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【両国国技館でのタッグ結成を前に葛西純&陽向父子が初対談】「息子にオイシイとこ持っていかれてみろよ、親父としてメンツが立たねえ」

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  • 8・11両国国技館注目カードとして、葛西純(プロレスリングFREEDOMS)とDDTの若手・葛西陽向が初の親子タッグを結成する(対戦相手は秋山準&瑠希也)。たとえ息子の1周年記念試合であっても一番オイシイところを持っていくという父だけに、陽向にとっては組みながらもその存在と闘わなければならないシチュエーション。それぞれ、どのような思いで同じコーナーへ立つのか。初の父子対談をお届けする。(進行・鈴木健.txt)
  • (陽向は)プロレスに対して
    真面目に取り組みすぎ

    ――これまで何度となく葛西純選手のインタビューをしてきましたが、その空間に息子のハッピーボーイさん(葛西陽向が子どもの頃、父につけられた愛称)がいるというのが、なんとも不思議な感覚がします。お二人で取材を受けるのは今回が初めてですよね。
    葛西純(以下、葛西) そうそう。でも、昔から一緒にいるからどうこうっていうのはないな。
    ――実の息子と一緒に取材を受けるなど、喜ばしいことじゃないんですか。
    葛西 別にそれを待ってたわけじゃねえしな。まあ、特別な気はしないってことだよ。
    ――8・11両国国技館で葛西純とタッグを組むというのは、陽向選手の方から希望を出したわけではなかったんですよね。
    葛西陽向(以下、陽向) そうです。まったくの寝耳に水で、会社があげた自宅で撮っている動画を見て知りました。だから皆さんと同じタイミングです。
    ――収録に応じたということは、お父さんの方が先にこのカードを知ったことになります。
    葛西 思っていた以上に早く来たなっていう感じだったな。これは毎日のようにこいつに言っていることなんだけど、プロレスラーとしての地位は天と地ほどの差がある。
    ――それを毎日言われる!
    陽向 ハラスメントですよ。
    葛西 それを考えたら、ちょっとはえーんじゃないかっていう気もしないでもないけど、まあいいんじゃないの。
    ――想定ではもっとキャリアを積んでから初タッグを組むと。
    葛西 だってまだ一勝もしてないんだろ? そんなやつが世界の葛西純と並び立って、タッグを組んで両国でやるって、生意気だろ。
    ――実績をあげていないという点では確かにそうですよね。たとえばこれが、葛西選手の所属するプロレスリングFREEDOMSで一勝もあげていない新人が葛西純と組むという形は考えにくいです。
    陽向 実績がないと言われたらそれまでなんですけど、これが終わりじゃなくて、ここから(父子の)ストーリーが始まるわけですから。先のことを考えると今組むことが早いというわけではないと思っています。
    ――スタートラインに早いも遅いもないと。
    陽向 周りの人からも言われることが多かったんですけど、僕自身はそう受け取っています。
    ――動画で発表されたあと、家に戻って顔を合わせるわけですよね。
    葛西 会話らしい会話はなかったな。
    ――ついに二人で組む日が来たな!というようにはならないものなんですね。
    葛西 ああ、そういうエモいものにはならない。いつも通りの日常。
    ――そのいつも通りの日常では、お二人の間でプロレスの話題は出るものなんですか。
    葛西 こういうカードが組まれたんだけど、どうしたらいいかとか、そういう相談はされる。聞かれたらアドバイスはするけど基本、俺っちは他人に興味がない人間だから。よくいるだろ、若いやつと当たって、試合が終わって控室に戻ってきたら長い説教をする先輩レスラーとか。ああいうタイプじゃないから。自分でノシ上がって、売れればいいという人間なんで、こっちから言うことはないな。
    ――その中でこっぴどく言われたことはありますか。
    陽向 ないです。だからこそ相談しやすいんです。変に言われてへこむこともないし。
    ――「巨人の星」の星一徹のような親父ではないんですね。
    陽向 ???
    葛西 それ、世代的にわかんないだろ。
    ――そっか。ガミガミ言うような厳しいタイプではない?
    陽向 はい。いいアドバイスをもらえますし、なんでも相談できます。
    ――両国は陽向選手のデビュー1周年記念試合になるわけですが、至近距離から見て来た身としてはこの1年はどのように映っていますか。
    葛西 自分のプロレスに対する考え方っていうのは持って生まれたセンスだと思っているんだけど、傍から見ているといろいろ悩んだりして、プロレスに対して真面目に取り組みすぎじゃねえかって見えるな。もっと楽しんでやればいいんだよ。
    ――それは言われています?
    陽向 いえ、初めて聞きました。
    ――あれ!?
    陽向 でも思い当たるところ、あります。些細なことですごく落ち込んじゃったりします。メンタル弱いですね。技が決まらなかったりすると。
    ――でも、新人はそれが許される立場じゃないですか。トライ&エラーを繰り返して成長すればいいわけですから。
    陽向 頭ではわかっていても、感情はまた別のものでヘコんじゃうことが多いですね。たぶん、成功体験がないから難しいんだと思います。実際、うまくいかないからまだ勝てていないわけで。デビューしたての頃と比べたら自分を表現できるようにはなってきたと思うんですけど、まだ本当に小さな一歩しか踏み出せていない気がしています。
    ――そういう時は、スタイルはまったく違うとしても精神的なものや姿勢を学ぶ上で父の試合映像を見たりするものですか。
    陽向 これが意外となくて。なぜかというと、見たところで盗めるものはないので。
    葛西 凡人だからな。自分も元は凡人だったけど、現在は天才なんで、そういうのはないだろうな。やっているのがプロレスというカテゴリーであるのは一緒だけど、スタイルが全然違うし、俺っちの試合を見て参考になるっていうのはないだろ。
    ――むしろプロレスラーになる前の方が見ていたぐらい?
    陽向 そうかもしれないですね。
    ――ということは、お互い普段の試合を見ないままタッグを組むことになります。大丈夫なんですか。
    陽向 大丈夫です。ずっと見ていたんで。プロレスラーになってからのここ1年は見ていないというだけで、それまでは20年近く見ていますから。
    ――先ほど言った通り、パートナーは他人のことに興味がないので、自分がやりたいことだけをやって目立とうとするつもりなんですよね?
    葛西 もちろんもちろん。合わせる気なんてねえから。
    陽向 でも、その方がいいんじゃないですかね。まだ勝ったことがない人間に歩調を合わせるというのは、ちょっと…。
    葛西 親子とはいえなあ。
    陽向 なので、自分がついていくしかない。でもその方がいい意味でケツに火がつくでしょうから。(父に)負けない負けないという気持ちで臨めば、何かを得られる気がします。
    ――ついていけなかったら置いていく?
    葛西 ついて来いとも思わないな。自分がオイシイとこ獲って、相手からワン・ツー・スリー獲りゃいいと思っているんで、ハナからあてにしていない。ただ、お客さん的にはあの葛西親子が初タッグを組むっていうのが、一番注目されているわけだろ? ある意味、俺っちと瑠希也くん、俺っちと秋山準さんが闘うことに注目している人は、ほぼほぼ皆無だと思う。それはイコール、自分にとってその試合で誰が最大の敵かっていったらこいつなんだよ。こいつが一番オイシイとこ持っていって、こいつがワン・ツー・スリー獲ったら、父親ではあるけどプロレスラーとしてジェラシーしかないからな。だから俺っちについてきて、初勝利をアシストしてやるなんていう気持ちはサラサラねえから。
    ――自分がオイシイところを持っていくという目的とは別に、父子によるタッグチームとして何か形を残したり、満足感を得ようとは思わないのですか。
    葛西 特に求めていないな。入場曲が鳴ってリングに上がっちゃったら、そういうのは控室に置いてきちゃうタイプだから。父・葛西純よりも、プロレスラー・葛西純としてのエゴの方が勝っちゃうんで、たとえ息子でも一番オイシイとこ持ってったら腹立つだろうな。だから当日は、親子タッグらしくチームワークもアレして、助け合ってなんていうのはない。
    ――合体プレーや連係は…。
    葛西 それもない!
    陽向 これも初めて聞きました。
    ――陽向選手は形にしたいでしょう。
    陽向 お客さんはそういうものこそ見たいと思いますし、自分が観客で見るとしたら求めるとは思いますけど、やりたいかどうかと聞かれたら、どうしてもそこにこだわるというわけではないんで。
    ――父親と連係プレーをすることに照れがあるのでは?
    陽向 ああ、潜在的にはそうなのかもしれませんね。
    ――ただ、試合となれば展開次第でどうなるかはわからないものです。勝機の場面では自然とそういう攻めが生まれるかもしれません。
    陽向 ですけど、こう思っている人と連係してもたぶん嚙み合わないと思います。
    葛西 ちょっと待て、そこはプロレスラー同士だし、キャリア1年と29年目の違いこそあれど22年もほぼ毎日一緒にいるわけだし、俺っちがやらないって言ってもプロレスラーとして体が動いて自然に出ることは考えられる。
    ――それが生まれるのがリング上ですからね。
    葛西 想像つくものよりも、想像つかないものの方が楽しいから。ここで「こういう連係やああいう連係を考えています」って言ってもつまんないだろ。
  • ジムの帰り、車の中で切り出した
    プロレスラーになるという意志

    ――対戦相手に関してですが、葛西純選手は昨年10月7日の新日本プロレス「超人・石森太二はもっと無茶をする」のアイアンマンランブルで秋山選手と同じリングに上がっています。
    葛西 その時はおそらく触ってもいないと思う。
    ――では、初対戦のようなものですね。
    葛西 うーん、こういうシチュエーションじゃなかったら刺激的だと思うんだろうけど、横にこいつがいるから、あまり秋山さんがどうとか瑠希也くんがどうとかは今のところはないな。とにかくこいつにオイシイとこを持っていかれないようにしないとっていうことしか頭にないんで。
    ――相手よりもパートナーを意識する。
    葛西 当たりめえだろ。息子にオイシイとこ持っていかれてみろよ、親父としてメンツが立たねえし、28年も先にプロレスをやっている人間がキャリア1年で勝利をあげてねえやつに持っていかれたら恥だよ。この試合で一番意識しているし、ある意味、一番化学反応が起きて一番刺激を与えてくれるのがこいつかもわからないし。
    ――陽向選手は、秋山選手とデビュー11戦目で1度シングルマッチで対戦しています。
    陽向 圧もあるし怖さもありますけど…個人的にはどうしても瑠希也さんの方を意識しちゃいます。対戦する前にこういうことを言うのもアレですけど、一番一緒にいる時間が長くて、いろいろ話をしているので、お互いの心情をたぶん一番わかり合っているのが瑠希也さんなんです。でも今年の若手リーグ戦(D GENERATIONS CUP)最後の公式戦が瑠希也さんで、そこで負けて全敗に終わった。その時の悔しい思いをぶつける機会なんです。
    ――それほど意識する相手に勝ってプロ入り初勝利をあげられ、かつその瞬間を一番近いところから父に見てもらえるというのは、二度とないであろうシチュエーションです。
    陽向 そういうシチュエーションを用意していただけて、ありがたいです…いえ、まだ勝ってないですから。
    葛西 そうなったら、こっちが食われるだろ。家に帰ったら口も利かないな。
    ――そこは祝福しましょうよ。
    葛西 まあ、こうは言っているけどよ、いざ試合となったら父親としての心情が1mmでも2mmでも出ちゃったら、彼の初勝利をアシストしちまう可能性もなくはないな。そこはどうなるか、わかんない。
    ――ところで、陽向選手のことは過去にお父上のインタビューをしたさいに聞いていたんですが、2018年当時に「小学5年ぐらいからプロレスラーになりたいと言い出して、最近は新日本にいきたいとかナメたことを言っている」と話していました。2018年というと、14歳の頃ですね。
    陽向 その頃は、新日本プロレスを一番見ていたので。でも、大枠で言ったら人生設計はうまくいっていると思っていて。プロレスラーになるのが小さい頃の夢でしたから、それはかなっていますから。なりたいって言い出したのは小学5年でしたけど、保育園の頃から思っていたんです。それでいろいろとスポーツはやったんですけど、身体能力が低かったので自分には無理だなと思って、たぶんそのインタビューの翌年ぐらいにはなることを諦めているんです。部活でも周りの人と比べて遅れをとっていたので、自分でもそこはわかってしまった。
    ――なりたくてもなれないと。
    陽向 でも大学に入って将来のことを考えた時に、せっかく一回きりの人生なのにやりたいことをやらなかったら後悔すると思ってトレーニングを始めて。なれるかどうかはわからないけれど、体は鍛えた上でチャレンジしようと思ったんです。
    ――2023年のインタビューでも、息子さんはプロレスラーを目指しているんですか?と聞いたら「それはもう、過去の話だと思ってくれ」と言っていたんですよね。
    葛西 だから2018年のインタビューの翌年から勉強し出して、自分から塾に通うとか言い出してそれなりにいい高校にいって、いい大学(立教大)にもいっていたんで、その時点でこいつ、プロレスを諦めたんだなとしか見えなかったんだよ。よかったよかった、これで安泰だ。大学を卒業したらいい企業に入って、いいお給料をもらうんだなってなことを思っていたら、一緒にジムへいった帰りに突然、車の中で「プロレスラーになるならどの団体がいいと思う?」って聞いてきた。
    ――そんな重要なことを改めて場を持つことなく雑談のように。
    陽向 重要なことを言う雰囲気で言うのは緊張しちゃうんで。だから何気ない日常の会話の中にしれっと紛れ込ませて緊張を和らげました。
    葛西 「え? おめえ、プロレスやんの?」「うん、そうだよ」…うーん、自分が好き勝手に生きてきたのに、おまえはやるなとも言えないだろ。だったら、ケガした時とかのために潰しの効くDDTさんだったら、エビスコ酒場とかドロップキックとかやっているからいいんじゃないのって言ったら「僕も竹下選手(KONOSUKE TAKESHITA)が好きだから、DDTかなとは思っていたんだよね」って。
    ――プロレスラーになると聞いた瞬間は嬉しいものだったんですか。
    葛西 いや、複雑だったな。ただ、スタイルが違うとはいえ自分の背中を見て、僕もプロレスラーになるんだって思ってくれたことに関しては、嬉しかった。
    ――プロレスラーになりたいと思ったきっかけは、もちろん父の姿だったんですよね。
    陽向 そうです。会場にもよく連れていってくれたんで。
    ――ただ、目の前で繰り広げられているのはデスマッチです。それをやりたいと思っていたんですか。
    陽向 なりたいと言った小学生の時は、通常のプロレスをやりたいと思っていました。見ていたのがWWEだったので。
    ――海外の団体が好きなんですよね。NXTもPWGも見ていたという。
    陽向 だから、入り口はデスマッチだったんですけど、見ている時間でいったらそうではないプロレスの方が長くなって。
    ――それでも、デスマッチしか知らない段階でプロレスラーになりたいと思ったわけですよね。
    葛西 保育園のちっちゃい子だと、そういうもんだろ。戦隊シリーズとか仮面ライダーとかと同じ感覚で見ているから、デスマッチも将来はウルトラマンになりたいっていうのと同じようなもんだったってことだ。
    ――デスマッチではないプロレスを知って最初に好きになったのは誰だったんですか。
    陽向 これも今言うとアレなんですけど…レイ・ミステリオでした。今はもう、運動神経とかまったく違いますし、自分のプロレスには一切生きていないんですけど。
    ――葛西純からレイ・ミステリオって、だいぶ間をすっ飛ばしたような変わりようですね。でも、自分でなりたいと言ってちゃんとかなえたことに関しては我が子として評価していますよね。
    葛西 まあ、そこは。デビューまでこぎつけて、1年経ってもこうしてやめずに続けているわけだから。
    ――今でも事あるごとにデスマッチはやらないのかって言われますよね。
    陽向 やらないかって聞かれるということは、それを求められているからなんでしょうけど、そこも含めて悔しいです。やっぱり僕を見たら葛西純がチラつくんだなっていう意味で。まだキャリア1年だし、それを覆すのは難しいというのはわかっているんですけど、葛西純ありきなのかって。
  • 初勝利をあげて僕を見る理由が
    なくなった時にどうするのか

    ――デスマッチとは違う道を自ら選んだ中で、一プロレスラー・葛西陽向としては何を達成したいですか。
    陽向 今はもちろん初勝利になります。それをやらないと何も始まらないし、何も主張できない。ただ、今の時点ではお客さんもその点に関して自分のことを応援してくれているんだと思うんです。初勝利をあげて僕を見る理由がなくなった時にどうするのかと考えると、さっきも出ましたけどたぶん真面目すぎるんですよね。なので悪い意味ではなくいい意味で真面目じゃなくなりたい。それによってもっと自分の色を出せたらおのずとチャンスを巡ってくると思うんで。初勝利して、ある程度自信を積み重ねた上で自分を表現する…僕の見てきたプロレスもそうだったので。WWEって個性がすごいじゃないですか。そういうプロレスにあこがれて、そういうプロレスラーになりたいと思ってやっているんで。
    ――不真面目になるにはどうすればいいと思いますか。
    陽向 自信をつけるしかないと思っています。どうしても萎縮しちゃうんです。こう見られたら嫌だとか、怒られたら嫌だとか、そういうのばかりを気にしちゃっているんですけど、それって自信がないからで、絶対的な軸があればもっと自分を出せると思うので、自信をつけていく上での成功体験を積み重ねるのが大事だとは思っています。
    ――葛西純のキャリア1年と比べると…。
    葛西 俺っちも1年目ぐらいは何もつかめていなかったし、そもそもこういうインタビューが来ることさえもなかったよ。それと比べると今、横で聞いていて改めて真面目だなあって思うよ。俺っちの場合はデビューして2年半ぐらいのタイミングで、CZWのニック・ゲージがタッグリーグ戦に出る予定が来られなくなって、ザンディグのパートナーを誰にするかってなった時、自分に回ってきてそれきっかけでヒールになって、そこからインタビューやら話す機会が増えたんだけど、まあ好き勝手言っていたからな。「アメリカのヒラデルヒアの引っかけ橋で女を引っかけてチョメチョメして」とか、そんなことをインタビューで言っていた。
    ――絵に描いたような不真面目っぷりです。
    葛西 俺が鈴木健.txtさんにインタビューを受けている本があるから、おまえも一回読め。それで不真面目になるにはどうすればいいかを勉強しろ。
    ――不真面目を奨励する父親…。
    葛西 まずは言語感覚からだな。だから、こういうのはタイミングなんだよ。自分でそういうふうになろうと思うのは大事だけど、それよりも必ずきっかけが訪れる時があるから、それをモノにするかどうかだよ。
    ――意外と外的なものが重要だと。
    葛西 あの時だって、それまでの俺っちは自分に自信なんてまったくなかった。でも、そういうタイミングが急にポーンと来て、どうやったら注目を浴びるか、どうやったら人気が出るかを考えた時に、クレイジーモンキーっていうキャラクターが生まれて、自分の好き勝手にフザケまくっても何も言われないどころか、どんどん上がっていけた。そういう時が来るからよ。
    陽向 そうですよね。でも、ただ待つだけじゃ何も変わらないし、ある程度は自分で手繰り寄せることができると思うんです。それは間違いじゃない。そのためにコツコツと積み上げていくのが、今の時点でやるべきことだと思っています。
    ――その積み重ねる段階の1年間で、プロレスラーとしての自分の方向性やスタイルはある程度つかめてきましたか。

    陽向 実はそこもけっこう迷っています。同じ若手で大日本の関茂(隆真)さんやFREEDOMSの五十嵐(玲也)さん、あと名古屋(スポルティーバ・エンターテイメント)の名島アリさんとけっこう仲良くさせていただいているんですけど、彼らはもう自分の中でこういうレスラーになりたいとか、このレスラーを参考にして自分をプロデュースしていますという軸が定まっていると思うんです。そこがまだ、彼らに比べたら弱い。最近はそういう部分で悩んでいますよね。どこを目指せばいいのか、自分が出すべきものというか求められているもの。何が合っているのかはわかっているんですけど、じゃあ誰を参考にすればいいのかとか、自分を表現するためのもっともいい闘い方はどういうものなのかがまだつかみ切れていないんです。
    ――石田有輝選手だったら樋口和貞さんというように、自分のスタイルを確立する上でお手本にしている先輩はいないんですか。
    陽向 この人だって、キッパリ言い切ることができる方は作れていないです。それもまた弱みというか、プロレスがメッチャ大好きで、学生の時とかたくさん見ていていろいろなレスラーを知りすぎているがゆえに、誰をお手本にしていいか選択肢が多すぎて、この人もこの人もこの人もこの人もとなって、結局は誰を採り入れればいいか迷ってしまうという。
    ――若き日の葛西純は、そういう自分の方向性を定める上でお手本にした存在はいたんですか。
    葛西 いなかった。いなくてもこうなれたし、自分にとってはそういう存在が必要だとも思っていなかった。全部自分で考えてやったけど、でもそれが一番難しいんだと思うよ。誰かのマネをすることは簡単なんだから。
    陽向 それを聞いたら確かに、オリジナルにはなれないですよね。
    ――なるなら唯一無二のオリジナルになりたい?
    陽向 はい、難しいですけど。
    ――葛西純の息子という、ある意味とてつもなく大きな十字架を背負いながらオリジナリティーを形にするというのは相当な高さのハードルです。
    葛西 まあ、本人はそんなに意識していないんだろ? 周りがそう見るだけで。周りのことは別にいいよ、シカトして。周りは言うだけ言って責任取ってくんねえから。最終的に責任を取るのはてめえなんだから、てめえがやりたいようにやった方がいいんだよ。
    ――そのやりたいことというのは定まっていますか。
    陽向 それはプロレスでやりたい目標ということですか? あります。ただ、それを今言っちゃうのも…。
    ――言えない目標なんですか。
    陽向 いえ、言えないわけじゃないですけど、いつか言うべきタイミングが来るのかなと思ってまだ言わないようにしているんです。なんでもかんでもすぐ答えを言っちゃうのは、自分の中では面白くないんで。ファンの人たちの想像力をかき立てる…全部が明るいんじゃなく、ちょっと暗い部分も残して、想像の余地を残した方が見ている人も楽しめると思うので、葛西陽向は何をしたいのかな、何を目指しているのかなというところを含めて考えていただければと思います。
    ――そのタイミングが、もしかすると両国になるかもしれません。
    陽向 そうですよね。デビュー戦の時もフワフワした言い方をしたんですよ。自分が持っている大きな夢をかなえるのと、葛西純を超えたいっていう。
    ――超えるというのも、どんな形をもってのものかというところが難しいです。
    陽向 父親が達成できなかったことを達成するっていうのは、わかりやすい一つの指標ですよね。プロレスって難しいもので、記録でわかるものでもないし、キャラクターなり実績なりといろんな尺度があるので、それならいろんな面で一つずつ超えられるようになりたいです。
    ――デスマッチファイター以外から「葛西純を超える」という言葉が出るのも新鮮です。
    葛西 まあ、こっちは超えようが超えられようが意識もしねえから。自分は自分のやりたいことをやっているだけなんで、勝手に超えようとしてくれ。だいたい、そういうのは見ているファンが決めることであって、てめえが決めることじゃないからな。
    ――今回のタッグ結成をスタートに、これからもお二人の物語はなんらかの形で描かれていくと思われます。その中で、いつかは葛西純の対角線上に立ちたいとは思っていますか。
    陽向 自分がファンの立場だったら見たいと思います。
    葛西 こっちは想像もしていないけどな。ただ、ないとは言い切れない。俺っちが葛西陽向というプロレスラーに対し1㎜でも嫉妬心やジェラシーを抱くことがあったら、あり得るかもしれない。ただ、現時点ではその可能性はほぼゼロだな。
    ――両国でその1mmが生じたら…。
    葛西 うん、ないとは言い切れない。言い切れないのがプロレスだから。でも、今はないと言っておく。
    陽向 1㎜と言わず3kmぐらい出します。
    葛西 おまえ、その数字はどっから出てきたんだよ。
    陽向 それぐらい大きく前進したいということです。
    ――デビュー1年で両国国技館を2度経験し、いずれも注目されるカードが組まれるという(前回は髙木三四郎との一騎打ち)引きの強さを生かしてください。
    葛西 デビュー戦がひがしんアリーナなんてあり得ないぞ。俺のデビュー戦はジュース売り場から既製品のゴールドジムのスパッツを履いて、アマレスシューズで入場したからな。
    ――大阪の鶴見緑地公園というところの広場でした。すごく暑かったですよね。ジュースを売らないとグレート小鹿さんに怒られるので、そのまま向かったという。
    陽向 でも、僕の場合は“借り物”ですから。お父さんの名前を借りて、大きな会場でデビューできただけです。
    葛西 こっちはデビューして1年間はドロップキック、ジャーマン、ボディースラムぐらいしかできなかったから。キミみたいなああいうムーブなんて全然よ。スタートから1年というスパンで言ったら、キミの方が上だよ。
    ――今となっては陽向選手的に信じられないかもしれないですけど、葛西純最初の1年間は目立たなかったんですよ。先輩たちのアクが強すぎて。
    葛西 1年先輩に本間朋晃っていうバケモンがいたからなあ。
    ――でも、先ほど話していただいたプロレスラー人生を変えるような飛び級のきっかけが来るはずです。
    陽向 はい、それが来た時に生かせるための準備をしておかなければと思います。
    ――ですので、両国ではいいモノを見せてください。
    葛西 いいとこ持っていくからな。
    ――いいとこ持っていこうとする父親っていうのも嫌ですね。一般家庭ではあり得ない。
    陽向 でも、悔しい思いをさせます。

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