2012年のDDTは日本武道館という目標に向かって突っ走り、その後も来年の両国2DAYS、さらには5年後の東京ドームを目指してゴールのないマラソンを続けてきました。そんな一年をまとめる大役を仰せつかった、ブロマガ「DDTの文化系プロレス通信」編集ジチョーのヨシヒコです。
エビスコ酒場やドロップキック、さらにはベストストレッチと選手の中にはプロレス活動と並行し、DDT直営店で働いている方々がいます。私も昨今の試合数減少により、生活していくためにそういったポジションを任せてもらえるよう会社に直談判したのですが「歌舞伎町という場所柄、おまえが店に出るといろいろ問題が生じるから」という不透明な理由で却下され続けてきました。それが一転し、この11月よりスタートしたブロマガの編集ジチョーに指名されたのです。要するに、私の文才が認められたのでしょう。
もうひとつの理由としては、前述したように私の出場する回数が激減しており、暇を持て余しているかのごとく見えたのだと思います。数えてみると、主な出番としては7月の後楽園(メイン!)と武道館の2試合しかなく、9月にあった青森のロックフェスティバルはあくまでもゲスト参戦であって対戦カードに名を連ねたわけではありませんでした。数年前は次期KO-D無差別級王者候補として名をあげられた私も、気がつけばひと山いくらのパートタイムレスラーになり下がっていたのです。
それほどDDTのリングは流れが速く、また群雄割拠ということ。武道館前に、エル・ジェネリコが無差別級王者となって年度末の後楽園を迎えるなどと、いったい誰が予想したでしょうか。2012年のはじめの時点で彼は、ユニオンを主戦場としていたのですから。
今年一年で、無差別級王者はKUDO → 男色ディーノ → 高木三四郎 → マサ高梨 → 火野裕士 → 飯伏幸太、そしてジェネリコと7人が名を連ねました。それほど長期政権が難しいわけですが、だからこそ昨年7月の両国から1月まで半年間王座を守り続けたKUDOんがいかに安定していたか表れています。防衛を重ねるごとに強くなっていったのも、誰の目に明らかでしたしね。
私は自分が出場しない分、プレイヤー目線で全部の試合をつぶさに見てきました。「ビッグマッチの時ばかり何食わぬ顔で出てきて、おいしいところを持っていきやがって」と誤解を受けていると思われますが、じつは常にこのDDTの流れをある特別なブースでモニターを通じチェックしており、現在の私はこちらの方が本職のようなものなのです。
WWEでは、ビンス・マクマホンやプロデューサー(エージェント)がこもる「ゴリラブース」という小部屋があります。そこからショーの進行をはじめとする指揮を出しながら、試合をチェックするわけです。DDTにも同じスペースがあるのですが、この会社では“ゴリラ”が禁句のため便宜上、私が勝手に「ダッチルーム」と呼んでいます。
そこから眺めてきた2012年のDDT。いろいろありすぎ、それらのすべてを紹介していったらキリがないので、ここは年末になるとありがちなアワード形式でいきたいと思います。ヨシヒコが独断と偏見…ではなく、あくまでもドリー・ファンクJrばりの冷静沈着な観点で選んだ各賞です。
★新人賞=竹下幸之介
これに関して異論はないと思われます。まさに彗星のごとく現れた17歳の現役高校生は、将来性十分のタッパと少年時代から育んできたプロレス愛に加え、自身で物事を考えてTwitter等でアピールできる発信力を備えています。できることなら、この私がデビュー戦の相手を務めたかったほど。なぜなら彼は、今時の若者ではアングラの部類に入り敬遠されがちな雑誌『ムー』の愛読者らしいのです。
ということは、私のような存在とスイングする可能性が高い。ジェネリコ、ケニー・オメガ、男色さんなど上位陣とのシングルが続いた竹下ですが、来年はどこかでこのヨシヒコとの一騎打ちもどうでしょう? これは密かに、ファンタジーの象徴・ポイズン澤田JULIEから最後に勝った男に対する私からの仇討ちでもあります。
☆最優秀外国人賞=エル・ジェネリコ
これも誰が選んだところで変わらないと思われます。なんといってもガイジンとして初の無差別級王者であり(宇宙人はいましたが)、飯伏さんにシングルで3連勝している実績が光ります。その上、試合のクオリティーも常に高く、外しません。
ジェネリコに関してはDDTに限らず、業界全体で見ても今年のベストガイジンに選ばれてもいいぐらいだと思っています。ケニーとはシングルとタッグで対戦している私ですが、ジェネリコとはまだ一度もないので、これも竹下同様来年は実現させたいですね。ここでハッキリ宣言しておきますが、私はあのBrainbustaaaaahhhhh!!!!!を食らっても表情ひとつ変えずにクリアできる自信がありますが、何か?
★最優秀ユニット賞=nWJ
武道館後に鶴見亜門GMの提案でユニット再編成が進められた結果、今年はその前後を合わせると多くのチームが生まれました。ほもいろクローバーZ、クライングウルフ、チームドリフ、モンスターアーミーなどの活躍が目立つ中、個人形的にグッと来たのが反体制軍から思いつきのようにマイナーチェンジしたnWJに対する、坂口征夫さんの何もそこまでというほどの思い入れっぷりでした。言い出しっぺの高木大社長は比較的あっさりと解散を受け入れたのに対し、征夫さんは「ボス、nWJがなくなったら俺はどうやって生きていけばいいんですか」と苦しい心中を吐露。
確かにnWJがあのまま続けば永島勝司さんにとどまらずマグマ系の人たちが次々と加入する可能性もあったわけで、それを思うともう少し見たかった気がします。そうしたポテンシャルの大きさを考慮し、何かあったら復活してほしいとの願いもこめてこのユニットを選びました。そうでもしなければ、征夫さんが浮かばれないでしょう。
☆最優秀興行=4・1後楽園ホール
規模の大きさや話題性、そして興行の内容といった評価にあたる要素が揃ったのは、言うまでもなく8・18日本武道館でした。でも、今年のDDTはあの日だけではなかったはず。ビッグショー以外で心に刻まれた大会の積み重ねによって、Road to Budokanは成し得たわけです。
その中で、もっともドラマティックでドリームな大会としてファンの心へ強く刻まれていると思われるのが4・1後楽園。その日の「いつでもどこでも挑戦権及び次期挑戦者決定時間差入場バトルロイヤル」で無差別級王座挑戦の権利を獲得したばかりの高梨さんが、ディーノさんに勝ってベルトを奪ったばかりの高木大社長に襲いかかり、権利を行使。見事124秒で倒し、新チャンピオンになりました。
それまで、バイプレイヤー的ポジションを全うしてきた高梨さんが主役になるという、DDTを見続けてきたファンにとってはたまらない光景。しかも劇的な流れの末に獲ったのですから、会場でその瞬間を体感した方々は極上のドラマ性を味わえたはずです。そして高梨さんのように“便利屋”として評価される選手でも、頂点に立てることを証明した事実は我々のようなイロモノにも希望をもたらしてくれました。
★MVP=マサ高梨
というわけで、私にとってのMVPは高梨さんです。これは私見になってしまうのですが、DDTらしいチャンピオンというのは飯伏さんやKUDOさんよりも、高梨さんやディーノさんのような人がよりイコールで結ばれるのではないかと思います。実績では上をいく選手はほかに何人もいますが、最高の殊勲という意味で選ぶのであればけっして私見ではないはずです。
☆年間最高試合賞=飯伏幸太vsケニー・オメガ(8・18日本武道館)
今年のプロレス大賞でも「あの試合をベストバウトにしていいものか」と論議を呼びました。“ベスト”とするにふさわしいかどうかで考えたら、確かにそうかもしれません。しかし“最高”という言い方に着目したら、あの一戦よりも高かった=MAXだった試合はなかったと断言できます。MAXをひとつの形として具現化したのが飯伏vsケニー戦であり、さらに言うならあの2人だからこそ成し得ることができたのだと思います。
“ベスト”でいうなら、11月のジェネリコvs飯伏戦や6月の火野vs飯伏戦が浮かびますが、ここは賛否両論を巻き起こすほどに業界全体へ影響を及ぼした事も含め、武道館のメインにしたいと思います。あ、DJニラさんの試合はすべて別格扱いということで、ひとつ。
以上が、ヨシヒコ的2012年のDDTの総括です。といっても、年内はまだ12・23後楽園ホールが残っており、そこでこのセレクトを覆すようなことが起こるかもしれません。なんといってもメインの無差別級戦はジェネリコvsケニーという、とっておきのシングルマッチ。これもまた読めない一戦です。
飯伏さんにノンタイトル戦も含め3度勝ち、MIKAMIさんも退けたジェネリコは最強と称されていますが、同じプレイヤーとしてはやはり最高であり、最巧というイメージの方が強いんですよ。それはKUDOさん同様安定度によるものなのですが、この連続防衛が難しいほどに実力が拮抗する中でベルトを保持し続けるには、強さだけだと継続しない。メンタル面ではモチベーションを持続させ、どんなタイプの相手にも対応できる幅広い技量が力や技以上に求められるわけです。
世界中で闘ってきたジェネリコが相手によって開けるひきだしをチョイスできるのに対し、ケニーは誰と闘ったとしても自分を押し通すタイプ。全日本プロレスで世界ジュニアヘビー級のベルトを巻いている時もそうでした。アプローチの仕方こそ対照的ながら、2人とも自らの土俵へ乗せるのが長けていると言えます。
自分の闘い方を進め、ペースを握っているとばかり思っていたら落とし穴が用意されている。ケニーは、そんな展開にならぬよう気をつける必要があります。飯伏さんも、それで連敗を喫しているのですから。その上で結果を予想するとしたら…私はケニーがジェネリコをストップすると見ています。
武道館のメインに立ちながら、ケニーは敗れたことにより報われませんでした。そんな男が年の最後の最後に訪れたチャンスを生かし、無差別級王者となり一年を締めくくったら、これまたドラマティックだと思いませんか? そうした要素を考慮した上で勝敗予想をするのが、DDTでしょ。
最後まで目が離せないDDTの闘い。もちろんブロマガでも12・23後楽園をリポートしますし、オフィシャルならではの情報に加え、コラムも私が執筆していきます。ヨシヒコジチョーのコラムが読めるのはDDT文化系プロレス通信だけ!(今回は特別出張版) ニコニコ動画公式チャンネル「DDTプロレスアワー」にアップされた試合や会見の動画、生放送ナビゲート番組とともにウェブ上で閲覧できるだけでなく、メルマガとしてご指定のアドレスへ配信されるので、ぜひ有料登録してください(月額税込525円)。詳細は → http://ch.nicovideo.jp/blog/ddtpro