DDT28周年記念大会としておこなわれる3・20後楽園ホール大会。KO-D無差別級王者のクリス・ブルックスは、防衛戦の相手としてCDKの盟友である高梨将弘を指名した。タイトルマッチが決まっても二人の関係性は変わることなく、対談を申し込んだところ指定されたのはエビスコ酒場。酒が入った分、語られた本音の思いをお届けする。(進行・鈴木健.txt)
本当は、最初から選択肢は
タカナシサンしかなかった
――いくらフリーダムなDDTでも、団体最高峰のベルトを懸けて対戦する二人が酒の席で対談するというのは自分もやったことがありません。
高梨 これはDDTが自由というよりも、自分とクリスだからですね。僕らが別の団体の別のベルトを懸けてやったとしてもこうなるだろうし。それほどこの闘いにはイデオロギーだったり、もちろん闘うんだけど殺伐としたものだったりは…試合がどうなるかは別として、闘う前の時点でそういうものはないよなって思います。
――チーム名(CDK=Calamari Drunken Kings)にもあるように、月に何度も一緒に飲んでいる印象があります。
高梨 この前も楢葉町での大会があった時に帰りのバスの中でも一緒に飲んでいましたけど、それは珍しいんですよ。
クリス バスの中はないよね。でも最近、前と比べると少なくなった。タカナシサンが忙しいから。ワタシも忙しいですけどスケジュールが別々になるとね。前は「今日は何もない? じゃあ飲みましょう」ってなったけど、最近はイソガシイ。YMZ(現・ごきげんプロレス)があるとか多くなったけど、イチガヤとか一緒の大会に出た帰りはいこう!ってなる。
――何人か飲む相手がいる中でお互い一番目に浮かんでくるものなんですか。
高梨 そういう順位みたいなものはないですけど、お互いにフリーな時間が多いというか、このキャリアや年齢になってくると皆様、ご家庭を持たれる方が多くなってくるし、プロレス以外の仕事を始める方も増えてくる。年々、昔みたいに今日は暇だな、じゃあ飲みにいくかって誘える人間が少なくなってきている中で、クリスはチャンピオンとしての仕事も増えてきてはいるけど、比較的声をかけやすいんですよね。ダメだったとしても「今日はゴメン!」「じゃあ、次はいこうね」という感じで断られてもまた誘いやすいのは確かだし。それが自然な空気感でこうしているんですけど、横浜で前哨戦があるので(3・8ラジアントホール=クリス&正田vs高梨&本多)、その時に感情の変化があるのかどうかとは思います。昨日、BAKA GAIJINでCDKとしてROMANCE DAWN(高尾蒼馬&翔太)と対戦したんですけど、通常のタッグチームだったらベルトを意識してしまうところだし、言ったら我々はよく誤爆するチームなんですけど、それが尾を引いて「おまえ、実は俺に対し腹に抱えているものがあるんじゃないのか?」みたいなものがなんにもなくて。ただ、勝って二人で手を挙げた時にたまたま目の前にクリスが持っている無差別級のベルトが来たんです。あの時は「そうか、ROMANCE DAWNを倒したこの頼もしいパートナーとシングルで闘うんだ」という気持ちになったんで、横浜のあとにどういう感情になるのかは楽しみでもあります。
――1・26後楽園ホールで石川修司選手を相手に防衛を果たしたあと、3・20後楽園での相手を絞り切れず1ヵ月の猶予を与えられました。その時は頭の中に10人ほど候補がいると言っていましたが、高梨選手と決めるまで迷いはあったんでしょうか。
クリス 本当のことを言うと、最初から選択肢はタカナシサンしかなかったよ。ただ、DDTとしてはアニバーサリーの大会だし、会社全体のことも考えるとほかの選択肢も考えた方がいいのかなという思いもあって、あの場では明言しなかった。だけど、このタイミングでチャンピオンは自分だし、そのチャンピオンの正直な気持ちに従ったら答えはやはりタカナシサンしかなかったです。加えて、以前に健さんのインタビューを受けた時にタケシタからのメッセージを伝えてくれたよね?
――「チャンピオンは、初戴冠の時は務めることで一杯いっぱいになるけど、2度目から自分の描くチャンピオン像を築けるようになる」というKONOSUKE TAKESHITA選手自身の経験を踏まえた言葉ですね。
クリス そう、それを思い出したんだ。今なら自分らしさであったり、自分の思い描くチャンピオン像をクリエイトしていくことだったりが、いろいろな選択肢を考えることよりも優先されるべきだなって。たとえばHARASHIMAサンという選択肢もあっただろう。でも、自分らしさを貫くという発想にいたった結果、タカナシサンをチャレンジャーに指名させていただきました。
――初戴冠時にもあのまま保持を続けたら、どこかのタイミングでベルトを懸けて高梨選手と、という考えはあったんでしょうか。
クリス それはベルトを獲った当初から頭の中にあったんだけど、そのタイミングでタカナシサンの20周年記念大会があって、シングルマッチをやることになった。
――2023年9月19日、新宿FACEですね(24分7秒、プレイングマンティスボムでクリスの勝利)。
クリス あの試合はタイトルマッチとなんら変わらない意気込みで臨んだこともあったので、そこでタカナシサンとシングルでやれたという実感は得られたんだ。あの頃は、防衛戦前後の試合はどれもがタイトルマッチのような気持ちで臨んでいた気がする。だから、タカナシサンとの試合も、実質的にはタイトルマッチをやった感覚だよね。
――高梨選手としては団体の28周年記念大会での最高峰挑戦となります。クリス選手と1対1でやることと比べて、現時点ではどちらのウエートが大きいですか。
高梨 28周年の重みはもちろんありますし、団体として大きくなり、変わり続ける中でその責任も増えていっているのかもしれないですけど自分の中では、でもDDTだよね?っていうのがあります。ずっと積み重ねて一年の中の1ページというイメージなんですよね。自分は旗揚げから6年目ぐらいに入って、7周年ぐらいの時には出ていた。そこから見続けた自分としての位置づけで。クリスが2度目の戴冠で自分らしさに従ったと言っていたけど、チャレンジャーとしての“らしさ”という点で言ったら、このシチュエーションは僕らしいなと思っていて。初めて無差別級に挑戦した時は、ランブル戦で次期挑戦者を決めるというゲーム性の強いものの中でたまたま勝ち獲っちゃったと言ったら言い方が悪いですけど、そういう感じで関本大介選手に挑戦して、その次はじゃんけんだったり、その次はいつでもどこでも挑戦権だったりで、チャンピオンに直接勝って挑戦するとか、挑戦者決定戦を制してチャンスをつかむとか、そういう通常の手順を踏まずに挑んだものばかりなんですよね。
――DDT総選挙で1位になった時もリング上の勝敗によってという形とは違いました。
高梨 実力で得たのではなく、その状況が来るというのが挑戦者・高梨将弘なんです。今回も、クリスの指名によって挑戦するわけで形は違えどもまさしくそれじゃないですか。これは昔、話したと思うけどいつチャンスが来るかなんていうのはわからないから、常に備えておかなきゃいけない。DDTで何年もやっている中でその時に向けての心構えはできていなければならない。それは、クリスがチャンピオンになったら指名してくれるかなと思っているのでなくて、いつか自分にそういう時が来るのは今まで経験してきたからわかっている。その準備はできているから、慌てることもないしこうして話をすることもできるし。うん、どちらが重いかと言ったら、クリスとやることは確かに重いけど、それ以上に重さに潰されることはない。それは、DDTでの20数年間の中で俺にはこれがあるということを信じてやってきたからであって。
――日々の会話の中でも「このベルトを懸けてやりたいね」という話は出てこないものなんですか。
高梨 そういう話はしないですね。するのはタッグチームの話ばかり。DDTに限らず他団体でもあそこのチャンピオンが変わったよとか、あのチームが面白い、やってみたいねというようなことが多い。
クリス 一緒にいる時はタッグチームとしての話ばかりだから、自分たちがシングルマッチで当たったらという話題はなかった。だからタカナシサンの20周年で初めて一騎打ちをやった時も、そこは“言わずもがな”だったよね。我々がシングルマッチで向かい合うことの特別さは常にあるものだし、特に自分がチャンピオンになってからはタイトルマッチという形は常に頭の片隅にあるけど、それを口にすることはなく来た。ただ先日、昔のBAKA GAIJINを見返していたら、タカナシサンとドリュー(パーカー)の試合があって。自分がプロモーターとしてあの試合を組んだにもかかわらず「ズルいよ! 俺もタカナシサンとこういう試合がしたい」と勝手にジェラシーを感じてんの。そうか、俺はタカナシサンとこういうプロレスをやりたいんだって頭をよぎったことは正直、ありました。だから…前回の一騎打ちもそうだったんだけど、やりたいというよりはやるべきだという共通の確信としてそのタイミングが来た時、実現するものなんだと思う。それが20周年大会だったし、タカナシサンにとって特別な人が何人かいる中であの時はKUDOさんがリングを離れていたというタイミングだったから僕らでやるべきだと思えたし。今回もDDTのアニバーサリーというタイミングで自分がチャンピオンで対戦したい相手を選べるシチュエーションでやるべき相手といったら、答えは決まっている。
――望まなくともしかるべきタイミングでそれは訪れると。
クリス そうそう。
高梨 やるべきタイミングだとは僕も思います。ただクリスの横にいると、そのタイミングはなるべく来てほしくないから、このタイトルマッチが終わったら「次はマサの引退試合でお願いします」って言われたいぐらいで。自分の20周年の時や、今回のクリスがタイトルを持っていて僕がチョイスしてもらってというタイミングは訪れたけれども、それぐらいもうないだろうというものにしたい。
クリス そうだよね。だから初めてのシングルマッチから1年半で2度目が訪れることに僕はビックリしているよ。だって、初めて現実になるまで4年かかったんだよ!? タカナシサンが言ったような次回は引退試合の時と考えるぐらい長いスパンを想定していたし、それ相応のレアな機会なのに、それがこんなにも早く訪れるとはね。
高梨 レアなものであるのは変わらないのにね。
クリス 日本に来て初めてタカナシサンと対戦したのが4WAYタッグ戦で(2019年12月8日、大阪・すみのえ舞昆ホール。クリス&ゆにvs彰人&勝俣vs大鷲&平田vs高梨&アントン)、あの時は試合で一切触れることもなく、なんならタカナシサンが入場してくる時に僕は客席に入って紙テープを投げていたからね。だから、次の前哨戦が実質2回目。レアだよねー。DDTってけっこうユニット同士の対戦が組まれるから、こういうケースは珍しいと思う。それを頭に入れた上で見てほしいよね。
夏休みが終わらないために
プロレスを頑張っている
――2度目のKO-D無差別級王者となったクリスを至近距離から見ていてどのように映っていますか。
高梨 チャンピオンになるタイミングというよりも、あの病気(腹部腫瘍摘出)を経験して変わったなと思いました。だから、変化はベルトを獲るよりも前から始まっていたんです。本人の中では、イギリスでオリジナルのSCHADENFREUDEをやっていた時が第1章だとするなら、日本に移ってからが第2章なのかもしれないけど、DDTの中で言うと変わったタイミングはそこだった。ネガティブな部分やナーヴァスになる部分が以前は多かったのが、開き直るとはたぶん違くて言葉で表現しづらいんですけど、やれるものはすべてやろうというマインドに変わったなと思って。最初にベルトを巻く前はDDTで人気が上がってきたり、実績としてもタイトルを獲ったりしているけど、最高峰のベルトやDDTの本当のトップには届かなくて、イギリスへ一緒にいった時に「俺はDDTのトップに立てないかもしれないな」というようなことを口にしたこともあったんです。でもクリスが、今ある人生を楽しもうとすべての在ることを受け入れたことで…なんだろう、強くなったと表現するのも違うんだよな。なんだろう、これ? 週刊プロレスの「プロレスグランプリ」人気投票でも自分への投票を呼びかけていましたけど、目の前で起きた何かに対しても自分ができる今やりたいことをすべて出し切るように変わったんです。その結果が、ベルトを巻いているという今なんじゃないですかね。言動、試合、BAKA GAIJINの大会にしろ、なんにしろ。
――クリス選手がずっと日本にいる中で、ここまでの関係性を築けたのは高梨選手だけと思われます。もちろんほかにも大きな存在に当たる人はいると思われますが、この距離感は高梨選手とだけですよね。なぜ、それを築けたと思いますか。
クリス (日本語で)最初、DDTはたぶん何も考えていなかった。私たちも長いチームは考えていなかった。初めて組んだの、ナゴヤだったよね?(2019年6月16日) その時DDTは(クリスと高梨が組む)意味はない。あの時、酒呑童子は…。
高梨 活動休止になって、たまたまそのタイミングで自分は空いていたって言ったらおかしいですけど。そのあと、大田区総合体育館でムーンライトエクスプレス(MAO&マイク・ベイリー)の対戦相手として自分たちだったんですけど、その時点ではDDTが創ったユニットじゃなくてクリス・ブルックスともう一人という立ち位置で。酒呑が活動休止していたから自分だっただけであって、だれが入ってもおかしくなかったんです。でも、それがあってクリスに「今度のビッグショーでも組むからよろしくね」と話した時…名古屋のあとだったんですけど、せっかくだからタッグチーム名を決めようとなって。
クリス (日本語で)X(旧ツイッター)に写真あげて、僕たちはそのツアー、まだ一緒に何試合かやる、みんな、どんなチーム名がいい?って言ったら、誰かが「イギリスの時はCCK(CALAMARI CATCH KINGS)をやっていたからCDKがいいんじゃない?」って。それ、いい感じね、それにしよっかなーって。(ここから英語)長く続いた理由としては、たとえばウエノやMAOとも僕は仲がいい。彼らとは共感する部分もあれば、そうでもないところもある。ウエノはもともと生粋のプロレス好きというわけじゃなくて、タケシタを見てプロレスに目覚めた男だから、DDTを大きくしようという共通の目標はあれどプロレス感はちょっと違ったりする。MAOもいかに自分らしさを発揮して、より広い層に訴えかけられるかというプロレス観でやっているよね。そのクリエイティブで楽しいことやろうとするのはBAKA GAIJINでも共通してやっていることだけど、必ずしもすべてのプロレスが合致しているわけでもない。そういう意味では、タカナシサンと一番共感する部分が多くて。僕は「ナツヤスミ」っていう言葉を使うんだけど、プロレスを仕事としてとらえているフシがあまりなくてね、いかに自分たちが恵まれていて幸せかっていう。職業がプロレスであることを他人に言うのが申し訳なくなるほどにプロレスが楽しいんだ。休みが取れる日であっても、オファーが来たら入れちゃう。一時期、ユニとゴールドジムで一緒にトレーニングをしていて、彼が「もう夏休みが終わっちゃうから、来週から来られないんですよ」って言ったのを聞いた時に僕も夏休みがほしいなと思ったんだけど、待てよ、違うぞ。僕の人生、ずっと夏休みのようなものなんだってなった。週5で決められた仕事にいくこともなく、自分が大好きなプロレスを好きな時にやれるなんて、それこそが夏休みのような楽しさじゃないか。それによる恵まれて幸せだなという感覚を、もっとも共有できているのがタカナシサンだし、価値観の一致が感じられる。ここまで長く続いているのは、それがあるからなんだと思うよ。
高梨 お互い、これは人生のボーナスの時間。でも、夏休みもちゃんとやることをやっていなかったら終わっちゃうから。夏休みが終わらないためにプロレスを頑張っているっていう。みんな、それぞれの事情があって休業する中で、僕もクリスもプロレスから離れた生活が考えられない。プロレスを続けられるために、プロレスをやろうっていう話をよくします。プロレスやれなくなったら何をやっているかわからないから、いつも新宿で飲んでいることを考えるとゴールデン街で店構えてんじゃないのって話すんですけど。
クリス (日本語で)だからタケシタにいつもやさしくするよ。もしかして、私たちがお店やったらタケシタが来て、色紙にサインする。「ウチにはAEWのスターが来るんだ」って言えるね。
高梨 DDTのスターがいっぱい来るよ。
クリス (日本語で)今の二人、ビデオゲームが終わったあともまだゲームを続けるためのサイドクエストみたい。わがままはないよ。私、これやりたい!という感じじゃなくて、そのサイドクエストがすごく楽しい。世界のどこに楽しいプロレスがあるか、確認やりたい。だから台湾、シンガポール、ドイツ、どこでもダイジョーブ。最初、日本に来た時はそこまで考えていなかった。でも、そのチャンスが来た。台湾、面白いね。でも、ただ試合をやりたいだけじゃなくて、チョコプロやBAKA GAIJINを台湾でやりたい。そういうなんかヘンなことだけでモチベーションが上がる。
高梨 サブストーリーみたいな。
クリス (日本語で)そう、サブストーリー。いつもインタビューで「あなたの夢は?」という質問、来る。あんまりないな。プロレスによって人生、全部ありがたい。「その夢、まだやっていない。だから頑張ります!」みたいなの、ない。タカナシサンも同じでしょ? いつか新しい夢が来るのは楽しみ。それは、日本でずっとプロレスをやることだけど。
――クリス選手の場合は日本に来ることが夢だったので、来た時点で達成しているんですよね。
クリス メインストーリー、もう終わった、アハハーッ。
――でも、チャンピオンにもなれたし、アジアにもいけてBAKA GAIJINもできて、どんどん新しい夢が発露しては成就できています。
クリス (ここからは英語で)プロレスが楽しいからやっているっていうのは本音も本音で、おそらくCDKは世界中のプロレスラーの中で本音と建前が一番ない二人だと思っているんだ。生活のためにやらなきゃいけないというものでもないし、俺たちはこういう目標を掲げているんだ!みたいなことも言わないし、楽しいからやっている結果として、クリスとタカナシサンは世界のトップ20ぐらいに入るぐらい試合をしている、させてもらえている。楽しいからやっているという理由だけでプロレスがたくさんできるのは、もう本当に幸せなことだよね。
――最初の時点でチーム名をつけようとしたのですから、何かしらの感じるものがその時点であったんですかね。
高梨 いや、そこまでのものじゃなかったんですよ。本当に、夢とかチームとして何かをやろうというんじゃなくて、酒を飲んでいる中でせっかくだからチーム名つけない?ぐらいのノリでした。いつかヤンキー二丁拳銃(宮本裕向&木髙イサミ)や相方タッグ(日高郁人&藤田ミノル)、SOS(バナナ千賀&ツトム・オースギ)と対戦したいねーっていう会話の延長戦上なんです。何かの直感のようなものがあって、俺たちイケそうだからチーム名をつけよう、コスチュームも揃えようなんていうものじゃなかった。
――酒のツマミのようなオハナシ。
高梨 1回、2回組んだら組まれなくなる可能性だってあったのに、全部がハマっていって、さっきあげたチームとの対戦もすべて実現している。それでアジアドリームタッグのベルトを獲った時に、せっかくアジアの名がついているタイトルなんだからCDKでアジアツアーをやりたいね、それじゃあ俺がフィリピンに連絡できるからって言ったらクリスはヨーロッパにこういうのがあるからという話になって。酒を飲みながらあれ楽しいよね、面白いよねと言っていたことが次々と現実になっていくだけという感覚なんです。
――続けることで生じるストレスがないのは大きいと思います。
高梨 プロレス業界はレジェンドがいれば新しい選手も出てくるじゃないですか。そうなると今度は、その選手たちと闘いたいねってなる。お互いプロレスが好きだから、あのチームは最近どう?っていう会話が楽しいし、対戦が実現したらもっと楽しい。
この試合にテーマをつけるのは
蛇足、不純なものであり、ノイズ
――そういう楽しさとはまったく違うシチュエーションが今回の1対1です。
クリス これは失礼に聞こえるかもしれないけど、今回に限ってはファンに何かを伝えたいという意識はないんだ。なぜなら、その日は僕とタカナシサンの特別な一日であり、特別な試合だから。申し訳ないけど、自分たちのことに集中させてもらう。ただ、そういう割り切った考え方ができるのは僕とタカナシサンとの関係性、ストーリー性があるからで、通常の対戦相手より仲がいいからこそ思い切り殴れるところもあるし、お互いに対して恥じないよう全力で来るのもわかっているから、結果としてお客さんに伝わるものは伝わるだろうね。それはタカナシサンへの信頼性もあるし、僕とタカナシサンを見続けてきてくれたお客さんへの信頼もあるから、安心して僕は何かを伝えようという考え方をすることなく、タカナシサンとの試合に集中できると思っています。
――テーマ不要というか、テーマがなくても成立するでしょう。
クリス テーマをつけようとしたら、この試合に関しては蛇足でしかないよ。よけいというか、不純なものになってしまう。DDT28周年記念大会でCDKがぶつかる…それだけで十分だし、それ以上のものはノイズのようなものだね。
高梨 自分の場合はテーマがあったり対立概念であったり、DDTという会社に向けての意思表示であったりという中でやってきたのが、ある意味丸裸にされるわけです。その意味では、シンドいはずなんですよ。本当に今あるもので勝負しなければならないわけですから。でも、どんなに自分がダメだったとしてもクリスだったらいいかなという部分もあって。それは、クリスだからいいやじゃなくて、クリスだったら受け入れられるという意味です。DDTの今のファンにどう届けるかっていうものもあるかもしれないですけど、長くやっているから見ている人たちによっては見え方が全部違うんですよね。昔からのファンからすれば高梨まだやってんだ、こんなすごいチャンピオンとチャレンジャーとして闘えるようなことをやっているのかと見えるかもしれないし、新しいお客さんからすればクリスのパートナーの人っていうイメージかもしれない。だけど今回はそれを意識することなく、今あるものでクリス・ブルックスvs高梨将弘というものを見せたいので、その上で受け取る側がこの試合の定義づけをしてくれたらそれでいい。こう見ろ!っていうものは何もないです。
――一方で、このキャリアと年齢で団体最高峰のタイトルに挑戦する場を得たことに対しての思いはどんなものになるでしょう。
高梨 さっきも言った通り、自分は第三者的な力が作用して今まで挑戦してきましたけど、その中で備えてきたし、いつかこういう日が来るという意識でやってきたから恐怖心のようなものはないですね。キャリアって言われましたけど、自分よりも上の方たちもいらっしゃいますから。この前、HARASHIMAさんとちょっと話した時に「まだまだDDTで一花を咲かせたいよ!」と言われて、そういう人たちが上にいてくれたりする。それによって自分もベテランなんで…って引くつもりもないですし。1月22日、42歳の誕生日に好きな選手と対戦したいと思って、佐々木貴さん(プロレスリングFREEDOMS)とシングルマッチでやらせていただいたんです。貴さんはデビュー戦の前にエキシビションのような形でやっているんですけど、久しぶりの対戦で完敗した時に、自分がデビューした頃はKO-D無差別級チャンピオンを務めながら船橋のららぽーとに毎日早く来て僕らの練習を見てくれていた貴さんが今もこうやって強くいてくれていることに対して、まだまだ追っかけていかなきゃいけないなって思って「もう一回、KO-D無差別級のベルトを巻いて貴さんとやります」って言ったんです。そういうタイミングなんだなっていうのがあります。
――勝ってベルトを巻かなければならない理由があるんですね。
高梨 いろいろな理由がある中で一番目にパッと出てくるのがそれです。あそこでそういう気持ちが湧いたから、クリスが自分を指名してくれた時に動じることなく、ベルトを獲ってやるという気持ちで闘えるところはありますね。
――極めて個人的な価値観の上で組まれる試合であったとしても、DDTのファンはとても期待が持てる一戦です。
クリス 通常のタイトルマッチだったら、全力で頑張ります!とか相手を倒しますというようなことを言うだろうけど、自分たちがタッグチームとしてどれだけ全力で素晴らしいプロレスを高い頻度でやってきているか、ファンは見てくれていると思うので、そんな二人が対戦するとなったら全力でいくという認識はされていると思うし、僕らは対戦することで掛け算になると思っているので、そこに言葉は必要ないだろう。むしろCDKとして日々頑張ってきた努力とその事実が、このタイトルマッチに対する期待感を高めることになっていると思うから、そこを含めての期待度だと思うよ。そうだ、ROMANCE DAWNと対戦して、試合前にも後にも思ったことがあった。僕はROMANCE DAWNっていうチームが好きなんだけど、そんなチームを相手にしても僕らのタッグ力は本当に今、世界一だと思うし、それこそ目をつむって試合をしても、一番調子の悪い日でも世界一なんじゃないかっていうぐらい自分たちに自信を持っているんだ。でも、それも“言わずものがな”だから、俺たちが一番だ!みたいなことをわざわざアナウンスするつもりもないしアピールする必要もない。今回の試合に関してもすべてが“言わずもがな”さ。タカナシサンにベルトをほしがる理由があるのもわかっているし、僕はタカナシサンがベルトを持ったらそれはそれで喜べると思っている。試合前に「マサ、ベルトがほしいなら全力で来いよ!」みたいなことを言わなくても全力で来るのもわかっている。チャンピオンとして、タイトルマッチを前にこんなことを言っちゃいけないのかもしれないけど、試合が終わってどちらがベルトを持っていても同じぐらいに嬉しいから、このベルトを絶対に防衛することが試合のフォーカスではないんだ。そう、CDKとして試合をして、そこで素晴らしいものをお客さんに見せる。結果は結果だけど、防衛することが一番のモチベーションじゃない。
――そこまでハッキリ言われると真実味があります。
クリス この大きな舞台で、CDK同士で試合をすることが最大のモチベーションなんだ。そして、ファンの人たちもすべてにおいて“言わずもがな”で見てくれる。
――高梨選手、酒呑童子が活動休止になって先が見えなかった中で、クリス選手と出逢えてよかったですね。
高梨 そうですね…でもなんか、運命論ではないんですけどそういうアレだったんだろうなって。結果、俺にとってもよかったし、クリスにとってもよかったものになると思っているんで。
クリス 今までの僕は、常にタッグパートナーの理由によって終わっていた。みんな去っていって、僕はその先の展開を待つ方だったんだけど、日本に来てCDKをやることが初めて自分で動いて始まったものだったんだ。Internationalじゃない方のSCHADENFREUDEやCCKというチームがあったにもかかわらず、それを自分で手放して、求めた新天地だった。長くやっているといがみ合うじゃないけど、お互いの顔を見るのも疲れるようなことは過去にあった中で、CDKは一番長いにもかかわらずお互いのことが嫌になることもなく、すごく幸せにやれている。初めて自分が置いていかれる側じゃなくて、自分から新しいものを求めた先でこれだけうまいことやれているっていうのは、やっぱり特別な何かなんじゃないかな。自分にとっての“特別”を、タカナシサンにとっても“特別”を、見てくれるあなたたちにとっての“特別”にしてほしいんだ。
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