば上野とMAOだよねって言ってくれる人も多くなっていると思うんです。でも、その立場になっている人間がDDTの一番を決めようっていうトーナメントの開口一番でSUPER Jr.の話を出した時に、なんか残念だったんですよね。じゃあ、このトーナメントで(MAOが)優勝したら、みんなは落選した人の下になるという見られ方になってしまう。おそらくそんな深い意味で言ったわけじゃなく、お茶目にデカくなりすぎたということを言うためのものだっただろうから、それを自分が荒立てることではないと思ったんですけど、ショックではあった。MAOちゃんの中でそういう上が下がというニュアンスがないのはわかるから、何がこんなにショックなんだろうって思った時に、MAOちゃんがDDTを好きなこともリスペクト、誇りがあることも全部僕は知っているんだから、それを放出する状態にすればいいやんって。プロレスに対しての心をさらけ出す状態に持っていけばいい。僕の方もMAOはどう思っているのか気になるし。知りたいが僕の行動理由というか、このエネルギーは知りたいからっていうのはすごく大きいです。
    ――これまでの無差別級王座防衛戦は、まさに相手の深層心理を知るための道になっています。
    上野 自分の好きな通りにやって、やっと気づけたんですけどDDTのみんなは優しいし、自分の持ち場で頑張るのが得意な人が多い。でも、僕は全員がもっと我がまま言っているところ見たいんですよね。それが正しいか正しくないかは別として、たとえば誰かに勝ちたい理由としては、モテたいでも強くありたいでも、お金がほしいでもなんでもいいんです。東京ドームにいきたい、自分の地元を盛りあげたいと、みんな何かは絶対にあるけれど、それを得るタイミングというか、機会ってまあ難しい。でも僕が気になっているんで、みんなのことをもっと知りたいし、僕という拡声器、映写機を通してスクリーンに映るようにしていきたい。それが僕の思うDDTがたくさんの人に面白がってもらえる、その先に東京ドームにもいける状態。だから僕はチャンピオンでい続けたいし、いろんな人と闘いたい。そこに今はMAOちゃんがいるっていう。
    ――ここがまさにプロレスのジャンル性の難しいところで、フォア・ザ・チームと個人を両立させてやっていく。DDTの選手たちがみんなフォア・ザ・チームを理解しているからこそ見えにくい個の部分もあって、そこを知りたいと思うのは自然だと思います。
    上野 どっちも両立できる中で、自分がみんなのためにやっているのは何がダメなのか、そこを突き詰めてそれを見てもらう。それこそがみんなに見てもらう価値のあるものだと思うので、僕が見たい、僕が見てほしいっていうのは常に思うようにしています。
  • 東京ドームに立つからすごいのでは
    なく、みんなでいくことがDDT

    ――それによって、今回のMAO戦のように自分からチャレンジャーを指名するケースも出てくると。
    上野 僕はDDTの誰とでもタイトルマッチをやりたいし、みんなのことを知りたい。別に知りたくないと思う人が出てくるかもしれないけど、それも含めて楽しみなんですよね。
    ――それができる権限を持っています。
    上野 そうなんですよ。KO-D無差別級チャンピオンであるって、超おいしくて。このベルトは、DDTが強いということをバーン!と押し出された時があって、それはそれで間違いではなく、その瞬間に生きている人たちの結果だったと思うんですけど、僕はこうやってチャンピオンをやっていると、一番歴史あるものから伝えられるものをコントロールできるのが大きすぎて。それは僕だからできているんじゃなく、我がままでいられる人間が持てば、いろんなものに関し遊べるよっていうのに気づいたんです。それによって生まれるものが楽しみで、自分の知らない未来にいくためにやっていることです。ある意味、矛盾しているんですけど。
    ――でも、それはそれで上野勇希個人の欲としてやれているということですよ。
    上野 そう。自分の好きなようにやることで、その中にDDTや対戦相手が存在しているから、ずっとそういう考えが巡り続けている感覚です。
    ――それはまさにMAO選手が無差別級を持った時の理想で、最高峰のベルトを持っていても自分の欲に忠実にできている上野勇気の姿がうらやましく映っているんだと思います。
    上野 MAOちゃんこそが一番自由じゃないですか。それがうらやましく映っていましたし、そこがあこがれだったし尊敬していた。それが今はなくなったわけじゃなくて、僕もMAOちゃんのように自分のやりたいことをやれるようになったと思えるようになりました。今もそうですけどやっぱりカッコいいんで、MAOって。ずっと我が道を征く、自分にとっての“好き”を知っているじゃないですか。そんな人間が一番素敵だし。でも、僕はもっともっとほしいんですよね。MAOちゃんのことが好きで、いっぱい知っている自負があるからこそもっともっと知りたい!
    ――知っている人間こそ、知らない部分が見えた時は快感があります。
    上野 それが自分の期待通りであろうがなかろうが、反応し合いたいんで。だから、MAOちゃんの真四角(の体)がググっと下がっている姿を見て、始まったなって思いました。どういう気持ちやねん!って、突っ込みたくなって。だけど僕もその直前にはよ帰れと言っていたから何も言わんし、感情も出さないようにしました。
    ――いや、よく突っ込むのを我慢できたと思います。
    上野 突っ込みたいと思ったのは、お互いに引き出しちゃったんですよね。MAOちゃんも悔しかったのかもどかしくなったのかはわかんないですけど、結果であったり僕の言葉でああいう反応をしたんだと思うし、僕は僕でこれってMAOだなって心が動いた。やっとこれでお互いの反応が動き出したなっていうのは思いました。
    ――今回は両国のメインということで、今のDDTにおける切り札を切ってきたわけじゃないですか。当然、観客動員の方もそれ相応に埋めなければいけないシチュエーションです。
    上野 東京ドームへいくためとか、上野vsMAOの闘いをたくさんの人に楽しみにしてもらいたいもあるし、常にどの会場であってもお客さんがいっぱいいた方が僕らも楽しいんですけど、それはお金がどうとかじゃなくて隣の人との隙間がないぐらいいると、リングから放たれた熱が端の端まで人を通じてつながっていくんです。その端までいった熱量がみんなの熱をちょっとずつ受け取って僕たちのところまで届くから、僕たちももっと頑張れちゃう。全部がつながる瞬間っていうのはやっぱりあるんです。でも、それにはたくさんの人に来てもらって、面白がってもらって、楽しんでもらうことが大事。上野vsMAOを見てもらいたい以上に、WRESTLE PETER PANがこの夏の思い出やったなってみんなに思わせて、明日頑張ろうとか、未来に進む理由にならないといけない。みんなが時間とお金を使って見てくれる僕らの闘いっていうのは、毎日を生きる力…ご飯のようにエネルギーとして使ってもらえるものになりたいから、両国もたくさんの人に見せたいです。
    ――チャンピオンとして、観客動員の数字に対するプレッシャーは感じていますか。
    上野 プレッシャーはまったくないけど、いっぱいいてくれたら誇らしい。それほど楽しみにしてくれたんやと思えるし、空席が目立ったりすると、悔しさもあるけどむしろ届けられなかった申し訳の方があって。振り絞る気満々でリングに上がっているのに、いい思い出になるチャンスを届けられなかった申し訳なさです。
    ――自分という人間が年間最大のビッグマッチのメインイベントへ当たり前のように立てるまでになりました。ここまで来られたことを客観的にどう受け取っていますか。
    上野 常に思っているのは、僕だけでできることなんか何もない。やっていることだけで言えばすごいことなんですけど、じゃあ僕がすごいかっていったら自分の中でしっくりこなくて。それって何かと思ったら相手がいるから自分がいるっていうことになるんですよ。チャンピオンとして今、こうやっていますけど挑戦者がいなければチャンピオンって存在しないじゃないですか。だから僕は、単体ですごいことは一個もないと思っている。対戦相手の人がすごいから高いところにいられる。その中で今、自分がやれているだけで、僕の価値のようなものが何かはわからないです。それを繰り返しているという。
    ――ただ、その中でもここまで来られたという達成感はあるのでは?
    上野 なるほど。でもそれはまったくないのかもしれないです。というのも、マジでどこでもあまり変わりないというか、両国だろうが後楽園だろうが大阪だろうが、どこだって同じなんですよ。リングのサイズは変わらないですから。武藤敬司さんの引退興行で東京ドームを経験させていただいた時も目の前の人と対戦して、サウナの仲間たちがいてって、変化が何もなかったんですよね。だから両国国技館のメインベントだからというのはなくて、同じテンションで楽しみやなって思える。この前、福島の楢葉町で路上プロレスをやったんですけど、そこへ移動している時に楽しみやなーってつぶやいたら、木曽さんに「君はチャンピオンになるべくしてなったんだね。すごいわ」って言われたんですけど、今からやれることが楽しみだと思うことがふと口に出てくる。それを(俯瞰で)見ると、ビッグマッチでチャンピオンだからではないなって思うんですよね。
    ――プロレスラーになったらチャンピオンになりたい、大きな会場でメインに立ちたいというのが頑張る理由づけになるじゃないですか。そこにステータスを感じないタイプなんですかね。
    上野 それで言うと、僕はDDTに入門した時点でけっこうゴールというか。僕は両国国技館大会を高校生の時に2、3回ぐらい見に来ていたんですけど、僕のエンタメの歴史はDDTだけなんです。ほかのエンタメやライブにもほぼほぼいくこともないので、DDTで闘えるだけで、ある種誇らしさのMAXというか。その中でもう一個の目標が東京ドームっていうところでも、自分が東京ドームに立つからすごいんじゃなくて、みんなでいくことがDDTであるということが、みんなで進む未来に今は進んでそこにたどり着くことがほしい。
    ――単純に自分が東京ドームのメインに立ちたいという欲はないんですか。
    上野 ああ、立ちたいとは思わないかもしれない。
    ――チャンピオンであれば必然的にその場へいるだけであって、求めているわけではない?
    上野 求めているわけではないですね。そこは僕もDDTの一員として自分の持ち場で最大限のものを届けるところだから。メインイベントは大会を締めることができるっていうこともその人の持ち場というだけで、第1試合であっても第3試合であってもあまり(こだわりは)ないかもしれないです。ベルトを持っていたり勝つことができたら、ああやってMAOちゃんに自分の思っていることを吹っかけることができるとか、そういう権利を手に入れたりするだけで、東京ドームだから伝えたいことや響かせたいものがあればメインイベントに立って話すべきことがあるかもしれないけど、自分が生きる中での武器というか、どの場所でも僕のいろんなものを使って楽しめるようになってしまっているので。
    ――聞けば聞くほど上野勇希にとってのプロレスというツールの使い方が独特だと思います。これはもともとプロレスファンじゃなかったからこその感覚なのか。
    上野 だと思います。プロレスファンというよりも、DDTファンだったので。高校生の時にタケ(KONOSUKE TAKESHITA)頑張れって思っていたし、メインで闘っている人にも頑張れと思っていた。そこに優劣はないというか、その位置での闘い方っていうのがあるなあっていう感覚がそこでできあがったのかもしれないです。
    ――そういう価値観を持つ人間がチャンピオンでいれば、黙っていてもこれまでとは違う風景が生み出されるでしょう。
    上野 自分が好きなことをやって、ほかの人も好きなことをやってくれたら同じにはならない。それが正しいとか正しくないとかはわからないけれど、自分はこれからもそうだと思います。

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