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映画『俺たち文化系プロレスDDT』松江哲明&マッスル坂井両監督インタビュー

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    • 『フラッシュバックメモリーズ3D』以来4年ぶりの映画作品となるドキュメンタリー監督・松江哲明と、『劇場版プロレスキャノンボール2014』を総監督したマッスル坂井によるダブル監督作品、映画『俺たち文化系プロレスDDT』が11月26日(土)より公開。DDTオフィシャルサイトでは劇場公開に先駆けて、両監督にインタビューを実施。本作の意気込みをたっぷり語っていただきました。

      ――今回の作品ができ上がってみていかがでしょうか。
      松江 結構普遍的なものにしたいなと思っていたんですけど、坂井さんとは約10年前に出会って、その時、僕はマッスルを見て面白くて感動してて。あの時の坂井さんも僕も今は状況が違うわけですよ。僕も39歳になって子供がいて、坂井さんはお子さんが2人いらっしゃって、新潟に帰っていて。出会った時とは違う人生を10年後は歩んでいて。やっている表現とかも変わらなくちゃいけないとか、そういった40手前の自分の心情が意外と出たなと。
      ――主演のメンバーもほぼ同世代で、世代的なものや年齢が結果的に反映された。
      松江 そうですね。最初に高木(三四郎)さんからは「DDTのドキュメンタリーを」と言われていたんですけど、そこの記録だけでは映画になりにくかったので。自分にとっての映画ってなんだろうとなった時に、こういう構成になったと思います。
      坂井 理想のプロレスがこの映画です。松江クンが言う映画っていうのを、そっくりそのままプロレスに置き換えたというのが、僕の感情で。僕は人生のこういう部分をプロレスに見ているし、プロレスを通していろんな人の人生とか思いみたいなものを見てほしかったんです。プロレスだけでなかなか伝えられないんですけど、#大家帝国主催興行のメインイベントを見ていたときに感情が高まる部分と、興奮してアドレナリンが出てる部分と、どこか引いて客観的・俯瞰的に見ている部分、それは「大家がここまできたか」「俺の最初のエキシビションの相手がHARASHIMAさんだったなあ」「俺、HARASHIMAさんにプロレスを教えてもらったんだよなあ」「いつも傍にディーノがいたな」「でもそれは全部、高木さんがこういう場を作ってくれたんだよなあ」とか、「そういうのをずっと見てきてくれたお客さんと、この瞬間を共有できて嬉しいな」という気持ちがあったり。でも俺からは棚橋さんとか小松さんの気持ちまではよくわからない部分があったけど、そこを映画でフラットに描く必要はないと思っていて。あくまで僕らの目線、ドキュメンタリーは主観的であっていいというか「この時、棚橋はこう思っていた」というのはなくていいと思っていて。マッスルでスローモーションをやった時って、葉加瀬太郎の『エトピリカ』が流れて、それまでの回想シーンが流れてましたけど、その完成形がこの映画なのかなって。


      ――今までやってきた表現方法が、スローモーションや音楽や回想シーンを流すというのが、作品として結実したのがこの映画だったと。
      坂井 大家がB'zの『BAD COMMUNICATION』で入場してくるけど、意外とその瞬間は自分は冷静で。自分自身は試合を終えてこれから起こることに対してこれで全部終わってしまうかもしれないという不安もあったり、棚橋さんと準備した仕掛けがあったりとかドキドキや、本当にいろんな気持ちもあるんですけど、意外とレスラーというのは冷静なんです。B'zの『BAD COMMUNICATION』で入ってきているんだけど、実際、俺たちの脳内ではジム・オルークさんのああいうギターが流れてるんですよ。
      ――ガンガンにテンションを上げていくよりはリラックスしている?
      坂井 リラックスしていればしているほど、テンションを上げたノリノリのプロレスができるんですよ。本当にテンションが上がっていたら、ガチガチになりますから。やっとわかりました。リラックスしたほうが集中力が上がるって。
      ――ようやく?
      坂井 ガンガンにテンションを上げて緊張感を高めて、集中するもんだと思っていたんですけど、去年あたりからそうじゃないと気づきました。
      ――今回、松江監督が入ったことでプロレス映画に変化はありましたか。
      坂井 今までのプロレス映画あるあるみたいなとはちょっと違いますね。プロレスのドキュメンタリーって道場で汗水流してやる練習とか…。
      松江 そういう素材もあるはあったんですよ。
      坂井 でも俺がビッグマッチになればなるほど練習できないんですよ。今回「あえてトレーニングを抜く」という。体が大きいからフィジカルに頼った試合をしてしまって、そうすると結果的に満足感が得られないんですよ。お客さんに「プロレスに逃げてんじゃねえよ」って言われるし。

      ――もともとは長くドキュメンタリーとして撮りためていたものが、結果的に昨年の両国大会の棚橋vsHARASHIMA戦と、そのあとの出来事に特化していった。
      坂井 両国も#大家帝国も興行はサムライTVでもやってるし、DVDも出てるし、新日本プロレスワールドでも見れるけど、それはあくまで現場で起こったことの記録で。この映画は…最近拡張現実ってあるじゃないですか。AR。いろいろな情報がレイヤーで加えれている、それに近い感じですよね。
      ――両国の試合や#大家帝国主催興行はすでにいろんな媒体で公開されてますが、私たちの見てない部分もあるわけで、それを映画にしていった?
      松江 例えば両国の試合とかって中継用のカメラなんですよ。編集の仕方を中継で見せるようなものでなくて、前後の余韻だったり、「棚橋さん、ここできたかな」みたいな顔とか、戸惑っているHARASHIMAさんの顔だったり、あとから気づくアングルっていうのがあるんです。例えば大家帝国の伏線になっているのはここじゃないか、とか。撮っている時は気づかないけど、このフレームに坂井さんが入ってきた時に、この表情にドラマがあるとか。そこを見つけていくのが、映画の仕事なんです。映像の一つ一つに意味があるから、それを探してって、お客さんに伝えてあげる。そのバランスですよね。中継している時とかDVDとかの記録ではたぶん気づかないかもしれない。
      坂井 だから試合にはいい実況と解説が入っているんですけど、映画ではあえてオフにしました。

      ――11月26日から一般公開されるので、こういうところを見てほしいというのがあればお願いします。
      坂井 俺は作ってて思ったのが…大家健が好きなんだなっていうことですね。前作から続く、この大家健クロニクル第2章を見てほしいですよ。
      松江 次は絶対に大家さんが主演の映画を作るべきですよ。
      坂井 そうですね。大家が自分で監督すべきですね。


      ――自分で?
      坂井 いや、高木三四郎が監督すべきだな。
      ――坂井監督はやらないんですよね。
      坂井 自分は…やらないですね。
      松江 映画の公開作が4年ぶりで、最近はテレビで変化球というかフェイクの強いものをやってて、アッパー系の若い人向けに作るドキュメンタリーだったんですよ。でも久しぶりに映画をやるとなると、自分の気持ちに正直になるなと思って。やっぱ直球しか映画の表現は向かないんだなと。
      坂井 だから大家ってハマるんでしょうね。
      松江 大家さんみたいな現在進行形で闘っている人にカメラが向いちゃうんですよ。
      坂井 結局、人が大きな声でワーワーとしゃべっているところって見ちゃうんですよ。
      松江 最初の構成として飯伏さんとか坂口さんやKUDOさんとか、そういう人たちの映画にもなるかなという可能性もあったんですけど、結局、素材として残っちゃうのが大家さん。ドキュメンタリーの被写体としてやっぱり大家さんなんですね。人間力です。隠し事してない部分が滲み出ちゃってるんですよ。こう見せようじゃなくて、こう出ちゃってるみたいな。

      ――でも大家選手もカッコよく見せたいんですよね。
      坂井 浅はかなところが透けて見えるんです。
      松江 大家さんはカメラを引っ張る力があるんですよね。
      坂井 飯伏とかはTVスターなんですけど、大家はムービースターというか裸電球、蛍光灯というか下北沢の街灯というか。LEDがいらない感じですから。

      ――スーパースターとは違う。
      坂井 アイツは車寅次郎なのかもしれないですね。初期の森﨑東監督時代の車寅次郎。立ちションもすれば、妹を売ろうとする。
      松江 テレビバージョンの。
      坂井 完全なヤ●ザ時代のトラさんに近いですね。
      松江 今回の作品をここまで上げてくれたのは編集の今井(大介)さんなんですけど、その今井さんが「今回は大家さんが奇跡だった」と。大家さんが軸だったと言ってたので。やっぱ僕はDDT制作第3弾映画の主演は大家さんで作ってほしいですね。


      「俺たち文化系プロレスDDT」http://liveviewing.jp/contents/obpw2016/
      11月26日(土)、新宿バルト9ほかで上映

      2015年、秋。後楽園ホールにて、文化系プロレスラー大家健、HARASHIMA対プロレス界100年に1人の逸材と呼ばれる棚橋弘至、小松洋平の試合が行われた。彼らの試合を準備したのはマッスル坂井。それぞれが異なる目的を抱えたままリングに上がり、戦う姿をカメラは追う。そこで浮かび上がるのは長年に渡る文化系レスラーたちの友情物語。はたしてプロレスで物事は解決するのか。やはりそんな訳はないのか。大人になりきれない男たちのイタくてちょっと切ない青春ドキュメント。

      【キャスト・スタッフ】
      大家健、HARASHIMA、男色ディーノ、高木三四郎、KUDO、アントーニオ本多、棚橋弘至、小松洋平

      監督:マッスル坂井、松江哲明
      制作総指揮:高木三四郎
      撮影:今成夢人
      編集:今井大介
      整音:山本タカアキ
      音楽:ジム・オルーク

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